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1.しがない錬金術師のしがない一日

( ・∀・)「錬金術なんてもはや時代遅れですよ」


魔動テレビに映る顔立ちの整った男が、唐突にこう言った。


( ・∀・)「幾千幾万もの触媒を使い分けるなんて場所をとりますし、非効率的ですからね

      かつては、少ない魔力で様々なことができたんでしょうが、今は効率化と量産性の時代です。魔術も技術躍進によって省燃費化が進んでいますし…」


プツン、とテレビの電源が落ちた。いや、ひとりの男が電源を落としたのだ。


( ^ω^)「あれが世界一の大魔導師様の言うことかお」


ムスリとした顔の男は、狭く危ういバランスで保たれた部屋の中をなれた動きで移動し、椅子に大きく腰掛ける。

錬金術師特有の赤茶けたフードのせいで少し老けて見られるが、その顔はとても若々しい。


( ^ω^)「だいたいテレビもラジオも自動車も錬金術で作られたもんだろうがお…なーにが効率化と量産性の時代だお」


ぶつぶつと呟きながら、男は周囲にある様々な触媒。キノコだとか、魔法石だとかをかき集め、選別の作業に戻る。

錬金術には、質のいい触媒が必要だ。それを見極めるのはいつだって人の手である。非効率的と言われても仕方がない。


( ^ω^)「……」


男は黙々と選別を続ける。魔光ランプのほのかな灯りが彼の手元を優しく照らした。

と、その時だ


('A`)「ちーっす」


奥の…いや、彼から見て奥だが、あそこは玄関だ。まあそこの扉が唐突に開き、小柄な男が現れた。茶色の混じった剛毛な髪が目立つ。ドワーフ・クォーターだろうか?


