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第三章 美しき芸術家

第三章の始まりです。

今回はヒロインの挙動を楽しむための回ですので、気をだるんだるんにしてお楽しみください。

          1


 人間という生き物を語る上で、どうしても外せない要素がいくつかある。その内の一つが『芸術』であると、私は思う。人はどうしても己を、何かを他人に訴えたいものなのだ。

 人の、己を示したいという欲を抑えることは非常に難しく、それに突き動かされた人間は稀に奇行に走る。頭の回路が焼き切れる。取り憑かれたように己を示す。冷静な人間ならば、どうしてそこまでするのだろう、と頭を傾げるだろう。

 彼等、アルル族は常人ならば頭を傾げるどころか頭を抱える程の奇人が揃っている。己の表現に取り憑かれた盲人だ。何かしか見ないなど、何も見ないと同じ事。

 その盲人達にさえも変わり者と噂される一人の女がいる。彼女は、生まれてからの私生活の時間の全てを、自己表現に充てた。己の街にはもう描くものもなく、外の世界を見たいと渇望した。しかし、己の細腕に外の世界は危険すぎる。外に行きたい幼き自分、危険からは身を離したい大人の自分、二つの鎖は彼女を街に縛り付け、首輪をかけた。

 街に飼われた天才が、ノア達と出会う――


          2


 荒野を行く二人の前に、街が見えた。二人は何処其処で拾った枝を杖がわりにもたれかかり、疲れきった顔をしている。アルル族の暮らすこの街、『オーク』に辿り着く為に二週間を費やしたのだ、疲れもするだろう。元々は四日も歩けば辿り着くはずだったのだが、セトがスケイルを見当違いの方向に飛び出して、ノアが追いついた頃にはすっかり方向を見失ってしまっていたので、そこから遭難が始まったのだ。

 辛く過酷な道程に、食料と水も尽きて、降った雨で飢えを凌いだ。セトにとっては初めての遭難、ノアに至っては二度目の遭難であった。旅の先行きを案じずにはいられない。しかし、今は先を考えるよりもやらなければならない事がある。


「あった……オークだぞ、ノア……」

「あぁ、あれが……。初めて見る街に対して感想よりも先にこれを言うのもどうかとも思うんだけどさ、とりあえず街に入ったら食事ができるところを探そう。感動するのはそれからだ」


 そう、逼迫(ひっぱく)した問題として、飢えと乾きが限界の域にきているのだ。何を考えるにしても、まずは水と食料だ。これがなければ人間は生命を維持することが出来ないのだから。


「言いにくいんだけどよ、ここにはそんな気の利いた所はないぜ……?」

「ははっ、何も飲食店に行こうなんて思っていない。どこかで食材くらいなら売ってる場所があるだろ」

「無いんだって」

「馬鹿なこと言うなって。それじゃ生活なんて出来やしない。アルル族は自給自足の生活をしているわけじゃないんだろ?」


 セトは自嘲的に鼻を鳴らす。なるほど、これが冗談ではないのだと諦めが混じっているのだ。


「俺がまだ小さい頃、ゼウスのおっさんがここに用があるって時に、無理やりついてきた事があるんだ。俺は町に着くなり腹が減ったとぐずってな、親父に飯を食おうとせがんだんだ……」


 ノアが息を飲む。乾いた舌が口蓋を撫でた。唾さえも生成することが出来ないほど乾ききっている。


「結局、スケイルに戻るまで自分達で用意してきた飯しか食えなかった。その時のおっさんのセリフ、今でもよく覚えてるぜ。『ここに来る時は荒野を歩くのと同じ装備が必要なんだ』ってさ」


 人間は、水さえあれば一週間は耐えられるという。だが、水も食料も無い状態では三日ともたないそうだ。つい先日雨が降ったのでそれを舐めてはいたものの、十分な水分量とは言えない。今すぐにでも浴びるほどの水と、はち切れるくらいの食料をかきこみたかった。


