食わず嫌い
久しぶり! 諸事情で小説書く時間なかったんだ!
……本当にすいません。今度からちゃんと定期的にやろうと思います。
「あ゛――――」
風呂に浸かりながら、俺はジジ臭い声をあげた。
今日は色々あった。頭使って何千人といる兵士を撤退させる作戦を考えたり、何時間もこの汚い城の掃除をしていたりと、疲労がたまった。掃除が疲労の9割を占めているが。
しかし、やはりここはリアルの世界と考える他ない。夢なのだとしたら覚めるのに時間が経ちすぎているし、なによりこんなにも俺の意識が定まっている夢というものを、今まで見た事がない。
この世界は夢ではなく現実、もはやそこは疑いようがない。
「あーあ、テスト勉強してたのに、無意味になっちまったな」
別にテストでいい点とらなくても今までの積み重ねがあるから、内申には響くがそこまで痛いことではない。俺の頭なら大抵の大学にも入れるし。
だが、今までの積み重ねのすべてが無意味だと思うと、さすがに喪失感が半端ではない。
ま、元々は勉強もスポーツも不純な動機で始めたものだから、どうでもいいか。
「アキトー、早く上がってご飯作ってよー」
浴室の外からアリスが子供の様に乞うてきた。まったく、人がお前のために溜めた疲れを癒すために風呂に浸かっているというのに、そこんとこまるで分かってないな。
「アキト、私もう何時間もなにも食べてないのよ」
あーうるせえな。俺だってなんも食べてないっつーんだよ。こううるさくちゃ全然疲れも取れないって―の。
しょうがない。ポンコツな元城主様のためにもうあがってやるか。
「あー、そういえば着替えがないな。アリスー、着替えかなんか無いか?」
「無いわよー。誰もいないから、女性服以外は全部CPにしちゃったわ」
はあ、しょうがない。CPを使って着替えを出すか。とりまジャージと下着で。
俺はサモンメニューから上下真っ黒のジャージと黒のボクサーパンツを出す。パパッと着替えた俺は、アリスに急かされるように素早く台所へと移動した。
「んじゃ、1時間ぐらいで出来っから」
「1時間も? 料理なんて切って焼くぐらいじゃないの?」
「……一つ聞くが、もしかしてもしかしなくても、お前CPを使って出した料理しか食べた事ないか?」
「大臣たちがシェフの作ったものよりも召喚した物の方がおいしいからって、ここ何年かはずっとそうよ」
「…………ポンコツは、お前だけじゃなかったか」
シロちゃんは一般人から得られるCPは1日で10ほどだと言っていた。そしてアリスが最初に求めた料理、レーザードのステーキは2000CPも使う。さすがに毎回これほど使うというわけではないが、どれだけ少なく見積もっても1回の食事で1人につき100CPは使っていたと考えられる。
一人から得られるCPが10なのに、1回の食事で100CP。それを3食分だと1日で300CP。合計すると—290CPだ。
そんな生活を毎日続けていれば、そりゃあ国の経営は悪化する一方で、国民の暮らしも悪くなること間違いなしだ。すると必然的に国民の支持率も下がることになり、いざという時になれば見捨てられる確率は100%だ。
実際、大臣たちも国民も全てファルマ王国に寝返ったのだからな。
「アリス、今日からCPを使って料理は出すな。これからはずっと、全部俺が作る」
「う、うん。そっか……うん、お願いね」
心なしかアリスは嬉しそうな顔で了承した。いちいち文句を言うと思っていたんだが、予想外の反応に俺は一瞬驚いた。
ま、何の文句もないならそれでいい。
「さてと、そんじゃ始めるか。食材は、これと……」
俺はサモンメニューから食材を選び、それを召喚する。食材自体は俺の世界とここの世界でもほとんど一緒なので、アリスが世界の違いから味に文句を言うこともないだろう。
文句を言ったらさすがにぶん殴っているところだがな。
「全部で8CPか。ま、こんぐらいでいいだろ」
出した食材を並べ、俺は調理を開始する。レストランでバイト経験のある俺は食材をリズムよく切り刻む。アリスは料理が出来たら王室に運んでくれと、台所を後にした。
ここから王室まで歩いて3分もかかるというのに、まったく我儘な奴だ。
*
調理を開始して1時間、ようやく料理が完成した。
どれ、味見でも…………うん、バッチリだ。これでアリスも納得してくれるだろう。
俺は完成した料理をもって王室まで運ぶ。
今日作った料理は回鍋肉に餃子だ。ごはんはちょっと多いかもだが3合炊いたから、少なくて怒るということはないな。
いや、アリスはあの胸だ。育てるためにかなりの量を食べているのでは……。
などとセクハラまがいのことを考えながら、俺は皿を2枚と茶碗を2つ、そして米を炊いた鍋を器用に持っていく。
指に腕、全部をフル活用した妙技だ。
「はあ……はあ……やべ、腕パンパンだわ」
俺は料理を一度床において、両腕をグーッと伸ばす。いくら料理を運ぶのがバイトで慣れているといっても、こんな量をこんな距離で一度に運ぶことなんかなかったからな。
分けて持ってくるべきだった。
「ふー、ようやく着いた。おーい、アリス。ドア開けてくれ」
俺は両腕で料理を抱えながら、部屋の中にいるはずのアリスを呼ぶ。数秒後、ドアが開いた。
見ると、さっきまではなかったはずの丸テーブルが王室の真ん中に置かれている。
「待ちくたびれたわ」
偉そうに胸を張って言うアリスを無視し、俺はテーブルの上に料理を並べる。
丸テーブルに中華だと、どうしてもあのクルクル回るテーブルを思い出すな。さすがに回転はしないみたいだけど。
「じゃあ冷める前に食うか」
ここに持ってくる途中にすでに若干冷めてしまったが、それでも料理にはまだ熱がある。出来るだけ早く食べ始めた方がいい。
「……アキト、なんかお野菜多くない?」
「そうか?」
「それにお肉は?」
「肉ならあるだろ。ほらここに」
俺は回鍋肉の中に入っている豚バラ肉を指して答える。
「ちょっと薄くない?」
「何言ってんだ。料理に使う肉なんてこんなもんだよ。ステーキとかなら話は別だが」
「それと、フォークとナイフは?」
「……箸は使えねえのか?」
「はし?」
この世界に箸は無いのか。そういや台所にあるのもナイフとフォークだけだったしな。
しょうがない、CPを使って出すか。台所にある食器は、あの惨状の中にあったものだから出来るだけ使いたくないし。
「ほら、お前はこれ使え」
サモンメニューからフォークとスプーンを召喚する。この料理ならナイフは必要ない。フォークで回鍋肉と餃子は食えばいいし、スプーンでご飯をすくって食べればいい。
「さ、準備は出来た。食うぞ」
「え、ええ。いただきます」
アリスは一目散に回鍋肉の肉だけをフォークで突き刺した。この野郎、はなから野菜を食う気がないな。
「んー、おいしい!」
喜んでくれるのは何よりだが、一向に野菜に手を付けないのを見るとどうも複雑な気分だ。
ていうか肉だけを拾って食ってるから、餃子もご飯も手を付けてない。
「アリス、野菜もちゃんと食べろ」
「……ワタシ、ヤサイ、キライ」
何でカタコトやねん!
