第1話
新作を投稿いたしました!
刀谷流。
それは剣の道を歩む者なら一度は耳にしたことがある流派だろう。門下生達は数々の名だたる大会で優秀な成績を残している。
僕、刀谷理人も以前はその師範に教えを乞うていた。まぁ、師範って言っても父さんなんだけどね。
一応、僕には刀谷流の才能があった。ありはした。
だけど僕の幼馴染み、福田美夏には敵わなかった。
僕だって一生懸命、美夏を越えようとした。それなのに僕と美夏の差は日に日に開いていった。
毎日、朝早くに起き、ランニングに出て、それを終えると筋トレ、竹刀で素振りを行ったんだ。そして学校から帰ってきてからも練習した。
それでも届かない程の才能を美夏は持っていた。
実際には美夏は才能だけではなくとてつもない努力をしていたことも知っている、だが凡人が何十年かけようと届かない剣の高みに美夏は存在していたことは確かだ。
これに気づいた小学生の僕は投げ出してしまった。だけど中学のある時、剣を再び手に取った。自分は剣を振ることが好きだったこと、人より優れた剣士に成りたくて修練を積んでいた訳では無いことを思い出したんだ。
剣への道を再び歩きだそうとしたはいいが、一度僕は放棄している。だから何となく父さんにまた教えを乞うことは恥ずかしかった。
そして僕はどうせ、剣をやるなら強くなりたかった。そのため刀谷流では伸び代がなくダメだった。
そこで僕は新たに僕だけの《剣》を創り出すことにした。それは辛く厳しいことだった。だけど、遂には僕だけの《剣》を編み出すことが出来た。
そのときの僕は、ある大きな失敗を犯し続けていた。僕だけの《剣》を編み出した中学三年の秋まで一切勉強をしていなかったのである。
それからは寝る間も惜しんで受験勉強に取り組んだ。
その努力は刀谷流とは違い、しっかりと実を結び無事高校に入学することが出来た。
入学式、当日。
校門に美夏が入っていく姿を見かけた。同じ学校だったのか……。全然話してなかったから知らなかった……。
いや、でも少し考えれば分かる話か。
僕はこの学校が一番入りやすそうだったから志望したのだが、入学が決まった後に聞いた話ではここの剣道部はとても強いらしく、美夏はそれ目当てで入学したのだと思われる。
それ以降は特に変わったことがなかった。強いていえば校長の話がやたら長かったことだ。
この学校では新入生のクラスは、入学式閉式後に生徒用の玄関の前に紙で張り出されるらしく、大勢の生徒とその保護者と共に僕は張り出されるのを今か今かと待ちわびていた。因みに僕は親の都合が合わず、独りです……。
親がいない分行動が早かったため前の方にいると、後ろから押される。張り紙は逃げないし、まだ貼られてもいないんだから、そんな焦らなくてもいいのに。
そんなことを思っていると、僕と同じように押されたのか、誰かがぶつかってきた。
「すみま……あれ? もしかして……理人??」
戸惑い気味の女性の声がした方を向いてみると、そこにはアイドルだと言われても納得させられるほどの容姿を持つ、ポニテの美少女が立っていた。
「おぉ! 久しぶりだねっ!! 話すのは中学校……以来??」
「いや、小学校以来よ。それにしても変わらないわねー、話し方とか色々。理人は高校では部活は何やんの?」
部活かぁ、どうしようか……。
「そういう美夏はどうなの?」
「私はもちろん剣道部よ!! ここの剣道部は強いらしいからね!」
「でも美夏程強い人はそうそういないんじゃないかな……」
何人もの日本一を輩出してきた刀谷流、その師範である僕のお父さんよりも美夏は既に強い。お父さんに勝てた人は美夏を除いて過去にただ一人として存在していない。いくらここの高校の剣道部が凄いと言っても美夏に勝るものはいないだろう。
「私は色んな人の剣を見て、戦って、自分をより高めたいの。だから強い人がいてもいなくてもいいのよ」
なるほどなぁ。名も知らぬ誰かより強くなることが目的ではなく、自分を越えることが目的なのか。
僕も完成した《剣》を誰かに試したい、だから……入る部活はあれの他にない。
「そっか、なら僕も剣道部に入ることにするよ」
僕は昔のことなど知らないかのように淡々とそう言った。
「えっ!? 本当っ!!」
