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決着はついた

 予定よりも早い到着だった。

 少人数でこの玉座の間に来るように誘導する、それが俺の狙い。

 その思惑通りに事が運び、俺はこんなにうまくいって逆に不安になってきた。

 あとアリスだ。こいつ、手筈通りに行動できるよな?


「おいアリス、さっさと手筈通りの言葉を言え。早くしないと首を刎ねられるぞ」


 俺は玉座の間にある椅子の後ろで、敵に気付かれないようにアリスにだけ聞こえる声で話しかける。

 その言葉を聞いたアリスは小さな声で「わかった」と言い、敵に向かって言葉を発した。


「ままま、まあ待ちなちゃい。きょの戦争ももう終わり、話しぐらいしゃせなしゃいよ」


 俺は噛み噛みの言葉を聞きながら頭を抱えた。

 この野郎、恐怖で舌がうまく回ってやがらねえ。

 敵に存在を知られるのはいやだったが、ここは姿を現して……


『城主アリス、落ち着きなさい。あなたは死なない』


 姿を出そうとした瞬間、俺の手からシロちゃんがしゃべりだした。

 ……まさか、今アリスをフォローしたのか?


「ほう、城主の証に認められたのか。絶体絶命のピンチを切り抜けようと知恵を振り絞った結果、城主として成長するとは皮肉よな」


 敵は感心したような声をあげる。

 どうやら城主の証については俺やアリス以上に知っているとみて間違いない。

 だが、こいつは知らない情報を俺は知っている。

 勝敗を分ける最強の情報がな。


「いいだろう。貴様の最後だ。話ぐらい聞いてやろう」


 敵は余裕綽々と言った感じでこちらの言い分を聞いた。

 もはや自身の勝利を疑っている様子はない。


「え、えっとえーっと……アキト、なんて言うんだっけ?」


 ヒソヒソとアリスはこちらに聞いてくる。

 この野郎、人が3時間かけて考えてやった台本をきれいさっぱり忘れてやがる。


『城主アリス、効率性を考えて私が説明します。あなたは黙っていて構いません』


 アリスをフォローするようにシロちゃんが言葉を紡ぐ。

 これは珍しくアリスのことを考えての行動か、もしくは本当に効率を考えての発言なのか。

 どちらにせよナイスフォロー、さすがシロちゃん。


『まずはこちらをご覧ください』


 シロちゃんがそう言い、空気中にモニターが映し出された。

 カメラ機能を第三者にも見やすくするために、普段よりも大きく見やすい画面だ。

 敵はその画面をまじまじと見つめる。


「……この城の様子だな。それがどうした?」


『御覧のように、城主はこのように場内を閲覧することが出来ます。次にこちらをご覧ください』


 カメラの映像をシロちゃんは切り替える。

 その映像を見て、敵は余裕の表情を崩し、愕然とする。


「なっ……!? それは、私たちが拠点としていた……」


『その通りです。あなた方が拠点としていた村を映しているのです』


「バカな!? カメラの映像の範囲には制限がある! ここから映し出すことなど不可能だ!」


 敵は否定の言葉を続ける。

 その反応は俺に勝利を確信させ、自然と口角がつり上がる。


『無論、音声付きです。遠距離の情報も容易に手に入れることが出来る、というわけです』


「そ、そんな馬鹿な……そのような機能、あっていいはずがない! でなければ、この世界中の国が疑心暗鬼に陥るぞ!」


『なるほど、多少は頭が回るようですね。あなたのおっしゃる通り、こんな機能があれば世界は疑心暗鬼に陥り、ロクに機能しなくなる可能性もあるでしょうね。だからこそ私たち城主の証は、この機能を知らせないという暗黙の了解があるのです』


「な、ならばなぜアリスにそれを教えた!」


『この国に希望を見たからです』


 シロちゃんは淡々とした口調で語る。


『あなた方も身をもって感じたでしょう? この状況にありながら多大な被害を負わせた知恵を。私はもはやこの国を蔑んでさえいました。それは先々代の時代からです。ですがこの国の崩壊という危機に直面した時、事態は変わりました。蔑みの感情は薄れ、私はこの状況をどう覆すのか、それを見てみたいと思ったのです。だからこそ、この方に他の城主の証が教えずどの国の城主も知り得なかった情報を与えた』


