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敵とのご対面

 数にして500、ってとこかな。

 俺は城下に散りばめていた罠にかかる兵士たちを見て、冷静に戦況を分析する。

 罠の内容は多種多様だ。

 ガスを使った目に見えない物、ゴブリンに命じて対象が部屋に入ったら火を放ちガス爆発を起こさせる物、毒を持つアリや蚊を用いて重装備の細かな隙間に忍び込ませる物、多種多様だ。

 その戦果が約500.

 万を超える数の兵士たちからすれば雀の涙程度の物だろうが、用意しておいた罠にことごとくかかることから、この戦争の主導権はほぼ俺が握っているとみて間違いない。

 狙い通り罠を恐れた兵士の動きは亀のごとき鈍さ、それでいてこの世界では考えられない罠を繰り出すことによって慎重に動いていても死ぬという恐怖を刷り込む。

 立場が逆なら俺は速攻で逃げていたな。

 だが敵は逃げない。圧倒的な数を誇っていることからくる慢心か、それとも二度の失敗は許されないという使命感か。

 なんにせよ、このまま直進を続けるのならばやることは決まった。

 敵の行動を誘導し、勝利という二文字を頂戴するとしよう。


「アリス、ゴブリンの様子はどうだ?」


「多少やけどがあるけど、死にはしないと思うわ。思ったより元気だし」


「そうか」


 この玉座の間には、俺とアリスにシロちゃんだけでなく、複数体のゴブリンもいる。

 戦力としては数えることが出来ず、俺とのタイマンでも負けるほどの雑魚だ。

 役割としては敵兵士が部屋に入った時に罠を作動させる完全な捨て駒。だが、捨て駒として殺すつもりは毛頭ない。いかな存在とはいえこの城で城主たる俺が召喚したモンスター、それを見殺しにするような作戦はたてない。

