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最凶の生物

「おーおー、予想以上だな」


 キャッスルメニューのカメラで城外を観察しながら、予想以上の効果に俺は驚いている。


「ねえアキト、あれって何なの? 虫なの?」


「あれは蚊っていってな。刺されるとかゆくなるんだ」


「うわっ、地味ね」


 確かに地味だが、その威力は絶大だった。

 唯一もろ出しの顔面に蚊が何度も刺して、それを掻こうとして篭手を取り外して顔面を掻く。

 するとお留守になった手に蚊がたかり、さらに大惨事になっていく。

 そして蚊は小さいゆえに、隙間に入り込んで刺すことが可能だ。篭手だけでなく鎧すら脱ぎだす兵士もいる。

 怖いぐらいに思い通りに行くな。これも俺の指示通りに蚊が動いてくれるからか。

 指示通りに動くってのはいいな。


「これでうんざりして帰ってくれたら文句はないんだが、そううまくはいかないか」


 城外は見ただけでかゆくなってきそうな何とも言えない状況下だが、兵士たちはそれでも逃げようとはしない。

 その手で体を掻きむしり、その場でのたうち回るも、我慢して壁を壊そうと奮闘している。


「残りCPはあと900、追い打ちと行くか」


「また地味な攻撃するの?」


「見た目は地味だが、効果は絶大だ」


 蚊が効いたってことは、この世界の人間の耐性は俺たちとほぼ同じってことだ。

 だとすると、かなりの確率で殺しちまう可能性があるが、敵はこちらを殺しに来てるんだ。

 やられても文句は言えないだろう。


「召喚っと、がんばって来い、スズメバチども」


 俺は俺の世界に存在する、最多死傷者を記録した世界でもかなり危険な生物、スズメバチを召喚して城外の兵士に襲わせた。


 *


「あ、新しい虫が来ました!」


 兵士が体を掻きむしりながら隊長に報告した。

 その隊長もすでに鎧を脱ぎ捨て、体中を掻きむしっている。

 現在、兵士の体は真っ赤っか。痒いから痛々しいになってきた。


「総員、壁の破壊に当たれ! この虫に刺されたところで死にはせん!」


 予想通りの展開だな。

 かゆみを治めるために行動するのではなく、かゆみを我慢しながら壁を壊してアリスを倒しにかかる。

 最善かどうかは分からないが、悪い判断ではない。

 と、戦争初心者の俺は語る。

 こんなものを戦争と呼んでいいのかはわからないが。


「ぐ……ぐああああああ!」


「どうした!」


「あ、新しく出てきた虫に刺された者が、突然苦しみだしまして」


 よし、スズメバチも有効だったな。

 この世界の医療形態がどうなっているかは分からないが、さすがにスズメバチの毒を治す薬を常備しているとは考えにくい。

 うまくいけばこのまま全滅、もしくは撤退してくれるはずだ。


「くそ、こんな奴ら魔法で……!」


 なに、魔法を使えるのか!?