「野菜もちゃんと食べないと胸以外ろくに育たないぞ」
「なっ……! セクハラよ!」
「あー悪い悪い。でもよ、ちゃんと食べないと健康にも良くないぞ」
「……病気になったりとか?」
「そうだな。食わないよりかは食った方が病気にはなりにくいな」
「そう……じゃあ、食べるわ」
なにを一大決心みたいな感じを出してるんだ。たかが野菜を食うか食わないかだけで。
大体あれだ。中華の野菜ってのは濃い目の味付けのせいで野菜本来の味はあまりしない。俺のは特にだ。子供でもおいしく食べられる、と思う。
「どうだ、うまいか?」
俺が聞くと、アリスは野菜を口に入れてから寸分たりとも口を動かさず、下を向いている。
かと思うと、今度は勢いよく顔を上に向けた。
「ゴクン!」
「てめえ! 丸呑みしやがったな!」
「んっ!? んー!」
「あーほら、のどに詰まらせた! 水飲め水」
俺は慌てて水の入ったコップをアリスの口に当てて流し込ませる。
まるで親が子供のしつけに苦労するかのような図だ。アリスは俺より1歳年下なだけだというのに。
「ゴホッ、ゴホッ! あー、死ぬかと思ったわ」
「バカ。子供じゃないんだから、よく噛んで食べろ」
「だって、お野菜きらいなんだもん」
ぷいっとそっぽを向くアリスだが、何食わぬ顔で肉だけはちゃんと食っている。
こいつは、一体どれだけ甘やかされて育ったんだ? 野菜どころか、米にすら手を付けない。
これは少々、きつめのしつけをしないといけないな。
「アリス、今後は出された者はちゃんと食べろ。じゃなきゃ俺はおまえの分のメシは作らないし、CPを使って料理も出さない。全部自分でやれ」
「はあ!? そんなこと出来るわけないでしょ! 私は生まれてこの方料理なんかしたことないし、お野菜もトメトしか食べた事ないの!」
「威張って言うことか! お前、仮にも一国の主だったんなら、まともな食生活ぐらいしろ! 早死にするぞ!」
「そ……それはいやだけど……」
「なら食べなさい! 食べるまでお母さん許しませんよ!」
「誰がお母さんよ! 確かに言ってることは母親っぽいけど」
そう言いながら、アリスは渋々フォークを野菜にぶっさす。
野菜を口に近づけては離し、近づけては離しを繰り返し、中々口の中にいれようとしないが、1分ぐらいの葛藤の末、ようやくアリスは口の中に野菜を放り込んだ。
入れて数秒はまた丸呑みでもするつもりなのか、喉に力を入れているように見えたが、すぐに力を緩め、ゆっくりと、ゆっくりとだが野菜をかみ砕き始めた。
心底いやだ、そんな顔で物凄いスローモーションでかみ砕いていたのだが、5噛みぐらいして、噛む速度が徐々に早くなっていき、飲み込んだ。
続けて今度は肉と野菜、いっぺんにフォークをぶっさし、口に運ぶ。さっきまでの戸惑いは嘘のように消え、見る見るうちに今晩のおかずはアリスの腹の中へと入っていく。
うんうん、よく食べることはよきかな……って、俺の分とか考えずに食ってやがる!
俺もアリスに負けじとおかずを口の中にかきこみ、時折むせつつも腹いっぱいまで夕食を堪能した。
「はあ~、野菜っておいしいのね。今まで損した気分だわ」
「だろ? 味付け次第でも変わるし、食材ってのはどんなものでおいしくできるんだ。好き嫌いは確かに存在するけど」
「お腹いっぱいになったら眠くなったわ。私は部屋で寝るから、アキトも好きな部屋で寝ていいわよ」
アリスは大きなあくびをしながら部屋を出て行った。
うん、予想はしてたけどね、実際に当然のように行われると、腹立たしいものがある。
「後片付けくらい手伝ってくれよ!」
俺は一人虚しく後片付けをして、適当に部屋を選んで一夜を明かした。