 危険だが各部屋に抜け道を作り、ちゃんとゴブリンたちの退路は作っておいた。


「こっちは負傷者3体、あっちは死傷者500。良いペースだ」


「……でも、ゴブリンは全部で10体よ? このままのペースじゃ……」


「いんだよ。全部俺の予想通りの展開だ。ここまでうまくいくとか、自分でも恐ろしいほどにな」


「アリス、城主アキトを信じなさい。何もできないあなたは城主アキトを信じるぐらいしか取り柄がないでしょう?」


「いちいち腹立つわねあんた! あんただって何もしてないでしょ!」


「私の考えた罠で100人ほど始末しましたが、何か?」


「……うっさいバカ!」


 そっぽを向いて不貞腐れるアリス。

 敵に攻め込まれているというのに緊張感ゼロだ。

 だがまあ、シロちゃんはある程度役に立ち、アリスはほとんど何もしてないから、この状況が出来ることも予想していた。

 この2人の行動はもはやテンプレ、お約束みたいになっている。


「そうこう言ってるうちに、また敵が罠にはまったぞ。今度は幽閉部屋に。これで20人は戦線離脱だな」


 着実に数は減っていき、敵は一度一か所に集結する動きを見せた。

 カメラから見る限り、明らかに戦意が落ちている。

 隊長格らしき人間が兵士を鼓舞して何とか立て直しているが、それでも一度落ちた戦意が再び上昇する兆しは見えない。

 重い足取りで今度は城へと直進を初め、周囲の索敵をすることはない。

 俺の考えに気付いて、無駄な行動をしていたことに気づいたみたいだな。

 だが城内にも罠は散りばめている。

 無事にたどり着ければいいな。



敵兵視点


 まさかこれほどまでの被害にあうとは。

 罠一つ一つ見てみればそこまで規模の大きいものではない。被害数は少なく、部隊全体から見ればまだまだ問題ない。

 が、目に見えぬ罠を繰り返し行うことにより、兵士たちの戦力を削がれている。

 私ですら精神は摩耗し、一度休息をとりたいところだ。

 しかし休むわけにはいかない。

 一度休憩をはさみ再度撤退すれば、また新たな罠を構築される恐れがある。

 今この時に、全勢力をもって城を落とさねば、私たちの勝ち目が消えてしまう。


「総員、私に続け!」


 私は一度兵士を一か所に集め、城内に向けて直進を始める。

 認めたくないが今までの私たちの行動はアリスによって誘導されていたものだ。

 無駄なことを繰り返し、無駄な被害を生み出した私は、無能だな。

 だがそれでも私たちが負けることはありえん。

 人海戦術、数の暴力、圧倒的戦力差を戦術によって覆すなど不可能だ。

 被害を被ったとしても私たちの勝利は間違いない。

 死を恐れず、ひたすらに前に進めば勝利は間違いないのだ。


 城内に入り込み、中の様子を探る。

 敵の大将が玉座の間にて待機しているとは限らない。むしろ別の場所に隠れることこそが常道だ。

 ここまでいくつもの罠を張り巡らし、知略の限りを見せつけてくれたアリスだ。

 何も考えずに玉座に居座っているとは考えられ……いや、裏をかいてあえて玉座の間にいるとも考えられる。いやその裏をかいて……考えても仕方ないか。


「これより約200名で城内を調べる。50人ずつの4部隊に分かれろ」


 号令とともに待機していた兵士たちが一斉に動き出す。

 ……のはいいのだが、援軍としてきた兵士たちは勇んで部隊入りを懇願するのだが、最初からいた兵士たちは私に指名されないようにコソコソと身を隠している。

 まったく情けない。

 私は兵士を大体の数を選抜し、部隊を構成する。

 私の部隊はもちろん玉座の間へと直進する部隊だ。

 仮にいないとしても城の主幹となる部分を制圧することが出来れば、私たちの勝利は疑いようがない。

 あとは私たちが罠にかかって死にさえしなければ、それでこの戦争は終わりだ。


「……あまり、何もないな」


 玉座の間への道のりには驚くほど何もない。

 死を覚悟するほどの罠も、あの正体不明の虫も、何もだ。

 安全に確実に進むことが出来て、逆に不安になってくる。

 私はまたもやアリスの思惑通りに動いているのではないか?

 もしや玉座の間には何かとてつもない生命体が潜んでいるのではないか?

 あの虫など可愛いと思えるほどの危険生物が…………今の私に勝てるだろうか。

 CP10000ほどの敵なら私でも倒せる。だがアリスは巨大壁をCPに還元して戦力を整えた。

 ならば私にとって未知のモンスター、既知であっても恐ろしく強いモンスターがいる可能性は否定できない。

 ここはさらに数を増やすか? いや、城内にそんなに数を入れても満足に動くことが出来ない。

 今の人数がうまく動くのに最適な数だ。

 いやだが、あと20人ぐらいなら追加しても問題はないか?

 などと、いるかもしれないモンスターを想定し、戦力の追加を使用かと思案を巡らせているといつの間にか、すでに玉座の間の目の前についてしまった。


「……強敵の気配は、しないな」


 CP10000以上のモンスターならば、壁を隔てていようともその気配を察知することが出来る。

 それが感じられないとなると、ここには何もいない?

 モンスターはおろかアリスも別の部屋にいる、と考えるのが自然か。

 ならば臆することはない。玉座の間を私たちの拠点とし、時間をかけてゆっくりとアリスを探せばよい。

 この勝負、私がもらった。

 私は勢いよく玉座の間の扉を開いた。

 そこには……一人の少女がいた。


「よよよ、よく来ちゃわね!」


「……アリス、か?」


「しょ、しょうよ! 私がこの城の城主、アリシュよ!」


 噛み噛みの言葉、敵を目の前にして怯え、足を震わせ目に涙を浮かべながらも毅然な態度を取ろうとする姿は、どこか小動物のようにすら思える。

 今までえげつない罠を張り巡らせた少女とは、とても思えん。

 いや、演技の可能性がある。

 私を騙して油断させ、その隙に命を狩り取るつもりかもしれない。


「アリスよ! 貴様の首を取りに来た!」


「ひっ! や、やれるものならやってみなしゃい!」


 ……演技、なのだよな。

 もはやその姿に一切の威厳を感じることが出来なくなった私は、ため息をつきながら剣を抜いた。


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