アキトですけど?
「…………ここどこ?」
気付くと、そこは何もない真っ白な空間。
はて? 俺は部屋でテスト勉強していたはずだが……ああ、寝落ちして夢を見ているのか。
それじゃあ目を閉じてもう一度眠りにつくとしよう。
良い点数を取るためにも休息は必要だ。
「目覚めよ」
「ん?」
突然、声が聞こえた気がした。
が、声をした方を振り向いても誰もいない。周りをキョロキョロと見まわしてみても誰もいない。
気のせいか。
「目が覚めたようだな。アイトよ」
また声が聞こえた。だがやはりどこを見ても誰もいない。
変な夢だな。
あと、一つ間違っている。
「……アキトですけど」
「は? いやいや、お主は麻生アイトであろう? 麻生アイト、21歳。T大三年生の」
「佐藤アキト、17歳。私立S高校ですが?」
「…………間違えました」
「そうですか。おやすみなさい」
間違い電話ならぬ、間違い夢か。面白いこともあるもんだ。
さーて、明日のテストに備えて睡眠を……あ、今その睡眠をとっているところか。
じゃあ夢の中で眠るよりも、この場で起き続けた方が体にはいいのかな?
「あーっと、そのー、わしの話、聞いてくれる?」
「いいですよ。朝まで暇なんで」
「うむ。その前に自己紹介をしておこうか。わしは神だ」
「へー」
これはどんな夢だろう?
俺は無神論者なんだけど、心のどこかでは神とか信じてたのかな?
ああ、今は神様を頼りたい時期だな。
「信じてないな? 絶対に信じてないじゃろ!?」
「やだなあ、信じてますよ。あれですよね? テスト前の俺の前に現れてくれた学業成就の――」
「ちがわい! 学業成就だなんだと、神はそんなに細かく分けられてないわ」
「じゃああなたはなんの神なんですか?」
「創造の神じゃ」
「……人の趣味にとやかく言いたくはないですが、妄想するのはちょっと」
「妄想ではない! 創造じゃ!」
この人、ちょっとおもしろいな。
からかい甲斐がありそうで是非とも直接会ってみたい。
「ったく、これだから神が希薄になった世界は嫌いなんじゃ」
おーおー、グチグチと文句を言うねえ。
これが神か。宗教団体とかが見たら暴動が起きるんじゃないのか?
「それで俺に……というか、麻生さんに何の話があったんすか?」
「うむ、本当は完璧超人の麻生君に頼みたかったんじゃが、仕方ないのう」
間違えたのはそっちなのに、なんでそんながっかりされなくちゃいけないんだ。
こんなに俺に優しくない夢があっていいのだろうか。
ああ、悪夢か。
「時にお主、なにか他者よりも秀でた特技とかないかのう?」
「特技ですか? 秀でてるわけではないですが、一応やっていたこととして、空手とサッカー4年、柔道2年、バスケ半年、水泳3カ月、野球とテニスが1カ月、バドミントンが10日、他にもいろいろなスポーツを3日ずつ……あ、卓球は教室に行く途中にめんどくさくなって行きませんでした」
「……やりすぎじゃね?」
「多感なお年頃ですからね。でも結局は全部やめて、アキトはずいぶん飽きっぽいなんて、周りからは言われてました」
「まあ、それだけやっていればの。成績はどうじゃったんじゃ?」
「大会とか出たのは空手と柔道、それとサッカーだけですが、空手は中学2年の時に全国ベスト8、柔道は小3の時に地区2位、サッカーは中3の時にボランチをやってて全国ベスト4でしたね」
「す、すごいではないか。よし、なら勉学の方はどうかな?」
「S高校自体はそんなですけど、全国模試では57位でした」
「なるほど、さすがはわしが見込んだだけのことはある」
間違えて俺のことを呼んだくせに、現金な神だな。
まあ俺の成績だけを見ればかなり優秀な部類に入るからな。何をさせるにしても、常人以上にこなせる自信もある。
「で、俺に何させたいわけですか?」
「うむ、話が早くて助かるぞ。実はお主に助けてもらいたい女の子がおるんじゃ」
なるほどな、そういう夢か。
うーん、俺には英雄願望があったのか。そんなものはとっくに卒業していたつもりだが、そこはやっぱり男の子、大人に成り切れない部分もあるということか。
「……まあ、出来る範囲なら別にいっすよ」
「アリスというんじゃが、今この子がピンチなんじゃ」
「はいはい、分かりましたよ。それで、どうやって助ければいいんですか?」
「簡単じゃ。サモナーとなり、危機から救ってやってくれ」
「サモナー?」
「詳しい話はアリスから聞くのじゃ」
「丸投げっすね」
「……さあアキトよ、アリスちゃんの救世主よ。サモナーの力はわしが開花させた。言語能力も授けた。わしに代わりアリスちゃんを救うのじゃ」
……早くこの夢、覚めねえかなあ。
アリスちゃんとか言ってるし、これ完全に私情をはさんだ頼みだよ。
ん? なんか俺の体が光ってるな。
ようやくこの夢からオサラバ出来るってことか。
よかったよかった、いかに秀才の俺とはいえ、こんなアホみたいな神の話なんか、思わず笑いそうになっちまうからな。
さっさと起きて、明日のテスト勉強しないとな。俺は天才じゃなくて秀才なのだから。
「はあ、アリスちゃん。まだ無事だといいが……」
神と名乗った者はハラハラとした様子でそのアリスという子を心配している。
アリスという子がどんな子なのか、神とどんな関係なのか、そんなことは俺の興味には全くなく、夢と思っていた世界で俺は眠りについた。
初連載です!
思い付きで始めたので、ストックは全然ありません。
やれるとこまでは毎日やりますが、おそらく1週間もたずに2日3日置きの連載になります。