( ^ω^)「あれ、ドクオ。今日は随分早いおね」


ドクオと呼ばれたそのドワーフ・クォーターは、おう、と返事をして、背負ったザックを床に下ろした。狩人が好んで使う、革製の丈夫なザックだ。


('A`)「今日は珍しいもんが採れたんでな。早めに切り上げて来たんだわ」


錬金術師の男はまた慣れた動きで玄関口へと移動し、どれどれと覗き込む。

ドクオは彼の顔をギリギリまで寄せてから、突っ込んでいた手をパッと引き抜く。


('∀`)「ほれ、オオガラスの大羽根だ!」


( ^ω^)「マジかお!…で、どこに?」


(;'A`)「あ、あれ?」


彼が引き抜いた手には、何も掴まれていなかった。


(;'A`)「あれー?」


ドクオはザックを大きく開け、中を物色する。


('A`)「……どっかに落としてきた」


( ^ω^)「えぇ…」


(;'A`)「い、いや大丈夫!通ってきた道は覚えてる!どっかに落ちてるはずだから拾ってくるわ!」


言うなりドクオはザックを背負い飛び出していく。壁にかかったいくつかの薬瓶が危なげにカタカタと音を立てた。


( ^ω^)「あ、ちょうど日の出かお…」


錬金術師の男は開けっ放しのドアから東の山脈を見上げる。一歩外に出ると、すがすがしい朝の空気が彼を取り囲んだ。


( ^ω^)「うーん、気持ちのいい朝だお」


彼は一つ伸びをして、再び小屋の中へと戻った。その扉の上には「ブーンの錬金・まじない屋」と拙い文字で書かれた看板がかけられていた。




( ^ω^)「…帰ってこねえお」


ブーンはオオガラスの羽根を拾ってくると言ったきり帰ってこないドクオの身を案じていた。

オオガラスといえば全長8メートルにも達する巨鳥だ。羽根は高級品で、東の山脈を更に越えた先でなければまともに手に入らない。

そんなものが道端に落ちてたとして、拾わない輩などいないだろう、ブラックマーケットにでも売り出せば相応の金になる。


( ^ω^)「まあこの村にそんな妙なことする人はいないとは思うけど…」


彼の住む村は都会から遠く離れた里山である。自動車が発明され各地への交通が楽になったとは言え、好んで来ようとするものは少ない。

逆に田舎暮らしを不便に感じ、出ていくものは多い。今はまだ問題視されてはいないが、いずれ我々の世界同様過疎化に苦しむ地区となるだろう。


(*゜ー゜)「ブーンくん、おはよう」


( ^ω^)「おっ、いらっしゃいませだお」


そんなことを考えていると、扉が開き本日一人目の客が現れた。若く、淑やかな雰囲気を醸し出す女性だ。


( ^ω^)「今日は何用かお?しぃさん」


しぃと呼ばれたその女性は、壁にかけられた薬品類を見つめながら、人差し指顎に当てて考える素振りをする。


(*゜ー゜)「最近ギコくんが食欲ないのよ、理由を聞いたら、『最近仕事が忙しくて疲れが取れないんだ』って…」


( ^ω^)「疲労回復かお、なら"リポミタン"か"オロミナン"がいいおね」


ブーンは立ち上がり、戸棚の中から黄色っぽい薬瓶を取り出す。


(*゜ー゜)「そういう直に疲労に効く系じゃなくて、食欲とかに効くものって無いのかしら?やっぱり自慢のご飯を食べてもらえないのは悲しくて…」


( ^ω^)「おー…なるほど、ちょっと待っててお」


ブーンは更に奥の方を探る。食欲増進の薬というのは無い、そんな人間の根本的欲求をコントロールすることなど不可能だ。

だが、間接的にそれを補うのならいくらでも方法はある。


( ^ω^)「これなんかどうですかお」


ブーンは奥から、どろりと濁った緑色の液体を出してきた。奥の冷蔵庫で冷蔵していた品だ。


(*゜ー゜)「七草クヮイン…?面白い名前ね」


( ^ω^)「お粥に入れて食べさせてあげてくださいお。あと残った場合は冷蔵保存お願いしますお」


(*゜ー゜)「分かったわ、ありがとねブーンくん」


しぃは瓶の側面に書いてあるお代を彼に渡すと、それをしげしげと見つめながら帰っていった。


( ^ω^)「食欲無いと言ったらやっぱさっぱり食えるモンだお」


ブーンはポツリとそんな事を呟く。彼が渡したあの薬…いや、あんなもの薬でも何でもない、数種類の野草をすり潰したものに、レモン汁と調味料を混ぜただけのものだ。

豊富な栄養素と、サッパリとした味付け。これだけで人間の食欲は戻るというものだ。ああ言っておけばプラシーボ効果だって期待できる。


(;'A`)「お ま た せ」


( ^ω^)「ねちっこい言い方やめろ」


と、続いて入ってきたのはドクオだった。その手には彼の顔ほどもある大きな羽根が掴まれている。


( ^ω^)「おお…マジモンのオオガラスの羽根じゃないかお、ちょっと痛んでるけど」


('A`)「元々落ちてた拾いモンだししゃーない、ここはオオガラスの生息域と違うしな」


('A`)「で、これで何か作れねえか?レア物だろ?」


( ^ω^)「羽根だけじゃなんとも…まあ作れないこともないお」


(*'A`)「おお、見つけてきた甲斐があるってもんだぜ…なんか出来た日には俺にも試させてくれよな」


( ^ω^)「自分から実験台になっていくのか…」


( ^ω^)「でも、出来るものなんてしょーもないものばっかだお?オオガラスの羽根で出来てる一番有名なのは育毛剤だお」


('A`)「育毛剤…」


ドクオは自分の髪を撫でる。ドワーフの血が入った彼は、ゴワゴワとした剛毛の持ち主だ。毛根も強い。


('A`)「…いらねえな」


( ^ω^)「だと思ったお。まあ生き物素材だから使わないと痛むし、とりあえず作るけどお」


('A`)「この村に育毛剤がいる奴なんているのかね…」


( ^ω^)「さあ…」


ドクオはその後狩猟へと出かけた。早朝に採集、朝から昼にかけて狩猟、午後に再度採集。それが彼の一日のスケジュールだ。

そして、錬金術師で村唯一のまじない屋でもあるブーンのスケジュールといえば


( ゜∋゜)「傷薬が無くなりそうなんでな、補充頼む」


( ^ω^)「はいはい、明日までには納品しますお」


( ・3・)「除虫剤あるか?」


( ^ω^)「いつもの棚のとこにありますお」


ミセ*゜ー゜)リ「この前頼んでた魔導石の加工、出来てる?」


( ^ω^)「あ、ごめんなさい。もうちょっとかかりますお」


