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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
あの桜はまだ燃えているか 承前
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感性の違い

FGにはSNSと同じ機能があり、画像や動画を載せて広範な第三者に情報を発信することが可能だ。


教団はクマ子を広報部長として据え、教団の活動を大体的にアピール、人材の勧誘に努めている。


ヒトコロス教団広報のブログが、冒険者の間で話題になっていた。


大量のお菓子をテーブルに並べた写真に、


「進軍中でーす。同僚の作ったお菓子を食べて元気を補給(^o^)/」というメッセージを添えている。悪名高い教団の話題とあって批判的な意見が殺到した。



犯罪者がリア充な件について。


人を殺して食べるお菓子は美味いですか?


遠足気分で戦争に向かう異常者。


今ならまだ間に合います。自首して罪を償ってぐださい。


etc…


クマ子が三十分前に投稿したトピックだが、発信者本人は無難な内容を選んだつもりである。にもかかわらず、いわゆる炎上状態に発展してしまっている。


一般的な感覚からすると、謝罪するのが正しいと思われるが、半グレ集団の彼らは違う。開き直り、一つ一つ反論し、火に油を注ぐ始末である。


「自分から首を差し出すって怖くないですか? 首をちゃんと落とせる人ってそんなにいないと思います。私ならワタを取り出すので確実ですよ」


ユイが眠っているクマ子の代わりにメッセージを投稿すると、瞬く間に反響があった。


「私の子供を返して下さい」


ユイ個人に対する呪詛が延々とメッセージ欄を埋め尽くす。ユイはその筋では有名なので名乗らなくても特定されてしまったらしい。


「心当たりがありすぎて困ってます。いろんな所で人さらいしているので。お子様を生きた状態でお返しできないのを心苦しく思います」


誠意のある解答を最後に、ユイはメッセージの投稿を止めて目を上げた。リヒターがユイの挙動に注目している。まるで、教師に内職を咎められる学生の気分だ。個人的なやりとりに熱中していたと思われたのなら、弁解の必要がある。


「これで全員揃ったのかな」


リヒターは、ユイなど眼中になかったように口を開いた。天幕の中にはリヒター、ユイ、ゲーテ、寝袋で休んでいるクマ子。外からアコーティオンの調べに乗せて陽気な歌が聞こえてくる。


「花菱がまだ来ておらぬ」


亀のゲーテが、上級幹部の招集に応じていない一人の名を上げた。教団の構成員は三百名を越えるが、A級以上の上級幹部はわずか六名に止まる。今回の作戦は上級幹部全員の参加が義務付けられていた。


ユイは所在なさそうに手を挙げ、遅刻の原因について釈明する。


「私の作品を一緒に運んでもらってるので遅れてるんだと思います」


「ユイ君の新作か。楽しみだな」


ユイは座ったままうつむいて、ありがとうございますと、消え入りそうな声を返した。


リヒターに真正面から見つめられると、とても見返す気が起きないといわんばかりにもじもじしている。どこか場違いな舞台に引っ張り出されて引け目を感じているいたいけな少女だと、ユイは相手に信じ込ませたい。


ユイの本心は異性からの目に無頓着である。自信のなさそうな少女を演じていれば、周りが勝手に解釈してくれて楽なのだ。ユイなりの処世術にほとんどの人間が騙された。


「遅れているのは、ユイのせいばかりではなさそうだがな。花菱の趣味が高じておらねばよいが」


ゲーテが懸念しているのは花菱の趣味、辻切りだ。


冒険者同士の決闘は表向き推奨されないが、各地で頻繁に行われている。中でも悪質なのは、何の理由もなく第三者を傷つける通り魔的行為だろう。花菱の場合、金銭目的でも私怨でもなく、ただ強い相手と戦いたいという欲求だけに根ざしているからたちが悪い。


出会ってしまったら最後、花菱が満足するまで相手は解放されない。ほとんどの場合、その遊戯は相手が命を落すまで続く。


「彼女も新作の調整で忙しいんだろうね。同じアーティストとしてユイ君とは気が合うのかな」


「冗談言わないで下さい。方向性がまるで違いますよ。あの人のガサツな感性と一緒にされては困ります」


毅然とした意志表示にリヒターは口を開けたまま固まった。ゲーテは手で目を覆う。クマ子はもぞもぞと寝返り打った。


ぼろが出た。猫を被るのは難しい。

ユイは感情的な反応を猛省し、その場にいた全員に何度も頭を下げた。


リヒターは、うろたえるユイをなだめるように肩に手を置く。お菓子の匂いが、ユイの鼻をくすぐった。


「失礼。新参の僕が、君たちを一緒くたに語るべきではなかったね。許して欲しい」 


「あわわ……、そんな。私の方が悪いのに」


内心では舌を出している。悪いなどとは微塵も思っていない。花菱のセンスはユイには理解できないし、向こうも同じだろう。リヒターに配慮が欠けていたことは言うまでもない。余計な波風を立てたくないから音便に済ませただけだ。


「でも、ユイ君の本音が聞けて嬉しかったよ。さっきのは僕の胸に留めておくから」


「あはは……、かたじけないです」


おしつけがましい偽善者野郎め。何度心の中で吐き捨てたたことか。総長が三顧の礼で迎え入れたこの男が、ユイは苦手だ。清廉な仮面を剥がせば誰より醜い本性が備わっているというのに、他の者を下に見ている。その傲慢さが鼻について仕方ない。


「ユイ君は少々気を使いすぎじゃないかな。我々は同志。もっと打ち解けたいものだね」


リヒターが鼻と鼻が触れあう至近距離まで顔を寄せてきていた。彼は基本的に人との距離が近い。ユイは人肌が苦手なので、余計に焦る。


「あ、あ、花菱さん、そろそろ到着したかなー、見てきまーす」


声を裏返しながら、ユイは天幕を飛び出した。お菓子の匂いから解放されただけで一安心だ。


外に出て初めて吸い込んだ空気に、ユイは心躍らせた。土の臭いに混じった腐乱臭が強烈に漂っている。


グラナダの兵士が鼻を押さえながら、ユイの脇を走り抜けていく。悪臭から逃げる彼らの表情は一様に苦しげだったが、ユイだけは違った。リヒターに向けた作り笑顔とは打って変わって生気を帯びている。 


「この死臭……、キタキター!」


兵士の流れとは真逆の方向へと走る。自分の身長の倍はあろうかという男たちをおしのけ、突き飛ばし、平原の中央にたどり着いた。  


兵舎のから少し離れた所に覆いをかけられた荷物が置いてある。全長は十メートル以上で、異臭の発生源はそこだった。


覆いの前には、紅赤の羽織をはためかせた人物が一人残っている。


ユイは背後から手を伸ばし、呼びかける。


「花菱さん」 

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