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できるだけはやってやろう

気付いた方もいるかもしれませんが、前話で少しミスがありました。修正しておきました。すいません。

今度から投稿するときは入念にチェックをします。

「どうアキト、なんとかなりそう?」


「わかんないけど、やれるだけのことはやってやるよ」


 サモンメニューを見て、少しだけだが勝機が見えた。

 ここの人間に有効かはわからないが、少なくとも俺の世界の人間に対しては比較的有効な策だ。軍隊に対してではなく、一般人に対してだが。


「ん? CPが少し上がっているな」


『CPは城主以外の、イクス王国の敷地内にいる人間から溢れ出る魔力を吸っています。現在へっぽこアリスがいるので1日でCPが2あがります』


「へっぽこって何よ!」


『ちなみに一般人から吸えるCPは1日平均10。CPが2の上昇は5歳児と同じです』


「ぐっ……!」


 増加したCPは微々たるものだが、これはいい傾向だ。

 サモンメニューを見てみても、CP2で召喚できる生物にアリとかハエの50匹セットとかがある。

 周囲の兵士たちにばらまく予定の生物にしたって、CPが1で10匹放つことが出来る。

 中々バカにできたものじゃない。


「なあ、城の周りの様子を見たいんだが、できるか?」


『肯定。キャッスルメニューのカメラを選択してください。プライベートルームを除く王国のすべてと、王国の周り、半径100mほどまでなら見ることが出来ます』


「ほいほい、カメラねっと」


 俺は言われた通りにカメラメニューを開く。

 すると数多くの選択肢が出てきた。

 王宮内という大雑把な場所ではなく、だれだれの部屋や、どこどこの場所といったふうに、事細かに割り振られている。

 ん? おいおい、アリスの部屋が見れるようになってるよ。

 城主だったんだから、プライベートルームに設定しとけよ。


『場所を言ってくだされば、私が自動でカメラを切り替えられます』


「じゃあ城外を。城外ならどこでもいいぞ」


 そう言うと、ウィンドウが城外の映像に切り替わった。

 外の様子はすさまじく、何千人といる兵士は壮観の一言に尽きる。

 兵士たちは鉄製の鎧で身を包んでおり、カシャカシャと小うるさい音を立てている。


「うーん、予想以上に重装備だな。少し予定変更するか」


 召喚しようとしていた生物は大きく分けて3種類。まず2種類の同時攻撃にしようと思っていたが、順番を変える必要があるな。そうすれば問題はなくことが進むはずだ。

 鎧でガチガチに固めているといっても、所々に隙間はあるし、顔なんかモロに出てる。

 あれだけ露出している部分があれば有効なはずだ。


『城主、いつ攻勢に出ますか? 敵兵士のうち壁破壊に乗り出た兵士は、力だけなら一般兵士を超え、あと5時間ほどで打ち破るものと考えます』


 あと5時間か、まあ何とかなるな。


「兵士たちのすぐそばに召喚したいんだけど、できるか?」


『否定。ですが、領土内に召喚したモンスターを領土外に誘導することは出来ます。召喚してある壁を移動させ、イクス王国の領土内に動かせば、モンスターを敵に放つことが可能になります』


「生物じゃないのに、動かせるのか?」


『肯定。ですが、この壁を召喚したもの、つまりおバカアリスにしか動かせません』


 アリスへの馬鹿にした態度は常に変えないな。

 仮にも元城主への態度とは思えん。俺も城主じゃなかったらこんな冷たい態度を取られていたんだろうか。


「おいアリス、出番だぞ」


「ええ、話は聞いていたわ。この私が必要になったみたいね」


『いいから早くしろ』


「ムカ! あなたね、少し調子に乗り過ぎじゃない!? アキトは私を助けるために来てくれたのよ!」


 正確には来させられた、だけどな。

 それにしても、全然この夢から覚めないな。

 もしかして本当に現実なんじゃ…………まさかな。


「まあまあ、アリス、お前にしかできないんだ。頼む」


「え、ええ。頼まれてあげるわ」


 自信満々なアリスは、顔に似合わない大きな胸を張ってから、目を閉じて集中しはじめた。

 数秒後、地響きが鳴り響く。

 これは、周りの壁が移動している音か。

 半信半疑だったが、本当に無機物を動かせているみたいだ。


『城主アキト、壁の移動を確認しました』


「おお。アリス、ご苦労様」


 俺はアリスの頭でも撫でてあげようかと手を伸ばした。

 が、アリスは呼吸を乱しながら、その場に跪いた。


「な……なんで……! こんなに……疲れるの……!?」


『城主アキト、これが一般サモナーと城主サモナーの違いです。城主サモナーは城主の証、つまり私に内包する魔力、CPを用いた召喚、使役が出来ますが、一般サモナーは自前の魔力で召喚、使役をします。さきほど貧弱アリスが操作した壁は全長20m、厚さ2mを超える超巨大物。それを数㎝動かしたことで、魔力が枯渇したみたいです』


 どこまで行っても他人事だな。シロちゃんは。アリスがこんなに疲れているのに淡々と説明するなんて。

 これ洒落になってねえんじゃねえのか? 尋常じゃない疲れ具合だが。


『ご心配なく。魔力の枯渇は1時間ほど休憩すれば回復します』


 あくまでも安全だと判断しての無視か。そうだとしても、これほどまでに苦しむことを許容するか?

