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始まり始まり
ビュウビュウと風が吹く断崖絶壁の端で、生まれて間もない赤子が、一人の女に捨てられようとしていた。
今はまだただの赤子だけど、刹那の先には捨て子へと堕ちてしまうことだろう。
生後まもなくこのようなめに合うとは、なんて運の無い赤子だ。
まあ、俺のことなんだが。
「ごめんなさい。私たちじゃ、あなたをどうすることも出来ないの」
ずいぶんと身勝手な話しだ。かってに産んで、要らなくなったから捨てるなんてクソなマネをしやがって。
「この小舟は、私たちが出来る精一杯のプレゼント。可能性の拡張されたすごい舟なの。だからもし、生きて成長することが出来たら、その顔を見せに来て。それで殺されたとしても、かまわないわ」
くっくっく、なんて無理難題を言うクソ女だ。
いいぜ、せいぜい悪あがきをして生きのびてやる。そして、会いに行ってやるよ。
お前らクソ野郎どもに、災厄を届けにな。
俺がそう念じた瞬間、手が離された。舟の揺りかごに入れられた俺は、堕ちていくさなか、走馬灯を見た。
ここに至るまでの、生まれてからの短い人生の走馬灯だ。