ポンコツアリス
いい加減この夢も覚めてほしい。
この夢はいわゆる異世界召喚というものだろう。その手のラノベを1冊でも読めば誰しも憧れはする、あの異世界召喚だ。
それなら序盤に神が現れたのも納得がいく。神によって召喚されるというのは鉄板だからな。
だけど、憧れはしたものの実際にこういうことになったらめんどくさい。
ヒロイン候補のせいというのもあるだろうが。
「早く私を城主に戻しなさい!」
『前城主、私は現城主アキトに説明を求められています。黙っていてください』
これだ。多分メインヒロインであろうアリスが子供の様にわめいている。
胸の大きさは大人顔負けだけど、顔は12、3歳ぐらいに幼いのだ。
もしかして俺、ロリコンなのかな?
「もー、どうしてこうなっちゃったのよ。私が城主だったのにぃ」
泣き言を言っているが、それはアリスが命惜しさに俺に城主の証を差し出したから、完全に自業自得だ。
同情の余地なし。
「アリス、諦めろ。城主は俺だけど、君のことは守るからさ」
「…………でも」
「分かってる。そんな簡単に割り切れるもんじゃないって。でもさ、今はそんなこと言ってる状況じゃないんだろ?」
詳しい現状は分からないが、ファルマ王国とやらに包囲されているみたいだから、相当にやばいことは想像できる。
というか、初っ端のアリスの言動から、いつここに押し入られても不思議はないという状況なんだろうな。
「……わかったわ。とりあえず今はあなたが城主でいいわ。今の状況と城主についても簡単に説明するわ」
『ストップです前城主アリス。それを求められたのは私です。勝手に話さないでください』
「ふーんだ。あんたなんかもう知らない。どうせアキトの中に入って手も足も出せないんだし」
『現城主アキト、この者は超が付くほどのポンコツです。切り捨てることを推奨します』
「……そんなこと、しないわよね?」
アリスが不安な面持ちで聞いてくる。
なんだこれ、どうして俺がこんな板挟みみたいな状況になっているんだ?
かたやヒロイン候補のアリス。かたや重要な物であろう城主の証。
こいつら、仲良くしてくれねえかな。仮にも5年間一緒にいたっぽいのに。
「とりあえず説明してくれ。この国の詳しい状況と、城主とサモナーのできることを」
「……そうよ、城主にはサモナーの適性がないとなれないのに、どうしてアキトがなれるのよ。サモナーの才能があるのはその家系以外だと、何万人かに一人の確率よ」
『前城主アリス、無能を晒すのはそれぐらいにしなさい。何万人に一人という確率は0ではありません』
「なによあなた、私に厳しすぎない!? 仮にも城主だった存在よ!」
「おっしゃる通り、城主だった存在です。今はただの人より少し、いえ、かなり劣った一人の少女にすぎません」
「…………ぐすっ」
おーっとぉ、これ以上泣くのは困りますよお嬢さん!
何も知らない人が見たら俺が泣かせたとか思われかねない状況なんだから。
幸いにもアリスの人望のなさゆえに誰もこの城の中にはいないが。
「シロちゃん、アリスに謝りなさい。さすがに言い過ぎだ」
『前城主アリス、現城主アキトの命令により仕方なく謝ります。申し訳ございません』
「ちっともうれしかないわよ!」
まったく、なんて夢だ。
これっぽっちの興奮もワクワクもない。
俺の夢だというのに、ちっとも俺を中心に話が進んでいる気がしない。というか、話自体がまるっきり進んでいる気がしない。
「どっちでもいいから早く説明してくれない?」
「私が説明するの!」
『却下。アキトが説明を求めたのは私です。ポンコツアリスは引っ込みなさい』
「はいはい、喧嘩しない。じゃあ、現状についてはアリスが、城主とサモナーについてはシロちゃんが説明するってことで」
もう少し仲良くできないもんか。
アリスはまあ、さっきまで自分の物だった城主の証に馬鹿にされてるから怒るのも分かるが、城主の証、シロちゃんは5年もアリスと一緒にいたはずなのに、情の一つも沸かないのだろうか。
「……じゃあそれでいいわ」
『城主が言うのであれば、私に拒否権はありません』
「じゃあまずアリス、今の状況を簡単に説明しろ」
「ええ。このイクス王国は現在、ファルマ王国に包囲されているわ。部下たちはみんな私を見限って寝返り、今ではこの王国にいるのは私とアキトだけよ…………ぐすっ」
「自分で言ってて泣くなよ。泣きたくなる気持ちは分かるけど。そんで、俺たちを取り囲んでいる相手の戦力は分かるか?」
「人間の兵士が5千人くらい。モンスターの類は見当たらなかったわ」
やはりモンスターがこの世界にいるのか。しかも人間が使役できる類のが。
サモナーっていうのがあるからそこまで驚きはないが、正直勝てる気がしない。
