騎士団
いつまで歩くのだろうと思い始めた頃。目の前に簡易なテントらしきものが一列に並んでいるのが見えてきた。どうやら人で賑やかっているらしく少し声が聞こえる。
「ここは?」
まだ頼りなく聞こえたのか私の手首を少し強く握った。
「隣町のランドゥアだ。そこに我が軍も待機している。」
なんだか市場みたいな場所に出た。左右から威勢のいい掛け声や、交渉する会話があちこちから聞こえる。
「おい、ねーちゃん。不思議な格好してるなぁ!どうだ?目立つだろう?」
不思議な格好、というと私の制服のことだろうか。こちらに来る前、元の世界では冬だったためブレザーも着ていた。が、こちらの世界は四季で例えると春のような気温だったためブレザーは脱いでカーディガン姿になっている。
「すみません、大丈夫ですから」
「いや、一着いただこう。」
「ええ!?」
ダーリュは声をかけてきたおじさんの所に向かいお金を払った。
「いや、いいですよ!申し訳ないですって!」
「構わん、金ならいくらでもある。」
なんですか、金持ち発言ですか……。
そんなことを考えていると会計が終わったらしく、また手首を掴んで歩き始めた。「ありがとよー!」とのおじさんの声が聞こえたが、彼は振り返ることもなく歩いていく。
「あの…、ありがとうございます」
正直言ってこの格好は周りの目が厳しかった。ヒソヒソされているのもわかっていた。
「お礼はいい。」
背中越しで感情はわからなかったが、なんとなく優しい声色だった。
「ーーー団長!!」
前から彼と同じ格好をした人が走ってこちらへ向かってきていた。
「団長、ご無事でなりよりです。」
「あぁ、そちらは何もなかったか?」
「はい、何もーーあ。ジュークとサイが………」
「…またか。」
「はい、またです。」
えっと……?
何がなんだかわからない私は両方の顔を見比べた。二人共苦い顔をしている。
ジュークって言う人とサイっていう人、一体何があったんだ……。
すると、そんな私に気づいたのか男の人が視線を移した。
「この方は?」
赤色の瞳が私を見つめる。赤毛で赤い瞳は彼をちょうどいい感じにひきたてていた。さすが、ファンタジー。
「原野愛梨といいます。」
「立ち入り禁止区域にいたから連れてきた。」
赤毛の人は彼の言葉におどろく。
「あれ、確認したのに…?申し訳ありません、お手数をかけてしまって…」
「いや、たぶんお前のせいじゃないと思う、気にするな。それと、お前のテント借りるぞ」
すると彼は赤毛の人を横目にスタスタと突き進んだ。
「ニホンから来たと言ったな、どんなところなんだ?」
「そうね、先進国って言えばわかるかな?とにかく便利な国。」
少し前までいた世界を思い出す。
高いビルが並んでいる景色が普通だったからか、ここはすごく新鮮だった。草木もたくさんあり、空気が澄んでいる。
「そういえば、あなたの名前聞いてなかった」
随分と忘れていたが、私の名前だけ教えていて彼の名前はしらない。
「ああ。ダーリュ・ リビシェル・コンティークだ。ダーリュと呼んでくれればいい。」
「ダーリュさん、ね。で、これから私は何をしたらいい?」
まっすぐ突き進んで歩いている私達はしばらくしてあるテントに止まった。
そのテントは簡易な感じで、だけど見る限り広そうな、立派なテントだった。
「とりあえずはまず着替えることだな。話はそれからだ。」
ダーリュから手渡されたのは先程買ってもらった服。淡いピンク色でどこか昔の西洋みたいな服で、裾がながいワンピースだった。
「とりあえずその服は目立つからな。……入り口で見張っている。」
「うん、わかった。」
私はテントの入り口の布をあげ、薄暗いテントの中に入った。テントの中は見立て通り、広くそれに何もなかった。下には土。土がつかないように気をつけながら制服をぬぐ。
「お、おまたせ、しました…」
あいにく、靴はローファーのままだけどまだ違和感はない。制服より断然マシだ。
ダーリュも着替えた私を1通り見ると納得したようにうなずいた。
「ん、では行こうか。多分もう出発の準備しているから」
「…はい!」
私はダーリュの後ろについていった。裾の長いスカートは少し歩きにくく、手で持ち上げながら歩いた。
「馬に乗るが乗ったことは…?」
「ないわ、馬はもう移動手段に使われていなかったし」
「では、後ろにのせるのは危険だな。」
しばらくすると、人が馬に乗って列を作っているのが見えてきた。その人もダーリュと似たような格好をしていて、腰に剣もささっている。
ダーリュは一番前の馬に私を乗せ、それから彼自身も乗った。
「では、帰還しようか。出発!」
後ろから「おーー!」との声を後目にさっそく馬が進み始めた。
ダーリュは先頭をきって馬を走らせている。ということは、この中で1番偉い人なのかもしれないなと私は思った。確か、赤髪の人が団長とか言ってたような気もする。
「アーリーよ、確認しておきたいことがある。」
ふと話を振られ、流れる景色を見ていた私は顔を後ろに向けてダーリュを見た。
「わかったけど、ダーリュ、私はアーリーじゃない。愛梨よ、あ い り 」
「ああ、すまない。………あ、あぃりー?」
「あ い り!」
「………あいりぃー?」
「…………。」
どうやら愛梨の発音が難しいらしくダーリュは苦戦した。何回か名前の練習したが、ここまで出来ない彼に私は諦めた。これならいっそ、アーリーと呼んでくれたほうがましだ。
「……アーリーでいいよ。」
「す、すまないな。」
彼もこれには予想外らしく気の抜けた声が後から聞こえた。
それからしばらく沈黙が続き、馬の蹄だけが聞こえた。後ろの行列は静かで誰の話し声も聞こえない。さすが騎士団。
「アーリーはニホンと言うところから来たのだろ?」
「……うん、そうね。」
「悪いが、ニホンという国ははこの世界に存在していない。ということでアーリーはこちらの世界で渡り人と呼ばれる」
「…渡り人?」
私が首を傾げると後ろから頭をポンポンとされる。
「渡り人とは、“異世界から渡ってきた人”という意味で、この世界に迷い込んだ人をここの人達はそう呼んでいる。」
「……ん?じゃあ、渡り人って他にもいるの!?」
期待を持ち、確かめたくて首をひねりダーリュを見た。が、ダーリュの表情は良くない。
「大昔に一度だけだ。それから来ていないし、その人もここで生涯を得た。」
「そんな…」
まさか、帰れないとか。
あまりの絶望に放心状態になった。
「すまん、今いう話ではなかったか」
ダーリュの気遣いに返事も出来ず、少し首を横に振った。それがダーリュに気づいたかどうかはわからない。
しかし、再び沈黙した騎士団一行は休憩になるまでそのままであった。
ダーリュ・リビシェル・コンティーク
イギリス系ぽい顔。金色の髪に瞳を持つ。
髪は大体肩甲骨ぐらいあり、耳の高さぐらいでくくっている。性格は穏やかであまり感情的になりにくいが、剣を振るうと鬼のようになる。……以下はまた更新します。