凶兆
夢を見た。
散歩に出掛けようと家から出ると、唐傘小僧が倒れている。
おい、大丈夫か、と声をかけても返事がなく、すでに事切れている。妖怪も死ぬんだな、と哀れに思い、川のそばの地蔵の前に運んでやることにした。小僧を抱えて歩いていると、向こうからろくろ首が「恨めしや、恨めしや」と泣きながらぞろぞろと歩いてくる。皆一様に若い娘だ。何事かと怪訝に思い後をついていくと、町の家という家の戸をこん、こん、こん、こんと一心不乱に叩きながら、「ああ、恨めしや恨めしや」と声を高めて、また次の屋敷へと向かう。するとある家からまた若いろくろ首が出てきて、その一行に加わった。ちょうどその女と目があって、私は逃げた。
地蔵の前へたどり着くと、私は唐傘小僧をそこへ寝かせてやったが、今度はシクシク、メソメソと何者かが啜り泣く声がする。見れば、目の前の地蔵が涙を流して震えいてる。「地蔵殿、どうしたのか。何か哀しいことがあったかね」と尋ねると地蔵はただ「こわい、こわい」と言って泣く。「何がそんなに恐ろしいんだね」と聞くと地蔵は「わからない」と顔をくしゃくしゃにして、さらに泣く。頼りない地蔵だな、と思った。すると今の今まで泣いていた地蔵が、突然に顔をニッコリさせて「あは、あは、あは」と笑い始める。「どうしたんだね、今度は何がおかしいんだね」と尋ねても、あは、あは、あは。かわりに、唐傘小僧の死体を指差して「いひ、いひ、いひ」と笑う。
私は頭に来て「こんちくしょう」と地蔵を蹴っ飛ばすと、地蔵はあは、あは、と土手の斜面を笑い転げて、そのまま川へドボンと落ちた。するとそれを見ていた私の後ろのほうで「あは、あは、あは」と声がする。振り返れば長くて真っ黒い髪に全身覆われた、子供なんだか、爺さんだか婆さんだか分からないやつがこっちを指差して笑っている。私はさらに頭に血がのぼって「何だお前は」と叫ぶと、耳元で「祟り神」という声がして、目が覚めた。