ダーリュの過去
次の話で私の投稿小説が最長です…!応援、ありがとうございます!
「……ということだ。いいな?」
「ああ、そうしよう。その方法しかないようだ」
「あの、ちょっと待って」
「だが、その前に1つ注意点がある」
「なんだ?」
「あの…」
「ここの王はとんでもない魔力を持っているということだ」
「ジェノアのよりもか」
「ちょっと!!私の話を聞いて!!」
久しぶりに出した大声に少し息が荒れた。2人もびっくりした様子で私を見る。
「あの、作戦練ってる間悪いんだけど2人の関係って何?まず、基礎の基礎が分からないからシュエルツを信じてもいいのかがわからないじゃん!」
すると、ダーリュは何かを思いついた表情になると柵の中にいる私の方を向き合った。
「すまない、では全てを話そう。シュエルツはそろそろ行ったほうがいいだろうし、まだ時間はある」
男2人はお互い頷き合うとシュエルツは地下牢から出て行く。
一体、2人はどのような関係なんだろうか。私はしばらくシュエルツが出ていったドアを見つめていた。
「…まず、シュエルツと私の関係について話そうか。」
その言葉でダーリュと向き合う。
「そしたらアーリーも納得出来るはずだ」
そう言うとダーリュは懐かしそうに語りだした。
ーーーあれは、私がまだ団長になったばかりであった。
ある舞踏会の時、頭に少し白髪の生えている男と目の前にいる女の人は今にでも透き通りそうな黄金の髪で、貴族社会では絶世の美女として噂されている人だった。
『ダーリュ殿、もうそろそろいい年ではないのか?……そこでなんだか、私の娘はどうだね。 コンティーク家とリュカーク家が結べば、……ダーリュ殿でもわかってるだろう?』
確かに、西の領土を持つコンティーク家と南の領土を持つリュカーク家が手を結べば戦力、経済力と共に優位に立つことは目に見えるように分かる。だが、私はそれほど興味はなかった。領民が安全に暮らせているのならばそれでいいし、戦力も4つの中では1番と言っていいほどの力もあったのだ。
『私は、まだ結婚など…』
『なら、私のところでいいじゃないか。世間のためにもしておいた方がいい時もあるものだよ』
そうしてコンティーク家とリュカーク家の婚儀が執り行われた。
『旦那様、どうぞよろしくお願いします』
白の花嫁姿は彼女の美しさを引き立たせ、見たことも無いような美しい姿になっていた。
初夜には2人でお酒を少し、そして身体を交じり合わせた。すべては順調に進みあっけなく終わった。ただ事情の後、彼女の涙に気づかないフリをして。
ある日、どこからか妻と男の人が親しげにしているというのが耳に入った。どうせ嘘だろうとほっておいたが数日後、私は目の当たりにしてしまう。
“妻と男が口づけをしているところ”を。
すぐに私は来た道を戻った。怒りと不安と屈辱。
妻は良い妻だった。周りをよく見、察し、いつも笑顔で私と話していた。金使いは荒くなく、使用人にも優しかった。
私が何か気に入らなかったのか、何か妻に対してやらかしてしまったのだろうか?
どうしてだ、どうしてどうしてどうして…!!
