聖女
私は、ダーリュとともに国王陛下に頭を下げていた。
「面を上げよ。」
堂々とした低い声は威厳があり、さすが17から国王をしているだけの迫力があった。
「いきなりだが、本題に入ろうか。」
そう話を切り出すと国王はパチンと指を鳴らす。すると瞬きした瞬間にはもう別の場所へと移動していた。どうやら会議室のような大きな部屋に来ている。
「これは魔法だ。王族の一部の人は普通の人には表れない特殊な力だ。」
隣にいるダーリュが教えてくれる。が、肝心な国王が見当たらない。
「こんにちは、渡り人アーリー。私はジェノア。」
この方を向くと2階の大きな椅子に座っていた。
どうやら王様の定位置らしく、豪華なイスづくりだった。
「まぁ、まずはこの世界にようこそ、でも言っておこうか」
ジェノアはニッコリと笑うとすぐに表情を戻した。
「突然だが、ギアーノ集団は知っているかい?」
ジェノアの問いかけに私は首を横に振る。
「だろうねぇ」と組んている足を組み直した。すると丁寧にもその集団のことについて教えてくれた。
ギアーノは隣の国の男神の名前であり、そのままの意味でギアーノを信仰している集団であった。そもそも、この国はアージュという女神を信仰している。女神は慈心、男神は闘争。全く正反対の宗教が両国で対立していた。
「まぁ、説明はこれくらいにして…。で、だ。そのギアーノ集団は今貴女を必死に探している。何故だかわかる?」
そんなこと私にわかるわけもなく、一方的に話を聞くばかりで、また首を横に振った。
「アーリー、君には得意なものはある?」
ジェノアに聞かれ、考える。得意といったらそれは私の中で1つしか無かった。
「歌、ですか?」
すると歌という言葉にダーリュは微かに反応した。私の方に顔を向ける。
「遙か昔、歌で穢を浄化する聖女が存在していた。その聖女の名は、トゥシェ・アウラーテ」
「トゥシェ・アウラーテ…?確か、初代国王の正妻だったような…」
ダーリュが顎に手をおきながら喋った。どうやら聖女の名前に聞き覚えがあったらしい。
「そうだ、合ってるよ。しかし、彼女は聖女だとは知られていない。…何故だとおもう?」
ジェノアがダーリュに問いかける。
「…その持つ力が異常だった、とか?」
「いや、違う。彼女は、この世界の人じゃ無かったからだ」
「え………?」
ダーリュと私は耳を疑った。
「書によると聖女として貢献したにもかかわらず、すべて隠して彼女はただの妃になったらしい。」
渡り人で、聖女で、初代国王と国を創った人。そんな人が初めての渡り人だったなんて……。
私は彼女が何故隠したのかが全くわからなかった。誰が聞いてもきっと彼女のことを歓迎するだろうし、彼女が残した結果に誰もが喜んだであろう。そして、この国の人に感謝されながらこの世界で生きられるのだ。
こんなにも渡り人として暮らしやすい世界はそうそうないだろう。
「それに、アージュには必ずと言っていいほど親から子に伝わる伝説がある。」
ジェノアは考え込む私に向かってその伝説を話し始めた。
「『女神からの遣い、聖女様は歌でこの国を創り出した。とても慈愛に満ち溢れてその姿はまさしく、女神。星が振り始める時、聖女の歌声が国の端まで伝わった』…国民は聖女の存在は知っている。だが、その伝説の聖女がまさか正妻で渡り人であることは王族のみしか知らなかったということなる。」
「まぁ、渡り人を女神の遣いと間違えてしまうのはわかるな。」
ダーリュは目を閉じ、ぼそっとつぶやく。
彼なりに物語から何かヒントを得ようとしているのかもしれない。
そして、私は頭の中であることを思いついた。
「あのもしかしなくても、私が聖女って言うことになるんでしょうか…?」
結局、ジェノアは私に歌が得意かどうか聞いてまだ結論をいっていない。けど、この話からして私が聖女である事を訴えているかのように聞こえてくる。
「あたり前じゃないか。でないとわざわざここに連れてきてこんな話はしない。」
ですよねー、と苦笑いになる。ひくつく口角を抑え、すまし顔にする。小馬鹿にされたように聞こえたが、ここで反撃をしてしまってはもっと馬鹿にされるだけに決まっている。湧き出る言葉を押し込めて耐えた。
「…という事だ、アーリー。この世界を救ってくれるか?」
ダーリュが横目で見つめる中私はジェノアと目を合わせる。
「もちろんです。私に出来ることがあるのなら、喜んで!」
ジェノアは私の言葉を聞くと、フッと笑いしばらく合わしていた目線を外した。そして、また足を組み直す。
「ではよろしく頼む、聖女アーリー」
彼は手を一度叩く。
すると、瞬きをして一瞬で景色が変わり会議室ではなく元の場所に戻った。しかし、肝心のジェノアが見当たらない。
「…ねぇ、ダーリュ。ジェノア王は?」
「あいつの事だ、どこかウロウロしてるに違いない」
そう言って彼は重いドアを開け、来た道を戻っていく。
だけど、彼の足取りは足が長い分速くなっていて、私の足ではなかなか追いつけなくなっていた。一体、何を考えているのだろう。後ろから見て、少し怒っているようにも見えたのは気のせいだろうか。
「…ちょっ……ダーリュ、っまって」
ダーリュは私の苦しい声で足を止めた。
「どうしちゃったの?なんか、変だよ」
ジェノア王と話し終えたすぐの会話で声が少し低くなって、不機嫌なように感じた。
はぁはぁと息を整える私は汗がながれ、下に落ちた。
「……アーリーは雨がどんなに恐ろしいのかわかっていない。」
やっと開いたダーリュの口はいつもより声が低かった。
「でも、私は聖女の代わりらしいし。私しか雨を倒す方法がないんでしょ?なら…」
「だから、それが分かってないと言っているんだ」
ーーーなら、私が行くしかない。そう言おうと思ったらダーリュの言葉で遮られた。
今まで背中を向けたままのダーリュも私の方を向き、大股でこちらに向かってくる。
「あの時は助かったものの、もし巻き込まれたらどうするんだ。騎士団だってなんでもできるわけではない。助けられなくなったらどうするんだ!」
ダーリュが一通り話し終えるとあたりは静かになり、ダーリュの息遣いがきこえる。私は何も言えず、ダーリュから目線を避けることしかできなかった。
確かにダーリュの言うことは正しい。正しいからこそ私は言い返す事も出来ず、目線を避けるしかないのだ。
「……すまん、言い過ぎた。かえろう」
私はうん、と頷き2人はまた歩き出した。
今度は私が歩ける速さで。
これから本格的にペースが落ちそうです…。
更新が遅くなると思いますが、なるべく更新できるよう頑張りますのでこれからも宜しくお願いします!