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哀れな城主 敵兵視点

 イクス王国を制圧する任務、何故私がそんな任務の隊長をやらねばならないのか。

 こんな国、私が出向くまでもなく制圧することはたやすいはずだ。

 だいたい敵戦力はすでに買収済み、残る人間は城主アリスただ一人、使者の一人でも寄越せばそれで終わりだろうに。5千もの兵をここに集めたところで、アリスの恐怖心をあおるだけでしかないはずだ。


「隊長、私たちは何をすればいいでしょうか?」


「予定通り3番隊に壁の破壊を任せろ」


 この壁の突破には確かに時間がかかるだろうが、ここまでの人員を割く必要性が見受けられない。そもそも、攻め落とす必要性すらない。

 イクス王国など、どうせあと数年で壊滅していた国だ。数年前に現国王アリスが国を預かってから、国の経営は右肩下がり。放っておけばそのうち壊滅する。

 アリスがいかに国王としてダメなのかが窺える。決定打は買収が簡単に済んだということだ。

 国の重役から国民まで、多少の金と武力による脅しをちらつかせたところ、すぐにこの国を売ってファルマ王国への移住を開始した。

 まあ、まだ少女なのだから、国王として力がないのも致し方ないことと言える。

 この制圧でも、城主の証を奪っても殺しはしないでおいてやろう。

 それが、幼いながらも国王として祭り上げられた哀れな少女へのせめてもの慈悲だ。


「隊長、壁の規模と兵士の力を換算したところ、二日後の正午に突破できる予定です」


「分かった。3番隊の次は4、5番隊と続いて壁の破壊に取り組め。それと、無意味であろうが、1番隊2番隊は制圧のために休息をとり、その他の隊は周囲の警戒、1、2番隊の警護だ」


「ハッ!」


 あと二日、それであの少女の国王としての人生は終わりだ。イクス王国の城主になることも二度とない。

 運が良ければ普通の少女として生きることが出来るだろう。運が悪くても、うちの城主もアリスより少し年上とはいえ、我々から見ればまだ子供。殺しはしないはずだ。

 最悪奴隷として生きることになるかもしれないが、死ぬよりもつらい目に合うこともない。

 もしつらい目にあったとしても、その時は私が少しは気にかけてやろう。

 さすがに寝ざめが悪いからな。



 もう、二日が経ってしまったか。

 壁の破壊もあと少しで完了する。予定よりは幾分遅れたものの、あと数時間で破壊できることは確かだ。

 部下にはアリスを殺さないように厳重に言っておいたし、問題はない。


「隊長、大変です! 壁が移動しました!」


 そう思った直後にこれか。

 壁の移動、おそらくはCPを稼ぐつもりなのだろう。

 領土内に私たちを招き入れ、城主の証によりCPを稼ぎ、モンスターを召喚、もしくは新たな壁を召喚することが目的か。

 良い判断だが、遅すぎだ。今から私たちが領土に入ってCPを稼いでも、新たな壁を召喚することも、私たちを殺しうるモンスターを召喚するにも足りないはずだ。

 それに、王に近しい私はここにいる一般兵士と違い、CPの存在を知っている。

 領土内にいる人間は最小限にとどめ、みすみすCPを稼がせることもしない。

 これを見越して王は私を部隊長に任命したのか? まさかな。


「慌てるな。やることは変わらん。引き続き壁の破壊に取り掛かれ」


「ハッ!」


 私がいなければアリスの思惑にまんまとハマり、壁の調査でもしていただろうな。この人数、2、3日でCPはかなり稼げていたはずだ。

 惜しむらくはこの部隊を預かったのが私で、判断が遅すぎた事だ。

 やはりまだ子供、力も知能も他の国の王と比べても圧倒的に足りない。

 せめて重役の一人でも残っていればまだ手ごわい相手だっただろうが、たった一人では何をすることも出来まい。

 ましてあの少女は、城主の証にすら認められていない。我が王との謁見で、いちいちキャッスルメニューと唱え、我が王が笑いをこらえていたのは、見てて哀れだった。

 教えてやろうとも思ったが、国王の指示で、それは禁じられていたからな。

 本来は仲の良い幼馴染のようなものであろうに、どこで関係がこじれてしまったのか。

 どちらも若くして両親を亡くし、早期に王位を継いだことが最大の不運か。

 そして、王位を継いだ時点で我が国の方が多少なりとも裕福だったことも、関係の悪化に拍車をかけた。

 なにもかも、巡り合わせが悪かっただけなのだ。


「た、隊長!」


「今度はなんだ?」


「そ、その……大量の虫が!」


「虫だと?」


 昆虫種モンスターとは考えたな。

 あれはCPの消費も少なく、かつ毒を持つ者もいる生物。そして見た目も気持ち悪いゆえに、戦意を多少ながら削ぐことは可能だ。

 だが、そんなものは一時的なものでしかない。数分もすれば兵士たちは落ち着きを取り戻し、冷静に対処する。


「隊長、敵は小さすぎて、倒せません!」


「なに?」


 昆虫種は一番小さいので拳ぐらいのサイズだったはず。

 それを、小さすぎて倒せないだと?

 そんなこと……。


「な、何だあれは!? 虫……か?」


 目の前にいる生物は、小さくて見にくいが、たしかに虫のような作りをしている。

 だがこんな虫、見た事がない。

 なんだ、一体この虫は……?


「総員、落ち着け! 敵の動きを見極めるんだ!」


「無理です! この虫、小さいし素早くて、捉えきれません!」


 くっ、なんなんだこの虫は。いや、本当に虫なのか?

 それに、こんな小さなモンスターは見た事もない。

 とすれば、モンスターですらない、ただの虫なのか?


「か、かゆい! 顔が……」


「どうした、毒か!?」


「顔がかゆくて……ああ、この篭手邪魔だ!」


 兵士は手の武装を解き、顔を思いっきり掻き始めた。

 その顔は赤く腫れあがり、兵士の顔が醜く染まっていく。


「アリスめ、一体何を召喚したのだ!?」


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