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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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孤高の二人 其の二



VAFでは、3Dグラフィックのアバターがゲーム世界を駆け回る。一つ難点があるとすれば、プレイヤーはアバターの種類を選択できないことだ。つまり、ゲーム開始時にランダムに選ばれたアバターをずっと使い続けなければならない。気に入らなくてリセットしても端末情報を登録するので無意味だ。アバターを押しつける理由を運営会社は一切説明していない。全世界で五億人以上といわれるプレイヤー一人一人に個別のアバターを用意するのは不可能に思えるが、色違いなどこすい真似をせずに手の込んだキャラ造形を用意する運営の意気込みにプレイヤー達は熱狂したものである。


とはいえ、自分好みのキャラメイキングができない不満は容易に解消できない。俺は不本意な姿でプレイを強いられていたのだが、あいつはどうだったのだろう。


黒いフード付きのコートの裾はぼろぼろだった。小柄な体を守るには幾分頼りない装備だ。エチカと名乗ったその少女はしばらく草を引っこ抜いて集めていた。前言通り、俺の存在を放逐するつもりらしい。


「……、まだいたの」


エチカは迷惑そうに振り向いた。

俺は五分ほどエチカの背後にいて様子を見守っていた。女子一人取り残すのを、気が咎めたのだ。


「誰かが見張らないと危ないだろ」


「頼んでないし」


エチカの言うとおりだ。恩着せがましいたかり屋と思われただろうな。


「草を横取りしようってわけじゃない。エチカは一人か? よくここまで来れたな」


ここまでチャット機能を使ってエチカと対話している。文章だけでは正確な人となりは計りづらい。けなげな容姿をしているが、相手プレイヤーの素性は全く知れないのだ。むやみに検索するのはマナー違反だから、金髪ロリと一時の逢瀬を楽しむつもりでいた。


「一人でいちゃ悪いの?」


警戒心が強そうな割に、逐一返信してくれる。無視することもできるはずだが、素直な気性が伺える。


「いや、俺も一人で行動することが多いから、親近感が沸いて話しかけてしまった。邪魔をしたな」


別れを告げようとした時、俺は危険を察知した。


画面の右隅に簡易マップが表示してあり、敵モンスターのアイコンが接近していると判明した。赤いアイコンが二つ俺たちのいる場所に濁流のごとく押し寄せた。


「エチカ逃げろ!」


文字を打つのが間に合わず、俺は声を出して注意喚起した。いずれにしろ意味はないし、間に合わない。敵の接近を許し、不意打ちを食らった。


白いマシュマロのような体をしたトロールが棍棒を振り上げ、俺のアバターを殴打する。画面が一瞬赤く染まった。リアルタイムバトルのため、とっさの判断が生死をわける。


トロールは見た目は肥満体でうすのろだが、素早く俺を責め立てた。短剣持ちの俺はリーチが短く良い的だ。体力のゲージがみるみる減少する中、エチカから敵を引き離すため移動する。平原を出た所にある線路まで移動したあたりで力尽きた。


「おお、ショータ君、力尽きてしまうとは情けない。神官アテナが助けてあげるから感謝するのです。ぱふぱふぱふ……」


ゲームオーバーになるとアテナにぱふぱふしてもらい、夢のほこらで復活させてもらえる。夢のほこらは世界各地にある拠点のようなものだ。ぱふぱふは冒険者を復活させる儀式だ。画面が暗くなるので具体的に何をしているのかわからない。


不覚を取ったが、エチカは無事だろうか。ゲームを終えてもそればかりが気になった。


エチカとの出会いはそれだけで終わらなかった。何気なくゲーム内の街を歩いていると見覚えのある黒コートが建物の陰に突っ立っている。他人の空似かと思ったが、すれちがった俺の後をついてくる。振り返ると身を隠してしまうのだが、気配を感じる。


「不器用な奴だ」


建物の壁に向かって俺はそうつぶやいた。エチカは既に去った後だったが、ピュウイの葉だけが残されていた。面と向かって礼を言うのが恥ずかしいのか。礼などいらない。俺は俺のなすべき正義を実行したに過ぎないのだから。

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