「じゃあ、アルル族はどうやって生活してるんだ?」


 それがわからないことには、最悪、物乞いをしなければならないだろう。妹を蘇らせる為なら、どんな罪をも背負うと誓ったノアだったが、できればそれだけは避けたかった。


「一週間に一回くらい行商人が来るらしい。その時を狙って買いだめしとくらしいぜ、一週間分」

「そう上手く行くといいけど……」

「大丈夫、俺達は運がいい、遭難してもこうして目的地に辿りつけたじゃないか。今回も大丈夫!」


 物乞いはセトにやらせよう。ノアは乾いた笑いを含みながらそう思った。

 オークへ入るまでの道中、ノアは偶然を装って何度かセトを蹴った。




 石で整備された道路は、色の違う石が所々で幾何学模様を形作っている。石造の建物は冷たく道路の両側に佇んでいた。ただ石を組んで組み上げた建物では無いらしく、近づいてみれば色つきの石からは青臭い香りが漂って来る。おそらく石の色は天然のものではなく、野花を擦り潰して色を取ってきているのだろう。

 イメージしやすい例を挙げるのなら、イタリアのベネティアを想像していただければ相違ない。ベネティアの街に更に芸術的嗜好を織り込み、過剰な華やかさを加えていただければ、更に相違は埋まる。

 慎ましさが感じられないのはおそらく、この街自体が住民達のカンバスだからだろう。色々な人間の自己表現がぶつかり合い、結果こうしてまとまりのない華奢(かしゃ)な街が出来上がったのだ。街を歩くだけで目が疲れる。

 目を(しばた)かせながら二人は街を歩いた。しかし、人の気配がない。石造りの道路に靴が触れる度に足音が辺りに響く。まるでゴーストタウンのようで、どこか恐ろしくもあった。本当に住民はいるのだろうか。

 しばらく歩いていると、赤い壁の家のドアが開き、ボロボロの布切れを重ねたような外套(がいとう)を身に纏った男が現れた。ノアは、その服装には見覚えがあった。知っている男と違い、短い髪を丁寧に後ろへ撫で付け、細く締まった顔には髭の一本も見当たらない。鼻は高く、目の堀も深い。まさに正反対といった容姿だったが、ノアには彼が行商人であるということがすぐにわかった。


「あのっ」


 ノアは男に駆け寄り、声をかけた。


「ハロウって奴と知り合いだったりします?」




「なるほどね~、あいつまだ生きてるんだ」


 大人びた容姿の割には子どもみたいにころころ笑う。懐かしい名前を聞いたと機嫌を良くした男は、金も取らずに水と食べ物をご馳走してくれた。男は、行商に使っているという馬車から両腕に抱き切れない程の果物を持ってきてくれた。甘くとろけるような果物を食べ終わると山のように干し肉が置かれ、それを平らげると、今度はさっぱりとした酸味が美味しい果物が置かれた。二人はその全てを平らげ、少し大きくなった腹を撫でると苦しげに声をあげた。


「満足したかい?」

「久しぶりに生きてるって感じだったよ」


 セトが恍惚と漏らした。当然だが、人が生きる上で食事は欠かせない行為である。これをしなければ死んでしまう、という欲求は、実は少ない。睡眠と、食事だけだ。よってこの二つは達成すれば至上の喜びを感じるのだ。


「僕は大陸を巡って商売するのを生業としている、ダールって言うんだ。よろしく」


 子どものような素直な笑みは、彼の大人びた容姿には少々不釣り合いだ。今という時代はこんな風に笑える人も少なくなってしまった。ノアは素直に「羨ましい」と思った。きっと彼には世界は美しいものに見えているのだろう。だからこんなにも人に優しくできるし、楽しそうに笑えるのだ。

 二人は互いに自己紹介を済ませ、乾燥させた花から煮出したという茶を啜った。


「二人とも、こんな辺鄙(へんぴ)な所に何か用でもあるのかい? 派手な荒野と変わりないだろう?」

「まぁ、ちょっと興味があって……」


 答えたのはノアだ。いきなり武具を探しに来たと言うのもなんだか躊躇(ためら)われる。仮にもアルル族が守り続けなければならない秘宝なのだ。素直に言えば、盗賊と思われても仕方ないだろう。そして実際、最終手段としてその(・・・)は考えておかなければならないのだ。目的を達成するために選ぶ手段は、非道なものであっても構わない。