 シロちゃんの紡ぎだす言葉に、敵は愕然とした表情ながらもどこか納得のいく顔をしていた。

 目の前の少女アリス、この子にしてやられたと考えている敵は真にアリスの知恵を認めている。

 アリスにやられたのだと、信じて疑っていない。

 事実はまるで違うのだが、それを想定しろと言うのはあまりにも酷な話だな。


「……理由は分かった。私たちの作戦も筒抜けだということがな。だがそれがどうした。私たちは今アリスの目の前にいる。この状況を作りだした時点で私たちの勝ちだ」


 消えうせた余裕が、時間とともに蘇っていく。

 知らなかった機能、それを知らされたことによる驚きはもはやなくなり、状況を冷静に見て自分たちが圧倒的優位に立っていることを確信している様子だ。

 話は全て終わったと考えた敵はジリジリと歩み、今まさにアリスの首を刎ねようと動き出した。

 その一歩を見てアリスはほんの少しの怯えを見せるが、アリスもまた時間とともに冷静になったのか、目の前の武装している男たちを前にしても毅然とした態度で言い放った。


「あなたたちの負けは決まっているにょよ!」


 ……大事なところで噛むなよ。

 締まらないアリスの言葉に頭を抱えながらも、アリスの言葉通り俺は勝利を確信している。


「……この状況で、まだ私たちを殺す罠があるとでも?」


「そんなものは存在しないわ!」


 当然の疑問に対して当然の様に言い放つアリス。

 敵は呆れながらその歩みを進める。

 ハッタリに付き合ってなどいられない、そう言いたげな顔をしながらアリスを殺しにかかる。

 だがその歩みを、映している映像の切り替えが止める。


「この場所、見覚えがあるでしょ」


「そ……そこは……!?」


『ファルマ王国の領土、ですね』


 歩みを止めた敵は、口を開けて映像を見つめている。

 その様子に気をよくしたのか、アリスはほんの少しだが笑みを浮かべた。

 ビビリのアリスでさえ、勝利を確信したようだ。


「我が国を映し出し、何がしたい?」


 映像を見た瞬間は驚きに満ちた表情を浮かべていたが、すぐに冷静さを取り戻した。

 まあ、城主の証の新機能を知ったばかりなのだから、こういうことも可能なのだろうとすぐに考えが及んだのだろう。

 そこは素直に評価すべきところだ。

 だが、それでは浅い。


『先程は説明を省きましたが、遠距離の映像は召喚した生物の視覚と繋がっているのです』


「……視覚、だと?」


『つまり我が城主が召喚した生物、この場合はあなた方を襲った黄色い虫ですね。それがファルマ王国にいるということです』


「あ、あの黄色い虫が!?」


 蜂による被害を思い出したのか、敵は思わず重装備にあるほんのわずかな隙間を手で覆って隠す。

 そんな心配しなくても、お前らには何もしないさ。

 怯えを見せる敵に追い打ちをかけるように、シロちゃんはさらなる事実を語る。


『現在ファルマ王国を包囲している黄色い虫、ハチの数はおよそ20000です』


「2、20000!?」


『国の総人口に比べればそこまでの数字ではないように見えますが、あなたはどうお考えで?』


 意地の悪い質問だな。

 よっぽどの馬鹿でもない限り、この状況に気付いているさ。

 自分の国が人質に取られているってことがな。


『一応言っておきますが、もしも城主を殺せば召喚したモンスターは最後に与えられた命令、人類を滅ぼせ、を忠実に実行します。さらにこの状況を写した映像を世界各国に送ることもできます。国を取るか己の保身を取るか、どちらを選択していただいても構いませんよ』


 どちらでもいい、そう言うシロちゃんだが、実質とれる選択肢は一つしかない。

 ここで国に帰れば戦犯として扱われるだろうが、国は残る。

 だがアリスを殺せば自身の国を見殺しにした大層ご立派な騎士様だ。その様を世界に送られれば、こいつの生きる世界など無くなる。

 世界中に自分の醜態をさらすか、自分の国にだけ非難されるか、考えるまでもない。


『ちなみに、ファルマ王国の戦力はこの城に集中している所為で、あまり整っていないことも承知済みです。一縷の望みにかけて国が防衛を成功させる、という可能性も皆無です』


 この言葉が引き金になったのか、ファルマ王国の兵士は撤退の選択を取った。



 戦争は終わった。

 俺の誘導通り、最終的に敵の大将らしき人間を玉座の間にて引きずり込むことが出来、さらに大将についてくる部下の数も100人以下にとどめておくことが出来た。

 そして最後の最後、こちらの交渉を聞くという保証がない以上、何かあるかもしれない、うかつに動いてはいけない、そう思い込ませ、行動を躊躇うように出来た。

 俺の考え通りに敵は動いてくれ、そして敵も知らなかったカメラの情報を利用することによって、敗北の言質も取った。

 しかも敵は自分たちの情報が筒抜けになっていることも知っている。

 うかつにこの国を攻めてくることも出来ない。

 一応の脅しとして、常に見張っていると伝えたからな。

 敵もこちらにスパイを送る、といった選択肢も取るにとれないはずだ。

 これでアリスを救うという神の願いをほとんど(・・・・)叶えたと言える。


「さあ、最後の一仕事だ。アリスのこと、完璧に救ってやるとするかね」


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