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愛しい貴方に捧ぐ歌  作者: 中野理奈
少女と異世界
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城下町。そして…

次の日。

服を無事に着替えると取り敢えずダーリュの部屋へと向かった。道順はまだかすかに覚えている。


「ダーリュ、いる?」

「ああ。入ってこい」


少し重いドアを開けると紙とにらめっこしているダーリュがいた。


「今日はどうしていたらいい?」

「別に好きなことしていい。」


一瞬私の方に視線をよこしたがすぐに紙へと向けた。きっと仕事で忙しいのだろう。


「うん、じゃあおとなしくしているよ。」


邪魔をしないように、部屋から出ようとする。するとガタリと椅子から立ち上がる音がした。思わず私も後ろをむく。


「…街にでも行くか。」


ダーリュの気づかいに驚きながらも街を見られるということもあり、私は力強くうなずいた。


「うん!」








彼は私の手首を掴んで2人並んで歩いていた。ここは城下町だ。国の中心にあるからか、貿易により店には様々な商品が売られていた。みんな笑顔ですごく栄えている。


「すごいすごい!人がいっぱい!」


幼い子のようにはしゃぐ私にダーリュは静かに見守っていた。キラキラと光っているダーリュの目は好奇心で溢れかえっている私の姿を優しくみているのがわかる。


「ねぇ、あれはなに?あ、これ可愛い!」


私が手にしたのはキラキラと輝く髪留めだった。


「ほしいのか。」


すると、ダーリュは私の手にあった髪留めを奪い取りさっさと会計を済ましてしまう。


「いや、悪いよ。」

「もう買ってしまったんだ、返品はできない。」


彼はさっき買ったそれを私の髪にそっとつけた。そのしすぐさはまるで壊れ物を扱うかのように。いや、気のせいだろう。


「……ありがとう」


私は恥ずかしさに俯くが、ダーリュは返事の代わりかポンポンと頭をなでた。

そしてこれから無闇に商品をさわるのはやめようと、私は密かに決意した。





気づけば夕暮れが近づいてきた頃。まだまだ賑やかな街はいつまでも笑い声であふれていた。


「すごいなぁ。活気がある。」


2人は街を一望できるところで休憩していた。街の奥には真っ赤な太陽が低い位置になっていた


「夜もここは賑やかなんだ。」

「へぇー、いいなぁ。」


日本には無い光景だった。最新技術が発達した街は電気の明るさで星が見えないし、商店街もなくなりほとんどなんでも買えるスーパーが存在する。私にはすごく新鮮な体験だった。


「今日は一日ありがとう。仕事は大丈夫?」

「ああ、今日は非番だったし。……では、帰ろうか。」


うん、と頷くと私と2人は立ち上がった。そして買って貰った品物を大切に抱えダーリュのそばに寄った。


もちろん、ダーリュは私の手首を掴んでいる。





異世界生活は暫く平穏な日々が続き、私は周りの人達とも仲良くなっていた。


「アーリー様、今日はこちらを収穫しましょう」

「はーい…ってこれは?」

「アズランって言います。昨日の朝食にサラダの中に入ってましたよ。」


と、説明してくれているのはリーナ。ここの使用人の中で同性で1番私と年齢が近い人であり、この屋敷でダーリュ以外の人と初めて話したブラウンの髪の人だった。詳しくいうとリーナは19、私は17。2歳年上なので敬語をやめてとたのむと癖らしいので断られた。

ということで、年上の人に敬語を使わられるという摩訶不思議な光景になっているのだ。


リーナに収穫の仕方を教えてもらい黙々と作業を続ける。私は楽しくてつい収穫しすぎてしまったが、それを厨房に持っていき今度は次の物を収穫しに向かう。

それはそれはもう、充実しまくりの日々であった。


「アーリー様、これはアッサイという果物です。赤くなっている実をとってくださいね。」

「了解です!」


軽く取り方を教えてもらうとあとは終わりの合図がかかるまで収穫だ。私は鼻歌を歌いながら順調に収穫していった。


ここに住むようになってはじめ以外の2日間は暇という地獄の中にいた。リーナから本を配給されたりするけど、普段から読まない方だったためか1時間で飽きてしまった。そこで3日目、私は朝一にダーリュの元へ向かったのだ。


『お願いします。どうか、どうか、私に仕事を……!』


ダーリュはと言うと、いきなり入って懇願してくる私に驚きを隠せずただただ固まっていたものの、1つ咳払いするとリーナを呼び出し仕事を与えてくれたのだ。


『ちゃんとリーナの言うことを聞くこと。』

『うんうん!ありがとう!』


今だに笑顔を見ていない私だが、ダーリュの優しさは知っている。嬉しすぎてはしゃいだ私は思いっきりダーリュに抱きついた。




「アーリー様、そろそろお時間です!」


リーナの呼びかけに私は作業を中断させた。そして、山盛りに摘んだアズランをこぼれないように持っていく。


「はいはーい、今行きまーす!」


太陽の光を浴びた赤い実らキラキラと輝いている。

これは今日の晩ご飯が楽しみだなぁ、とにやけながら早歩きで向かう。きっと甘くてジューシーで………


___ズキンッ


「………いっっ……た…」


リーナが私を見つけるのと、私が倒れるのはほぼ同時だった。

ドタッと鈍い音が聞こえると同時に全身に痛みが襲う。


「アーリー様!!!」

「……りー、な…」


物事がスローモーションに見え、視界がぼやけてくる。その中でリーナが走ってくるのがわかった。持っていたアズランの籠を落とし、こっちに向かってくるリーナ。私は意識が遠くなる中それを眺めていた。


…せっかく摘んだのに、勿体無い。

そう思うと、意識が途切れた。



リーナ・フリフィス

愛梨と2つ年上のメイド。ブラウンの髪と瞳を持つ。

孤児であったリーナをメイドとして雇ってくれたダーリュを尊敬している。基本、器用で面倒見がいい。

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