 ダールは感心したように頷き、何かを思いついたように手を打った。


「ならさ、一週間後くらいにアルル族の展覧会があるんだけど、それに何か出してみたらどうだい? せっかくだし、いい経験になるよ」

「いや、さすがにそれは」

「駄目だよ、アルル族は傍から見ててもわからないんだよ? 自分から突っ込んで行かないと」

「でも、作品なんて作る時間は無いよ。一週間じゃ無理だ」

「一週間もある、と考えようよ。近くのいい石切り場を知ってるからそこに行こう。彫刻なら君達も取っ付きやすいだろう?」


 逡巡する。彫刻を作ること自体には抵抗はない。しかし、生まれて此の方絵画に音楽、彫刻にと、芸術漬けになってきた人間達の中に飛び込むのは、躊躇われる。場違いが過ぎるのではないだろうか。

 それに、こんな事をして遊んでいる場合でもない。一刻も早く武具を手に入れ、次の街に向かいたいのだ。ノアはやはりと断りを口にしようとする。しかし、その言葉は虚しく口の中で渦を巻くだけに留まってしまった。セトがいきなり立ち上がったのだ。


「よし、やろう」


 三人は馬車に乗り込んだ。




「じゃ、僕はこれで。機会があればレクイン族の村にも寄ってね、歓迎するよ」


 是非とも、と二人は頷き、馬車を見送る。と、ダールが揺れる背中から声を張り上げた。


「アルル族は怒らせない様にね。心を奪われるよ」


 不穏な言葉を残して馬車は去った。心を奪われる、とは一体どういうことなのか。通常この言葉が使われる時の意味合いは「他のことに意識が向かない様子」だとか「夢中になるさま」を表す。しかし、ダールの言葉はどうやらそういう意味ではなさそうだ。まだ何も分からないが、警戒しておくにこしたことはないだろう。


「よし、やるぞ!」


 セトはと言うと、先程からやけに機嫌が良い。彫刻をすると決めてからはまるで子どものように目を爛々と輝かせている。適当に鳴らす鼻歌が耳についてうっとおしい。苛立ちは募り、心を吐き出すようにため息をついた。


「ノア、早く行こうぜ!」

「なんでそんなにやる気なんだよ。正直な所、俺はこんな事をしてる場合じゃないんだけど」

「ノア、たまに遊ぶくらいの余裕が無いと、後々しんどいぜ? ゆとりが冷静な判断を助けてくれるんだ」

「それくらいの余裕はあるさ、俺は――」


 ただ、早く妹を救ってやりたいだけ――


 永劫の闇に呑まれた妹に、蜘蛛の糸を垂らしてやりたいんだ――


 言葉は飲んだ。これはノアだけの問題だからだ。話せばセトはきっと協力してくれるだろう。だからこそ、頼るわけにはいかない。汚い手を使うこともあるだろう。外道と罵られるかもしれない。そんな時、セトは一緒にいてはいけない。この気のいい男の手は汚されてはいけないのだ。ずっと綺麗なまま、自分の信じる闘いを極めて欲しい。そう思った。

 手を汚すのは自分だけでいい、なんてまるで酔っているようだが、セトはそう思わせるだけの純粋さで、ノアと闘った。どんな外道な行いをしようとも、この誇りだけは捨てずにいたいと、願った。


「昔ここに来た時からよ、ずっと気にはなってたんだよな。なんで石で人を作ってんだろうなぁとか、なんでずっと絵を描いてんだろうなぁとか。俺らはみんな壊す側の人間だからよ、こうして何かを作るってことは滅多にないんだ。必要なければ作らないし、作っても俺の家みたいな粗末なものしか出来ない。こうして、必要ないものを作るってのは、どんな気持ちなんだろうな。なんだか、ワクワクしないか?」