ミセ*゜Д゜)リ「えー!もう二日だよ?まだ出来ないのー?」


(;^ω^)「もうちょっとだから待っててくださいお…魔導石の加工は難しいんですお」


( ^ω^)「…ふう、やっと帰ってくれた。ミセリさんはちょっとせっかちすぎるお」


( ^ω^)「明日までにクックルさんに傷薬納品して、でミセリさんにも早く渡さないとだおね…忙しい忙しい」


ごそごそと店の奥に雑多に置かれた物を整理する。滅茶苦茶のようで、ちゃんと決められているのだ。

錬金術に使う素材はまさに千差万別。近くに置いておくだけで互いに影響を及ぼし合うものも少なくない、少しでも変質してしまえば、錬金術は成り立たない。

だから錬金術師の家は何処に行っても雑多でぐちゃぐちゃに見えるのだ。そう見えるだけで、とても慎重に仕舞われている。


『本日の祝勝パレードに、久しぶりに王女様の姿がお見えになられました』


( ^ω^)「おっ?」


と、テレビからの声に、ブーンは手を止めて振り向いた。テレビでは、40年前に終わった隣国との戦争、その祝勝パレードの様子が映し出されていた。

カメラが大きくズームし、王族関係者席のさらに上、豪華爛漫な装飾が施された場所を映し出す。


ξ゜⊿゜)ξ


そこに、美しい金髪の少女が、身の丈に合わない大きな椅子に座っていた。

ツン王女、ヴィップ王国の唯一の王女であり、いずれこの国を継ぐことになる人だ。


/ ゜、。 /


その隣に座るのが我らが国王、ダイオード殿下。9年前に即位した第12代国王で、高いカリスマ性を持ち民の支持は厚い。


『王妃の病死後、表舞台に立たなくなったツン王女ですが、顔色なども良さそうです。王城からの報告ではお体にも異常はなく……』


(*^ω^)「やっぱ王女様は可愛いお、元気そうでなによりだったお」


ブーンはうへへ、と笑う。


('A`)「おいすー…なんだお前その顔」


( ^ω^)「ぅおう」


2度目のドクオの来訪に、油断していたブーンは鼻の下が伸びたままだった。慌てて顔を戻し、テレビのチャンネルを変える。


('A`)「今日はすこぶる調子よくてな、朝のオオガラスの羽根といい、幸運の女神にでも微笑まれたかね」


ドクオはそう言ってブーンを外へと呼び出す。


( ^ω^)「うお、グレイグリズリーかお!」


大きな荷台に括りつけられていたのは、大人の3倍の背丈はあろうかという灰色の巨大熊。グレイグリズリーだった。


('A`)「肉はショボンとこに売りさばくとして、お前んとこに使えそうなものがあったら言ってくれ」


(;^ω^)「つってもなあ…よくこんなもん猟れたおね…」


('A`)「なんか最初から弱ってたんだよ。どっかで同族同士喧嘩でもしたんじゃないかね?」


( ^ω^)「はーん…グレイグリズリー…グレイグリズリー…目玉が確か魔導石の触媒になったおね。あとチ○コ」


('A`)「そんなもんまで使えるのか…」


( ^ω^)「効能もズバリ精力剤だお。クマのチ○コは大概精力剤になるんだお」


(;'A`)「連発すんな、恥ずかしくないのか」


( ^ω^)「ゲテモノ揃いな錬金術師にゃ羞恥心なんてかけらも残ってねえお」


('A`)「少しくらい残せよ…」


とりあえず解体はドクオの家でやることとなり、彼についていく事にした。

グレイグリズリーの巨体を牛車でゆっくり引っ張りながら、彼らはドクオ宅にある解体場へとそれを持っていく。


(´・ω・`)「おや、まじない師も来たね」


( ^ω^)「どうもショボンさん」


既に彼の家にはショボンも来ていた。彼の本職は農家だが、その傍らで食料品店も営んでいる。


(´・ω・`)「グレイグリズリーの肉なんてそうそう仕入れられるものじゃないよ。濃厚な旨味が特徴で、鍋に合う」


( ^ω^)「これから暑くなるってのに鍋はちょっと…」


(´・ω・`)「まあ煮付けでもいいよ」


('A`)「よっし始めるぞ」


ドクオが巨大なギロチンを使って、ヤオグアイの首を切り落とす。濁った血が辺りに跳ねた。


( ^ω^)


(´・ω・)


とんでもないスプラッタだが、二人は顔色ひとつ変えない。慣れているのだ。

その後もドクオは慣れた手つきで皮を剥がし、肉を削ぎ、内臓を引きずり出す。


( ^ω^)「目玉を早めに取って欲しいんだけどお」


('A`)「時間が経つとすぐ質が悪くなるのはこっちも一緒だ。ちょっと待て」


(´・ω・)「太ももの肉は出来るだけ大きくとってくれよ。そこが一番食べごたえがあるんだ」


('A`)「へいへい」


黒ずんだ血にまみれながら、ドクオはナタじみた包丁を片手に、ザクザクと肉を削ぎ落としていく。

小一時間ほどで、グリズリーの体はほとんど骨と内蔵だけになってしまった。


( ^ω^)「相変わらずの手さばきだお」


(´・ω・)「桶は桶屋だね。どんな人でもその道のプロには敵わない」


('A`)「俺からすると錬金術なんてチンプンカンプンだがな。農業もそうだ。ほれ目玉」


( ^ω^)「あ、このビンの中に」


ブーンは青白い粘液が入ったビンを差し出す。その中にヤオグアイの目玉が放り込まれた。ブーンはすぐさま蓋を閉める。


('A`)「あとチ○コだっけか?」


(´・ω・`)「そんなもんまで使うのか錬金術は」


( ^ω^)「ドクオとおんなじこと言ってるお…」


こうして、グレイグリズリーの目玉とペニスを無事手に入れたブーン。帰る頃にはだいぶ日も傾いていた。里山であるこの村は周囲を山に囲まれ、日が落ちるのも早い。


( ^ω^)「今日はもうおしまいかお」


(´・ω・`)「そうだね、じゃあ僕は早くこの肉を冷蔵庫にブチ込まないとだから」


('A`)「お代は明日貰いに行くから用意しとけよ」


三者は別れ、それぞれの家路に付く。

黒漆塗りの自動車が一両、彼らの脇を抜け、東の山脈の方へと消えていった。廃魔力の青っぽい煙を吹き上げながら。

Tips:「錬金術」

様々な物質を触媒として魔力を変質させ、超常的な事柄を引き起こさせる魔法技術のこと。

魔動機械の発明は錬金術無くして成し得なかったと言われており、今も世界中に研究者や生業とする者がいる。

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