夢と2人の言い争い
地下に押し込められて、どのぐらい経っただろうか。何もすることがなく本能のまま寝ているせいか、あれから何時間、何日経ったのかわからなくなっている。食事は簡素だがきちんと与えられていた。
かすかな音に目を覚ますとシュエルツが食事を置いているところだった。いつもは私が寝ていて会うタイミングがないが今日は珍しくタイミングが合ったみたいだ。
「今日ってあれからどのぐらい経つ?」
「1週間は経っているが。」
「……そう、」
壁に持たれたまま答えた。
ーーあぁ、だるい。体を動かすのが、指すら動かすのも面倒でぴくりとも動けなかった。
「おい、大丈夫か」
シュエルツは私の異変にまゆをひそめた。
敵のくせになに私のことを心配しているんだ。
「大丈夫だよ、何ともない」
「何ともないようにはみえないんだが」
シュエルツはしばらく私を見続け、ため息をつきながら立ち上がった。
「なんともないならいいが、はやめに言えよ」
言ったら何をする気なんだ、と思ったが口が開かず言葉にできない。
彼は名残惜しそうに地下牢の部屋から出ていく。それを横目で見ていた。
ーあぁ、だるいなぁ。
まるで意識がそこのない闇に吸い込まれていくようだった。瞼も落ちそうだ。
「早く来て、ダーリュ…」
僅かに開く口から出た声は情けなく、消えていった。
* * *
『お前は所詮生け贄。逃げることも、ましてやあがくことも出来やしない。』
『いやよ!!元の場所に帰るんだから!』
これは、夢?けど、すごい恐怖が伝わってくる。
薄暗い、まるで地下牢のような場所に女の人が鎖で腕と足を繋がれていた。女の人が動くと激しく鎖が音を立てる。まるで、拷問のようだった。
『…ふふ、可哀想に』
若い男の人が女の人の前で楽しんでいるかのように微笑む。女の人の鎖を外したい衝動に駆られるものの、体が動かなく、ただみているだけしかできない。
『いや、いやいや…いやぁぁぁあああ!』
男の人は女の人の額に手を乗せた。
『これで、世界は私の物だ。やっとだ、やっとこの時が…!』
すると、いきなりドアのほうから破壊の音が聞こえた。
『お前の思い通りにはさせぬ!』
侵入してきたがたいのいい男は持っていた剣で男を攻撃した。
『ミシュリネンヌ、お早い登場だな。もう少しで世界が統一するところだったのに、お前が邪魔するから予定が崩れたじゃないか』
『何がだ!皆、統一は望んでおらぬ!それに娘は関係ないであろう』
『いやいや、娘は大事な鍵だよ。君も分かってないな』
『わかるわけ、ないだろう!!!』
ミシュリネンヌと呼ばれた男は勢いよく剣を振り落とした。が、若い男に魔法で止められてしまう。その瞬間、金属と金属が強くぶつかったような音がした。
私も思わず耳を塞いだ。
『うおおおぉぉ!!!』
* * *
はっと目を覚ますと体が軽くなっていた。妙な眠気もない。まるで深く眠り込んだあとみたいだった。
「目覚めたか」
鉄の柵のほうから久しぶりに聞く声が聞こえる。柵を背もたれに、座っていた。
「見つけてみれば眠っているから心配したぞ」
「…………ダーリュ、なんで…」
ダーリュは後ろを見、私と向き合う。
来てほしいと願いながらも、来ないだろうと思っていた人だった。
「すまなかった」
ダーリュは胸に手を当て腰を落とし頭を下げた。
「…ちょっ、ダーリュ!?やだ、頭上げてよ!」
「いや、あげられん。私は大丈夫だと言っておきながらアーリーに危険な目を合わせてしまった。本当に、申し訳ない」
彼の長い髪は顔の横に垂れている。髪の先がボロボロで少し黒ずんでいた。急いでくれたのだろうか?アージュからギアーノに渡るのはたくさんの危険があったはずだ。
「ねぇ、ダーリュ。顔上げてくれない?」
「上げられない」
「上げてくれないとその謝辞うけとらないよ」
そういうと、しぶしぶ顔を上げた。表情がなんとも言えないような顔に少し苦笑する。柵越しに二人は向き合った。
「来てくれてありがとう、私はそれだけで十分嬉しいよ。……けど今すぐここから出ていってくれない?」
来てくれるのは嬉しい。死ぬほど嬉しいのだ。けど、私は何かのために利用される。それに彼を巻き込むわけにはいかなかった。私のためにダーリュがひどい目に合わせるなんて、あってはならないのだ。
「なぜだ、アージュに帰らなくていいのか」
「いや、帰りたいに決まってる。けど、私はここからどうやって出ればいいの?敵は魔法が使える。……どうせ二人共見つかってしまうんだよ。そんなことなら私はここから出ない。だから、せっかく来てくれたのに申し訳ないんだけど、かえって」
二人はしばらく見つめ合っていた。何も話もせず、ただつったっているたけだった。お互いの吐息が聞こえるかどうか静かな地下牢はシュエルツが様子を見にくるまで続いた。
ガチャガチャと重たい扉が開ける音がしてすぐにダーリュは柱の影に隠れた。
……あれ、一体ダーリュはどこから入って来たのだろうか?
ふとそんなことが浮かぶが今はそんなことを考えている場合ではない。もともと座っていた場所に座り直した。
「体調は…いいみたいだな。顔色がよくなっている」
「うん、どうもありがとう」
シュエルツはまだ湯気が立っているスープを私に与える。すると立ち上がり、私を見ながらいきなり少し大きな声を出した。
「なぁ、久しぶりだなぁ。出てこいよ」
ニヤリと不思議な笑みを見せ、視線を柱の方にむけた。そこは、ダーリュがいる場所だ。何故、バレたのだろう。彼は一流の騎士であり、姿を隠すのは得意なはずなのに。
「お前の気配などすぐにわかるんだよ。まぁ、随分と長いことあってなかったしな、ちょいっと自信が無かったけど」
すると、ダーリュは静かに姿を現したかと思えばいきなりシュエルツの胸ぐらを掴んだ。
「シュエルツ、これはどういうつもりだ!」
「どういうって、俺は王の言いつけを守っているだけだ。今はギアーノの人だからな」
胸ぐらを掴まれているシュエルツは飄々とし、笑顔まで見せている。
「ダーリュ、やめて!私は何もされてない。むしろ、優しいくらい」
私がそう言うと、シュエルツはこちらを向いてまた笑う。
「だってよ、ダーリュ。まぁ、確かに俺なりの優しさを与えていたつもりだけど……なんだか、お前変わったな。暑苦しいわ」
シュエルツはやだやだとでも言いたげに顔の前で手を降った。ダーリュはと言うと驚いて固まっている。その隙にシュエルツはダーリュから離れ、襟を正した。
「あ、暑苦しい…?」
「ちっ、自覚なしかよ。……まぁいい、お前はこいつを助けに来たのだろう?それなら、俺に提案がある」
私は何もわからずただただ首をかしげるだけだった。