 セトの笑顔はいつも明るく、澱んだ心の毒気を抜いてくれる。ノアは呆れたように笑い、石切場へ歩いた。何故だか、少し救われたような、不思議な気分だった。それでも、彫刻をすることに賛成はしないが。

 そして、石切場である。

 ここでは主に花崗岩(かこうがん)が採掘できる。アルル族が彫刻を作る時はほとんどの場合、この石を使う。もう少し歩けば二水石膏も採れる場所があるのだが、彼らは加工の難しい花崗岩を選ぶ傾向があるようだ。固く脆い石を削ることで、己の技術を誇示する意味合いがあるのかもしれない。プライドの高い彼らならば充分にあり得る話ではある。

 他の人間の力を借りず、己の力のみで全てをこなす。他人に介入させたくない。なんでも一人でやってみせる。己の世界を創り上げるために、世界との関わりを絶つ。一から世界を創ろうとするならば、合理的であるかもしれない。

 だからこそ、一人で体の半分はある岩を運ぼうとしている彼女も、他人に助けを求めようとはしないのだ。


「ふ……ぐぅ……」


 見たところ、ノア達と大して歳はかわらない。足まで届こうかというプラチナブロンドの髪を腰のあたりで束ねた、瑠璃色の瞳の女。全身を包む薄青色のローブからは、ターペンタインが風に乗って香ってきた。横顔だけで、彼女が言葉では及ばぬ美しさを持っていることがわかった。女は陽に輝く朝露のような肌に玉のような汗を浮かべ、縄をかけた岩を引いている。


「手伝おうか?」


 気づけば口から漏れていた。己が出した言葉なのかと、疑いたくなるほど自然に漏れた。ノアがとっさに己の口を塞いだのは、抑えられぬ言葉が怖かったからかもしれない。

 女がこちらに気づき、顔を上げた。


「…………」


 女は問にも答えず歩み寄り、たおやかな瞳でノアを見つめる。手から滑り落ちた縄が、妙に艶かしく思えた。瑠璃色の瞳がノアの瞳を映すのが、どこか非現実的で夢心地な気分にさせる。

 この時点でノアはようやく気が付いた。

 心奪われた――その事実に。


「あなた、名前は?」


 氷から滴る冷水のような声だった。冷たく、綺麗な雫がノアの耳に染みていく。背筋を撫でられるようだった。


「ノア……」


 喉から捻り出せたのは、わずかにこれだけだった。息を呑むのに精一杯で、気の利いた文句の一つも並べることができなかった。

 枯れ葉が地に落ちるほどの時間の後、女は顔を背けて再び縄を取った。


「心配には及ばないわ、気持ちだけもらっておく」


 そして、再び岩を引き始めた。傍から見ると、どうやら全力で引いているようだが、数センチずつしか進んでいないように見える。気の長い旅になるだろうと、容貌とは不釣り合いに滑稽な姿を見て、ノアは少しだけ笑った。


「相変わらずアルル族ってのは愛想がねえよな」


 アルル族――芸術を称え、その生涯を芸術に捧げる一族。彼女が、そうなのだ。


「あれが、アルル族――」

「いい女だってのはわかるけどよ、そろそろ石切り始めようぜ」


 アルル族の女に向かって歩いていた心をセトが引き戻す。不覚。当初の目的を忘れてはいけない。ここには彫刻の石材を採りに来たのだ。更に言うと、この旅はノアの妹であるところのククを蘇らせるための旅なのだ。女にかまけている暇などない。

 それにククが生きていたら、今のノアを見てなんと言うだろうか。怒りに顔を赤くするのが容易に想像できる。訳もわからずに泣いてしまうかもしれない。


「ああ、そうだな」


 ククと最後に過ごした夕方を想起して、ノアは呟いた。悲しみか、それとも寂しさか。分けきれない感情の混じった声は、虫の羽音にも負けてしまいそうだった。


「どうかしたのか?」

「あぁ、いや……少し思い出しただけだよ」


 旅の理由と、妹の顔。


「ふーん……」


 セトは、ノアは何か言いたくないことを抱えているんだな、と思いながらも何も聞かない。不器用な気遣いだった。何も話してくれないことに一抹の寂しさを感じながら、励ますように肩を一度だけ叩いた。その意味を理解できず、鳩のようにきょとんとした顔を見ると、不思議と笑うことが出来た。