……気づけば雨が降っていた。目から頬に流れる熱い雨は私から何かを奪うかのように地面に落ちて溶けた。
* * *
『…離婚…ですか』
妻はいきなりの離婚に驚き唇が震えていた。喜びすぎて震えているのだろうか。あぁ、かなり思考がイカれている。
『貴女には想い人がいたのだろう?悪かった、気づけなくて』
私は机にあった書類を手に取り、仕事をやっているように見せかけ妻の視線から遮った。
『リュカーク殿には私から言おう。2人が結婚するまで私が取り計らうし、お金もいらない。…どうだ、貴女にとってとてもいい話だろう?』
『……………し、失礼しました』
妻は逃げるように私の部屋から出た。もちろん、顔は見てない。扉の閉まる音が聞こえると、持っていた書類を机においた。
これでいいんだ。妻は想い人がいるにもかかわらず特になんとも思っていない男に嫁がされたんだ。それなら、好きな人と結ばれる方がずっといいに決まってる。そうにちがいない。
上を向き、胸の熱いものを耐えるかのように口を噛み締めた。
その日の夜、いつも通り執務を来なしていると使用人が慌てて入ってきた。
『奥様が、奥様が…!!』
妻の部屋に横こだわる姿が見えた。血で真っ赤染まったこのドレスに見覚えがあった。
………それは今日、妻が着ていたものだった。
妻の死は表向きに病死となった。自害したなどというとコンティーク家に大ダメージを与えるからだ。リュカーク家はコンティーク家を恨み、結んだ契約、同盟を即座に解消。それぐらい、予想はついていた。離婚していたとしてもそうだろう。
私はただただ妻が埋められるのを眺めているだけだった。
『お前のせいだ、お前のせいでネローネは…!!』
妻を埋め終えたあとすぐに、妻の名前を呼び叫ぶ男が私に飛びかかる。その瞬間、目の前の男で糸がつながった。カインの使用人、シュエルツ。彼こそが妻、ネローネの想い人だったのだ。
『幸せをダメにしてしまってすまなかったな』
掴まれた胸ぐらをそっと離し、男に背を向ける。というか、彼を見れなかった。
…一人の女性を真っ直ぐに愛し続けるその一途な気持ちに目を向けられなかったのだ。私はただ流れに見を任せて、結婚して。彼女のことを愛していたかと聞かれれば即答できない。
『おい……!まてよ…!』
* * *
『そういえば、家の者が迷惑をかけてしまったみたいで…』
数日後、カインは私の屋敷に来、頭を下げる。カインは私の従兄弟にあたり、ネローネの葬式の時、来ていたからあの場面も見たいたのだ。
『いいんだ、私は涙も出ない酷い人間だ。怒鳴られて感謝してるくらいだよ』
『ダーリュ……しかし、人妻に手を出すというのは許されない行為だ。何があっても。ダーリュは悪くない。それにネローネを大切にしてきただろう?』
もちろん、出来る限りのことはした。大概、貴族は政略結婚であり、政治のために嫁がされる女性はある意味奴隷だった。
きっと彼女も好きでもない男のところに嫁がされて、嫌な思いをしているかもしれない。そう考えると、これからゆっくり心を通じ合わせれるよう、意思疎通が大切だと思っていた。
だけど、私は何を間違えたのだろうか。このような結果にさせたのはもれなく私だ。ネローネが死んだ今、思い浮かぶのは後悔だった。
『あいつは、ギアーノに送ることにした』
カインの言葉に驚く。
『どうして…そこまでしなくても、』
『いや、ついでだよ。ちょうどほしいと思っていたんだ、間者をね』
カインはくるりと回転するとドアのほうに向かう。
『ダーリュ、君は優しすぎるぐらいだよ。普通ならシュエルツを殺せとか言ってもいいのに何も言わない』
『…それは、私にも非はあるからで』
『だとしてもだ。親族でもないのにあそこまででしゃばるなど周りに疑って下さいとでも言ってるようなものだ。貴族には貴族のルールがある。それがあるからこそ、この社会が成り立つのだよ。ダーリュ一人の感情でルールを変えてはいけない。…………じゃあ、後ほど』
そうしてカインは部屋から出ていく。
謝罪に来たと思えば、つづけて説教。これは私を思っているからこその言葉に違いない。わかっているけども、私の気分は底の無い闇に溺れていく。
私が、ちゃんとネローネを愛していれば。
シュエルツの過去がわかりましたね!それと、ダーリュの元婚約者も明らかとなりました
ネローネ・リュカーク
貴族の中でもトップを争う、美人。はなやかで、整った顔はきつい印象を与えるが実際は思った事を口に出せない弱い心を持つ。父親はネローネと比べ全くの悪親父。ネローネの顔には父親の面影がない。
シュエルツ
カインの使用人で、あの頃はまだ見習いだった。(新入り)ダーリュとの結婚式でカインのお世話をするため同行したのがネローネと会うきっかけとなる。
まだ真面目だった。