表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
53/147

わかんないんだってば


異世界へようこそと、竜王は言った。


VAFはいつからVRゲームになった? リアルエチカと、朽ちていく鬼の姿を前にしても、俺はまだ半信半疑だった。あるいは夢と言われた方がまだ説得力があったろう。


どこに向かうのか知らされないまま、俺たち三人は移動を始めた。心なしか気温が下がった気がする。薄暗い森を抜けても、俺の知る景色はどこにもなかった。


いや、俺の記憶の中に近いものはあった。森を抜けた先、両腕を広げるように並び立つ大木が、道の先に控えている。紅に近い色の花弁が宙を舞い、目を驚かす。手に取ると、ガラスのような無機質な質感。俺が知る桜とは似て非なる花だ。なのに無性に懐かしく、涙が出そうになった。


「ここからはリョクメイ国。千本桜のテリトリーだね」


竜王が確認するように口にすると、エチカはフード被り、足取りを早めた。二人は先を急いでいた。この先に何があるのだろう。一つはっきりしているのは二人に置いていかれたら、俺はどうすることもできないということだ。


全力で後を追ったが、どうしたわけか一向に距離は縮まらない。二人は早足になっただけだと思うが、俺が全力で駆けても追いつけない。これでもフルマラソンの経験があるのだ。あいつらの身体能力が高いだけで、決して俺の体力が劣っているわけではないと思いたい。


「ち、ちょっと待ってくれ」


俺が息を切らして休憩を求めると、二人は同時に振り返った。エチカだけが俺の所まで戻ってきてくれたが、竜王は素っ気ない言葉をかけるだけだった。


「急いでるから早くして」


寛容な俺でも、さすがに頭に来る。困っていたあいつに手を差し伸べたのは俺だったはずだ。それを忘れたのか恩知らず。


年上らしく竜王をたしなめるつもりが、それどころではなくなった。


少し離れた場所にある桜の根本に、若い男が二人立っていた。二人とも白い学ランのようなものを着ており、腰には日本刀のようなものを帯びている。


彼らは目が合った俺に友好的でない視線を投げかけつつ、ひそひそ話をしている。


エチカが俺を早く移動させたがる。足は重いが、動かないと禄でもないことに巻き込まれることだけはわかった。


「おい、そこのお前。ちょっと待て」


白ランの一人が、出し抜けに俺を呼び止めた。二人の顔だちはよく似ている。双子かもしれない。近くで見たら、俺より年下に見える。二人とも襟には桜の花弁に似たピンバッジをつけていた。


「見ない冒険者だな。ここで何やってる」


偉そうな物言いだが、今の俺に何ら身分を証明するものがないのは痛い。空元気を出すのがせいぜいだ。


「用がないからといって、往来を歩けないと言うのか。それに冒険者って何だ」


二人は顔を見合わせにやにやしている。それからこれまで喋らなかった方が、俺の左手を指した。俺の左手首には、つけた覚えのない腕時計のようなものが巻かれていた。何だ、これは。


「FGをつけてるだろ? 我々は付近の治安を任されている。怪しい奴を野放しにしてはおけない」


二人は笑顔を消し、刀の柄に手をかける。型に乗っ取った無駄のない動きだ。戦うまでもなくわかる。こいつらは強い。


二人の持つのが仮に真剣でなくとも、戦う気が失せていただろう。


「あーあ、弱い犬に限ってよく吠えるよねぇ」


竜王が頭の後ろに手をやりながら、俺の隣に立った。だいぶ離れた場所にいたはずだが、いつの間に移動したのかわからなかった。


双子の片割れが、油断なく竜王を見据える。


「聞き間違いかな。犬って言った?」


「みーんな、言ってるよ。千本桜は市中をはい回る犬だってさ」


エチカが、双子の目の前の空間を断ち割るように斧を叩きつける。


竜王の言葉は、ギリギリ保たれていた均衡を破った。正確には先手を取ったのはエチカだが、これで戦いは不可避となった。


「ありがたい。先に手を出してくれて。しょっぴく理由ができたわけだ」


不意打ちにも動じず、二人は悠々と刀を抜く。相当な場数を踏んでいると思わせた。


俺は竜王の脇に抱えられ、猛スピードでその場から離れつつあった。


「おいっ! エチカを置いていく気か」


「ああ、大丈夫。あの子、悪運強いし。適当に相手して追いついてくるよ」


なんなんだ、こいつら。俺がおかしいみたいじゃないか。


桜並木を抜けた当たりで、俺は地面に降りた。エチカの陽動がなければ、怪我どころでは済まなかったかもしれない。平然と命のやり取りをする竜王たちに、戦慄を覚えずにはいられなかった。


「お前らは、何者なんだ」


竜王が時を惜しむような目で振り返ると、俺は一歩後ずさった。


「私たちは冒険者。国やギルドに所属し、生計を立てる。さっきの人たちは敵対してるギルドの構成員」


早口でそれだけ言うと、竜王はまた前を向いた。


「それだけで納得しろと? 俺が聞きたいのはもっと具体的な」


「私にも、わかんないんだってば!」


神経質な叫び声は、竜王のものとは思えなかった。


年の割に冷静だと思っていたが、それは俺の誤解だった。竜王は年相応な部分を押し殺し、この理不尽な境遇に抗っていたのだ。


「……、怒鳴ってごめん。暗くなる前に着きたいから」


それから町に着くまで、竜王は一度も振り返ることがなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