「よし、こんなもんでいいか」

「大きくないか? 運べるんだろうな」

「クラウニン族をなめるなよ、あと十個は余裕だな」


 言い過ぎだろ、と笑った。セトはいつも沈んだ気分を晴らしてくれる。セトがついて来てくれたことは、ノアにとって本当に幸運だった。

 出会いは様々なものを変えてくれる。気分に始まり、性格、交友、嗜好、暮らしに日常、果ては運命に至るまで。凪いだ泉に石を投じるが如く人を揺らしてくれる。沈殿した泥は舞い上がり、再び底に溜まるが同じ様には溜まらない。必ず形は変わるものなのだ。

 ノアの中でも、何かが変わったのかもしれない。

 岩に縄をかけ終わると、セトは二本を結んで一つにまとめた。岩は全てセトが運ぶ段取りになっているようだ。

 さぁ、街に戻ろうかと振り返ると、いた。先程のアルル族の女が、数メートル程進んだ場所で、まだ縄を引いていた。滝のように汗を流しながら必死の形相で岩を睨んでいる。綱引きをするように後ろに向かって引いているので、街に向かうノア達と向き合う形になる。当然、すぐに気づかれた。


「あら、早かったのね」


 ノア達に気づいた彼女は汗を滴らせながら、何事もなかったかのように話しかけてきた。まるで恥ずべきことなど何もないといった様子だ。

 確かに、ノア達はスキアスの剣で石切りを行ったので、一般にかかる時間よりも随分と早いだろう。しかし、それでも一時間は経っているはずだ。数メートルしか進んでいないのは少しばかりひ弱が過ぎるのではないだろうか。


「えっと……大丈夫、か?」


 彼女の顎から滴る汗の量は尋常ではない。数秒に一滴の量が常に滴っている。脱水症状が危惧される量だろう。ここからオークまでは馬車で十分程、普通に歩けば三~四十分はかかるだろう。ましてや荒野には突き刺さる日光を遮るものは何もない。このまま行かせると、後に誰かに薄情者と指差される事になるかもしれない。


「手伝うよ」

「いらないわ、手伝いが必要なふうに見える?」


 見える、と沈黙で返した。阿呆が見てもすぐわかる強がりだった。初対面の冷たい印象とは裏腹に、意外に親しみやすい性格をしているのかもしれない。あの氷のような、人間離れした美しさとは別な、人間らしい強情が三人の距離を縮めた。

 ノアとセトは女の岩を運ぶため、彼女の縄と自分達の縄を結び、一つにまとめようとする。無論、女は反抗した。


「大丈夫だって言ってるじゃない!」

「んな汗だくで何言ってんだよ」

「私がどれだけ汗をかこうと息を切らそうと、あなた達には関係無いでしょ?」

「でも、さっき会った時から少ししか進んでない。街からそんなに離れてないとは言っても、日が暮れるよ」

「だから一日分の食料を持ってきてるのよ」


 肩に担いでいた革袋を示した。どうやら本当に、徒歩三~四十分の道程で日を跨ぐつもりだったようだ。彼女の自信に満ちた目がそれを伝えてくる。ノアとセトは互いの顔を見合わせて、呆れたように鼻を鳴らした。


「よし、行くか」


 セトはまとめた縄を引いて歩き出した。三つの岩がセトの背を追い引きずられてゆく。ノアはさぁと女を誘い、女は不貞腐れて唇を尖らせた。

 三人が歩いてゆく。芸術家の街、オークへ。新たな出会いに旅の目的を薄れさせ、束の間の休息を得るのだ。


「やっぱりお節介……」



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