 と驚いてみたが、予想していた。

 魔法がどれほどのものかはわからないが、問題はない。


「バカ者! 我々まで巻き添えを食うわ!」


 その通り。魔法について全然知らない、そもそも存在するかも知らなかった俺だが、異世界召喚に魔法はつきものだ。

 当然そのことも考慮しなければならない。が、その対処法だが、答えは何もしない。

 あの隊長らしき兵士が言っていたように、魔法を放てば相討ちを狙える。

 兵士たちは大量にいて、しかもスズメバチや蚊はその兵士たちの周りを常に徘徊している。

 魔法でなくとも、虫たちを攻撃すれば仲間も攻撃してしまうのは必然。


「く、総員撤退! 倒れた兵士を担ぎ、この場から一時的に離れるぞ!」


 よっしゃ! 狙い通り逃げ出してくれるぞ。

 そして、そうたやすく逃がすわけもない。

 敵が逃げ腰になった今こそチャンス。こちらの唯一の勝機だ。


「シロちゃん、壁をCPに還元。そしてチーターを100匹召喚!」


『了解。サモンメニューよりチーター100匹召喚。消費CP、5000』


 チーターの消費CPは1匹50。壁をCPに還元して一気に3万にまで増えたことにより、大量の戦力を投下することが可能になった。


「アキト、あのモンスターは何?」


「俺のいたとこに生息した、世界最速の動物だ」


 チーターの時速は100㎞を超える。だが、その驚異的なスピードの代償として、持続力は低い。

 話によれば、チーターの足を生かせる距離は大体500mほどだと言われている。

 今の兵士たちとの距離はまだ100mもない。この距離なら、十分に追いつき殺すことが可能だ。


「蚊はまだ鎧を着ている兵士に攻撃。スズメバチは鎧を脱いでいる兵士へ攻撃、チーターは全力で敵兵に追いつき、食いちぎれ!」


 これが俺の考えた作戦。

 まず蚊と蜂により敵戦力を削ぎ、撤退するように誘導する。

 そして撤退したところを世界最速の動物、チーターを用いて背中から追い打ちをかける。

 単純だが効果的。シンプルイズベストだ。


「隊長! 見た事もないモンスターがとてつもない速さで襲ってきます!」


「くっ、さきほどの黄色い虫に注意しつつ、モンスターを迎え撃て!」


 そう来たか。

 敵兵がとれる行動は大きく分けて2つだった。

 立ち向かうか逃げるか、2つに1つ。そのうち敵兵は立ち向かうを選んだ。

 となれば、チーターがどこまで通用するか、その情報を得ることにしよう。

 運が良ければ倒せるという方向で。


「ひとまず様子見だ」


 用意していた作戦はこれで打ち止めだ。

 仮にチーターがこれっぽっちも通用しなかったとしたら、壁をCPに還元したことにより俺たちの最終防衛ラインがなくなり、絶望的な状況になる。

 そうなったら城内に大量のスズメバチを召喚するぐらいしか俺に取れる選択肢はない。

 こんな方法、俺の命令を忠実に聞いてくれるからできる作戦だな。


「アキト、すごいわ! 敵がどんどん倒れて行くわ!」


 アリスは興奮しながらカメラ映像を覗き込む。

 まだ安心するには早いというのに、やはりポンコツか。倒れて行くといっても、その数はほんの300人ばかし。5000もいた兵士からするとまだ痛手には届いていない。

 ここでなにか手を打ちたいが、どうしたらいいか。

 下手な手を撃てばCPがなくなり、こちらの勝機は0になる。


『無能アリス、騒ぐのはやめなさい。城主アキト、召喚したチーター、1匹当たり3人の兵士の討伐に成功しています』


 ということは、100匹召喚したから単純計算で300人倒せることになるな。

 思った以上に少ない。スズメバチ攻撃がうまくいったから、ちょっと調子に乗ったな。

 やばい、今はこっちが押してる雰囲気を出してるけど、ここで撤退を許せばスズメバチにも対応した作戦を取ってくるだろう。

 なんとか今、敵の戦力を大幅に削ぎたいが……なにかいい動物はいないだろうか。

 この世界のモンスターのことを俺は知らない。よく分からないモンスターを召喚する手もあるにはあるが、そんな賭けに出るくらいなら、よく知っている動物を召喚して戦うべきだ。

 が、チーターがやられる時点で何を出したらいいかが分からない。

 ライオンを出すか? クマを出すか? ゴリラを出すか?

 うーん、どれも決定力に欠ける気がする。それに地味にCPも高い。

 コスパがよくて敵を倒せる、そんな都合の良い生物…………。


「ああもー、シロちゃん、CP10000をスズメバチの召喚に使え!」


 どれだけ考えても、スズメバチ以上にコスパの良い生物が思いつかない。

 こうなったらいっそ、スズメバチにすべてをかけろ。ここで一気に勝負をかける。

 決してやけになってはいない!


「ちょっと、確かに強いけど、それに10000も使って大丈夫なの!?」


「1000匹で何百人って倒せたんだ! こうした方がいいに決まってる!」


 これで召喚したスズメバチの数は10万。

 これを俺の思い通りに動かせるのだから、この方がいいに決まってる。

 見ろ、召喚したスズメバチはもう戦果を挙げているぞ。兵士を何人も刺している。

 はははは! チーターはもうやられてしまったが、敵は情けなく撤退していくぞ!


『城主アキト、敵兵が領土から離れました。映像を召喚したスズメバチの視界に切り替えることが可能ですが、どうしますか?』


「頼む!」


 スズメバチの視界が映像に映し出され、兵士の表情がくっきりと見える。

 未知かつ強大な力を持ったスズメバチに、大の大人が恐怖に引きつった顔で敗走していく様を、俺とアリスは興奮しながら眺める。


「ざまーみろよ! 私のことを殺そうとした奴らめ!」


「二度とここに来るんじゃねえぞ!」


 聞こえてないのに敵兵に向かって罵声を浴びせる。

 俺たちはある種の興奮状態。スズメバチが予想以上の戦果を挙げたこと、チーターが予想以上に戦果を挙げなかったこと、様々な要因から頭は混乱状態にある。

 そのせいでつい、その場しのぎの作戦を敢行してしまった。


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