「うん、本当だよ……お、ついに貼られるみたいだね」
漸く、クラスの紙が公開された。
えーっと……僕は……いた。1年B組らしい。
「理人、これからよろしくね」
「よろしく、剣道もクラスも」
そう僕達は同じクラスだった。
クラスがわかると新入生達はそれぞれのクラスを確かめ入っていった。教室の中には新入生の名前が書かれた紙が左上に置かれた机が整然と並んでいた。
皆が席に着くと、担任と思われる人が入ってきて、壇上に上がりいろいろなことを言った後に(聞いてなかった)一人ずつ自己紹介が始まった。
因みに美夏は僕の前の席だった。
美夏の自己紹介が始まった。
「後ろの人と同じ家成中から来ました、福田美夏です! これから一年間よろしくお願いします!!」
「すっげぇ可愛いじゃん」、「授業が終わったら即座に話しかけよう!!」、「アイドル並……いや、それよりも……」といった具合に美夏はクラス中の男子の目線を集中させていた。それを女子は、これだから男子は……とでも言いたげな目を向けていた。
これを見て僕は――
「美夏が言ったように家成中から来ました、刀谷理人です、一応美夏とは幼馴染みです。一年間よろしくお願いします」
こんな自己紹介をしたのだ。
すると「幼馴染み……だと……」、「しかも呼び捨て……?」、「諦めるな!! まだ、まだ、幼馴染みと言っただけじゃないか! 希望を持て!!」、との反応が返ってきた。
男子はこんなだったがどうやら女子は僕が言った幼馴染みという単語に興味津々のようだ。恐らく自由時間(あるのかは知らないけど)になるか、もしくは帰りに美夏は集られることだろう。
僕の後にも自己紹介がもちろん続いた。中でも男子版美夏とも言うべき、女子の視線を集めまくる男子がいた。
「神好勇気です、よろしく!」
その人は色素が薄いのか、肌は綺麗で白く、髪は少し茶色っぽい。鼻筋は通っていて、眉とT字を作っていた。
珍しい、というよりは何とも神に好かれてそうな名前だなぁ……。しかもイケメンだし。これで運動や勉強も出来たら理不尽でしょ、と思う。
今日は、神好くんのほうに女子が集まりそうだ。よかったな、美夏。
最後の人が自己紹介を終えると、担任が自己紹介始めた。
秦熱強先生、体格がいい先生で体育の授業を受け持つらしい。
「これからよろしくなっ! 先生は明日から皆と過ごす日々が楽しみだっ!! だが今日は明日の話をちょっとして終わりだ。じゃぁ話すぞ、明日の日程は……」
こうして今日の学校は終わった。教室では未だ、仲良くなろうと生徒達が雑談しながら帰る準備をしている。
僕は誰と話すでもなく、教室を出た。そして靴を履いて外に出ると、たくさんの女子生徒が円状に広がっているように見えた。
その中心には彼――神好くんがいた。
ふと、一人の校門を通り過ぎようとしている女子生徒が目に留まった。他とは隔絶した容貌を持つ僕の幼馴染み――美夏だ。
どうやら神好くんは美夏に興味があるようでその輪から脱出し、追いかけ、話しかけたが美夏は平常運行のようだった。
まぁ、僕には関係ないな。
僕は美夏と神好くん、その後ろの女子生徒達の横を通っていった。
僕は帰り道、ふとある事を思い出した。
あぁ、そういえば……お茶がなくなってたんだった。コンビに寄らないと。
家への帰り道の途中にある、コンビニに立ち寄ってお茶を買うことにした。
コンビニに入ってお茶を買うことを目的としていたのに、あの『金の三角』構造によって予想以上に時間を費やしてしまっていた。
体感でざっと15分ぐらいかな。
コンビニを出ると、神好くんと美夏、それと数人の女子生徒が楽しそうに帰ってるのが見えた。
きっと神好くんの周りには神好くん目当ての女子も、その女子目当ての男子も集まるだろうから、美夏は友達には困らないだろう。
このまま追い抜いて通り過ぎた、先程のようにしようとした。
だが……。
「おい、兄ちゃん。いい身分してんなぁ?」
不良が彼らに絡んでいったのだ。
異界の地にて俺は覚醒する。
というのも投稿していますので、よければご覧ください。
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次話は上記のものと同じく1月1日を予定しております。