今はこの城を取り囲んでいるのは人間だとしても、こいつらを追い払えば第二陣が来る可能性が高い。
そりゃあ俺は秀才だ。俺より劣った人間は世界に多数存在していたさ。
だが俺は天才じゃない。俺より優れた人間はどんな分野にでも存在した。勉強でもスポーツでも、俺は決して1番になれなかった。
そんな俺が、一国を相手に一人の女の子を守る? はっ、出来るわけがない。
「次はシロちゃん、城主とサモナーについて教えてくれ」
『はい。城主というのはその名の通り、この城の主。この城をどのようにするかを自在に変更していくことが出来るのです。城主アキト、掌を上に向け、キャッスルメニューと唱えてください』
「ああ。キャッスルメニュー」
言われた通りに行動すると、俺の手の平からまたゲームのウィンドウのようなものが表示された。
ウィンドウにはキャッスルメニューと書かれ、様々な項目が記されている。
サモン、カメラ、国民など様々だ。
『そのメニューを使えば、城を自由に管理できます。命令してくだされば、一つの動作でメニューを出すことも可能です。たとえば、指を動かしたらメニューを出すようにしろと言われれば、その通りにします』
なるほど、便利だな。
「ちょっとまって、私そんなの知らないわよ!? いつもキャッスルメニューって言って出してたわよ!」
『アホの子アリスには言ってなかったので』
「何で言わないのよ!」
『……次にサモナーについてですが、サモナーは一般サモナーと城主サモナーの2つがあります』
「無視!?」
やっぱ漫才だなあ。この2人、案外よくやっていけるんじゃないのか?
アリスが突っ込み、シロちゃんがボケ。うん、結構人気でそうだな。
『サモナーは様々な物を召喚できる存在であり、一般サモナーと城主サモナーの違いは召喚できる物の種類と数でございます』
アリスが文句を言いまくっているが、そのすべてを無視してシロちゃんは説明を続ける。
『今回は急を要するので、城主サモナーの説明のみとします。キャッスルメニューのサモンを開きます』
そう言うと、キャッスルウィンドウは俺の意思を無視して勝手に動き出した。
説明を受ける側なのだから特に問題はないが、城主の証がこんな勝手に動けたら問題じゃないのか?
『なお、私が城主の命令なしでウィンドウを動かせるのは登録されてからの30分間のみですのでご安心を』
俺の心を読んでいたかのように補足説明をしてくれた。
それから簡単な説明をしてくれて、サモナーについてはある程度分かった。
まず、この城にはキャッスルポイント、通称CPと呼ばれるものが存在し、それを使ってあらゆるものをサモン、召喚するということだ。
召喚できる物は多数存在し、生物から無機物まで、CPの許す限りいくつでも召喚できる。
だが召喚できる物にも制限があり、一定以上のCPを貯めることにより、その制限が解除されて新たな物の召喚権が手に入れられるとのことだ。他にもいろいろ条件はあるみたいだが、今回その説明は省かれた。
そして肝心の現在のCPだが、
『現在のCPは1000.リザードマン10体ほど召喚できます』
これだ。この国を取り囲んでいる兵士の数はおよそ5千、リザードマンがどれほどの強さかは定かではないが、勝てる要素はほぼ0だろう。
そしてなんでこんなにCPが低いのかというと、
『1週間ほど前、アリスが大量のポイントを用い、壁を召喚しました』
アリスは自分の身を守るために、なけなしのCPを防衛に費やしたのだ。
ポンコツだとは思っていたが、まさかこれほどとは。
『ちなみにこの壁、周囲の兵士の力を平均的な力と仮定した場合、あと1日で突破されます』
「だ、だってしょうがないじゃない! 兵士がたくさん来て、殺されるって思ったんだもん!」
「……はあ、シロちゃんにも責任があること、分かるよな?」
『後悔はしていません』
「いやしろよ!」
なんだ、この城が滅んでもいいって言うのか?
確かにアリスはポンコツだが、それでいいのか城主の証よ。
『捕捉しますと、召喚した生物、および物体はCPに還元することが出来ます。その際、召喚時の10分の1以下のCPになりますが』
「わかった。それじゃあ今から召喚できる物を物色するから、2人とも、静かにな」
そう言って、俺はサモンメニューを真剣に眺める。
たとえ夢だとしても、やれるだけのことはやってやろう。
仮にも神の頼みだし、それにアリスを守ってやりたい気にもなっている。
さすがに同情した。部下に見捨てられて、城主の証にすら城主としてはポンコツだと思われていたってことだしな。
正直この子を守り切れる自信はないけど、まあ頑張ろう。
1話2話と細かいミスが多かったので修正しておきました。
今後も結構多いと思うので、ご容赦してください。