 そりゃあ壁を移動した方が俺にとって都合の良い事だけどさ。

 ……まてよ、一般サモナーの体力の消費がこんなに激しいなら、あの神は俺にどうやってサモナーとしてアリスを守らせる気だったんだ?

 うーん…………考えても仕方ないか。


「アリスー、大丈夫かー?」


「な、なんとか……! なにか、飲み物ちょうだい」


「はいはい」


 俺はキャッスルメニューのサモンから、飲料を探す。

 メニューを物色してみたところ、俺が知っている日本の飲み物も、この世界の物らしき飲み物も非常に充実している。

 ポイントは節約した方が良いだろうが、飲み物一つで消費するCPはわずか1、アリスのおかげで2ポイント増加したのだから、アリスのために使っても問題ないだろう。


「ほい、これでも飲んどけ」


 俺が手渡したのはコーラだ。

 きちんとペットボトルに入った、自販機などで買える普通のコーラだ。


「……なにこれ?」


「いいから飲め」


「う、うん…………ブ―――――――!」


 アリスは口に含んだコーラを盛大に吐き出した。

 その先には俺の顔があり、美少女の吐き出したコーラが顔面に降りかかったわけだ。

 あれ、そこまで嫌な感じがしないな。


「なによこれ!? 口の中で爆発したわ!」


「別に死にゃしねえよ」


「こんな物飲めないわ! 別のを出して!」


 こいつ、人がCP使って出してやったコーラを。

 青汁でも飲ましてやろうか?

 ……いや、また吐き出されてCPを無駄にされたらかなわん。

 ここは普通に……りんごジュースでも飲ましとこ。


「ほら、こっちを飲め」


「……平気?」


「さっきのも平気のつもりだったんだがな」


「じゃあ飲むわ………………おいしい! なによ、こんなおいしいのがあるなら最初から出しなさいよ!」


 満足いただけて結構だな。

 俺としちゃあコーラの方がおいしいと思うが、お子ちゃまにはこっちの方があっているということか。


「じゃ、茶番はここまで。兵士たちを追い払うとするかね」


「殺すんじゃないの?」


「作戦は3段階で構成してる。最初の段階でうまくいったら逃げ出してくれる」


 実際にはそんなうまくいかないだろうな。

 こんな作戦で敵が逃げてくれるんなら、世の中戦争なんか起こらないだろっていうものだからな。

 2段階目の作戦も、もしかしたらこの世界の人間には効かないかもしれないし、そうなったら完全に手詰まりだ。3段階目に移る間もなくやられてしまう。

 なにしろ召喚できる戦力に限りがあり過ぎる。

 聞けばアリスが召喚した壁は普通、超豊かな国が使うものすごい壁であるらしく、CPを何10万も消費する超高級品らしい。

 それだけあれば人間ぐらい一層できていたものを……まあ、この壁を召喚してこちらの戦力がないと思って、人間が包囲しに来たんだろうが。


「ねえねえ、作戦ってどんなものなの?」


「CP消費が少ない小型生物をけしかけて敵の戦意を削ぐ」


「……CP1000以内で召喚できる小型モンスターなんて、子供でも倒せるレベルよ」


 それは召喚メニューを見てて理解できてる。CP消費が高いものの中には小型でも有用なモンスターが少ないながらも存在する。

 だが、1000以内で召喚できるモンスターは貧弱そのものだ。

 この世界(・・・・)では。


「なあシロちゃん、生物も俺の思う通りに操作できるんだよな」


『正確には命令を忠実に聞くというものです。さきほどアリスが壁を動かした時とは違い、生物には自分の意思と足があります。意思の操作は念じることにより可能ですが、手足のように動かすことは不可能です』


「あんがと。命令を聞いてくれることが分かれば十分だ」


 さて、それが出来るのであればこの作戦の成功率が跳ね上がる。

 俺の言ったことを忠実に聞いてくれるということは、言葉の通じない生物にすら命令が届くということ。

 実際の戦争では理想論である、すべての兵士を自由に好きなように動かせるということが可能になるのだ。

 しかもカメラによって敵の位置は詳細に把握できる。

 防衛戦においては無類の強さを発揮するということだ。

 それは別の国にも言えることだが。


「じゃあ、一世一代の賭け、成功するように祈っとけ」


「え、ええ。そんなに自信満々なら信用してもいいのよね?」


「負ける確率も高いけど、がんばるぞお」


「ちょっとー!」

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