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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
あの桜はまだ燃えているか 承前
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政情

 

 ニーベルンデン国内では、女王の対応に意見が割れている。


 チェスカルーヤはグラナダとの対話を続けるの一点ばりで、軍を動かすことを頑なに禁じていた。


 国内でも強い不満を持つのは、カンザス家から遠い弱小部族である。弱小といっても、チェスカルーヤが女王の座につくまでは権力をほしいままにしていた者たちだ。


 たとえば、王だった者が質屋に施しをし、次の日に別の首長に負けて身分が下がる。施したものを返してもらいに行くと、施した品は既に流れてしまった後だった。


 王と質屋は信用できないという意味の小話もあるくらいなのだ。ニーベルンデンにおいて、権力は常に不安定なものだった。言い換えれば敗者を迎え入れる懐の深さも彼らは持ち合わせている。


 そういった事情もあり、チェスカルーヤが王位につくまではある程度の秩序は保たれていた。ニーベルンデンにおいて強さこそ正義であり権威の象徴だったのだ。


 昨年先王が亡くなり、王位継承の取り決めがかわされることになった。継承のルール作りは、先代の王の家が取り決める決まりになっている。先代の氏族の子息は有利に立てるわけだが、その第一子が突然亡くなった。病死と発表されたが、不審な点も多々あった。先王には三人の子がいたが彼らも事故や病気で相次いで亡くなった。


 不幸は続いた。王に近い部族の首長や係累が連続で不審な死を遂げたのだ。その数は、一ヶ月で十五名にも及んだ。やがてカンザス家以外の部族の跡取りが継承戦の辞退を申し出た。カンザス家には全く犠牲者が出なかったため、誰もが怪しんだが、カンザス家から王を選ぶという決定が合議で定まった。


 カンザス家は継承戦が始まるまでは序列八位。首長のディドルートは不気味なほど無欲で、そもそも継承戦に参加するのかさえ怪しいものだった。そのため、彼に疑惑の目が向くことははなかった。


 黒い疑惑が沸き起こったのは、ディドルートの妹、チェスカルーヤが王に立候補した時だ。


 チェスカルーヤは昨年まで、東の大国ユミルの大学に留学していた。卒業後はぶらぶらしていたのだが、王の葬儀に参加するため帰国した。その際、彼女は女王蜂という得体の知れない冒険者を伴っていた。


  女王蜂は金融業で財をなした冒険者であり、現在、ギルドや国相手の情報コンサルタント、マテリアショップのチェーン展開と、商才を遺憾なく発揮している人物だった。


 女王蜂と名乗っているが性別は公にしておらず、その姿を見たものは少ない。イスカの蜂という大ギルドの頭目でありながら表舞台に一切姿を現さず、その正体は謎に包まれている。


 チェスカルーヤは女王蜂にそそのかされているのではないか? 折しも敵対国のグラナダは、ヒトコロス教団というギルドに権力を濫用されている。 


 陰謀説が囁かれる中、兄のディドルートが進退を発表した。


「王位は妹に譲る」


 慣例として長男が王位を継ぐ決まりだったが、ディドルートはたやすくそれを反故にした。


 見返りとしてなのか、妹は兄を将軍の地位につけて生かした。何もかも異例づくしの展開に誰もが驚いた。


 中でも一番動揺したのはカンザス家だ。カンザス家はこれまで王を輩出したことのない家系だった。寄らば大樹の陰といわんばかりに有力な家に縁故を作って生き延びてきた弱小な家柄に過ぎなかったのだ。


 それがいきなり頂点に君臨し、統治することになったのだから天地がひっくり返る程の衝撃だったに違いない。


 チェスカルーヤの動きは早かった。即位して間もなく、遊学時代のコネクションを駆使し、ユミルと経済同盟を結んだ。国内では、税制整え、首長が保有する領地からも税を取り立てるようにした(これまで首長が持つ資産は非課税)。


 これらの改革は、元来、保守的なアニメモたちの反感を買った。表向きたなぼたで王位についただけで、実力でのし上がったわけではないチェスカルーヤに対する風当たりは強い。


 仮にこれがディドルートだった場合、話は違っていただろう。ディドルートは先の戦争で勇猛果敢に戦い、敗れはしたものの殿を勤めて多数の命を救った。軍属を中心に、彼を信奉する者は多い。


 チェスカルーヤは当然、そうした反感に気づいているが、誰の顔色もうかがわず、我が道を突き進んでいる。改革解放路線に舵を切っているのは女王蜂の影響か、ユミルでの教育を受けたためか、ニーベルンデンは未曾有の変革の時を迎えようとしていた。


 そして、改革に邁進する女王の治世に暗い影を投げかけたのが、今回の亡命問題だった。


 他国から秘境とまで呼ばれるニーベルンデンに亡命を希望する者は少ないし、受け入れる数はもっと少ない。


 外界から来る冒険者が国籍を得るのは稀だし、仕事はギルドを介してか、フリーランスで受ければいいのだから亡命を希望するのにはよっぽどの理由がある。


 案の定、エチカは戦争の火種に成りうる存在だった。反改革派はそれに目をつけ、表だって女王の対応を批判し始めている。


 そもそも何故、縁もゆかりもない冒険者をチェスカルーヤは亡命者としてを受け入れたのか。カンザス家の総意としているが、女王蜂の意向が働いたというのが、反改革派の主張だった。チェスカルーヤはその批判に応える形で、女王蜂を国外退去処分にしている。理由は国に二人も女王はいらないというものだった。同時期にギルド、イスカの蜂がハテナイからも撤退し、国の政策には関与しない方針を明らかにした。


 女王蜂が去っても、反改革派の勢いは収まらず、チェスカルーヤの弱腰外交を非難し続けている。


 ニーベルンデンは、代々氏族の絆と圧倒的な武力で国を維持してきた。内外問わず、その信用が崩れるのは許せない。


 反改革派が保守的な国民感情を刺激することで、女王の影響力は日に日に弱まっている。


 それを証明する事件が、今まさに起ころうとしていた。

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