動き始めた、運命
やっと…!
物語が動き始めます。大変、おまたせしました!
“雨”容赦なくアージュを破壊していった。
カイン、シャーと知り合って、一週間もたたずに私は“雨”の処理に追われていた。次々と発生する雨。ひどい時は2日連続起こることもあった。
「アーリー、疲れているだろう?」
私を馬に乗せながらダーリュは私に問いかけた。だが、私はちょくちょく休ませてもらっている時があるがその分ダーリュが休めていなかった。優しく微笑むダーリュの顔色は悪い。
「ダーリュの方こそ休めてないじゃん」
横から抱きつかれるような態勢のせいか、顔を横に向けるとダーリュのくまがはっきりと見える。大抵、重要なことがない限りダーリュと私はペアで行動する。
「だからといって、アーリーが休んでいけない理由はない。アーリーはこの国の唯一の雨を消せる人だからな」
…確かに、今私がへばってしまうと雨を止める人はいない。
「………わかった。とりあえず今は寝るね、城についたら教えて」
「分かった、おやすみ」
ダーリュの首に腕を回し、彼の胸を頭を引っ付けると目を閉じた。よく馬に乗りながら眠れるようになったな、と私は思った。不安定で、定期的な振動。しかし、そこで眠れるのもダーリュのことを信頼しているということが大きかった。
落ちないようにと支えてくれるダーリュの大きな手が背中に当たる。暖かく、安心できる手だった。
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ピチャン、ピチャン、と微かに水滴が落ちるような音が響いてくる。鼻からはカビたような臭いと湿気ているような臭いが混ざったような臭いがした。それに、地面に接している部分から冷たい感覚があった。
その違和感にふと目を開けた。
「なに、ここ」
目の前には鉄の柵のようなものがあり、石が積まれた壁と床があった。
私は、馬に乗ってダーリュと帰っているところだった。数名の騎士を引き連れ、雨を消して、私は馬の上で寝ていた………はずだったのだ。
考えているとガチャリと鉄のドアを開けるような音がして慌てて寝ているふりをする。
コツコツと音を鳴らしながら歩く人は私の前で止まった。
「まだ目覚めていないのか、そろそろだと思ったんだが……。魔法の体質がないからか?」
男の声にそっと耳をすます。どうやらいつの間にか連れ去られたようだ。
「まぁ、いっか。時間はたっぷりあるし、こいつも訳の分からない聖女っというやつで疲れているだろうしなぁ。……にしても、こいつがあの魔法の鍵とは。どう見てもガキじゃねぇか」
……ガキで悪かったわね
私は心の中で悪態をつく。しかし、魔法の鍵とはなんだろうか。陛下以外に魔法がつかえる人がいることに驚きだ。
「………おい、起きてるんだろ?」
男はしゃがみ込んで私の様子を探る。私はというと意地でも狸寝入りをし、迷っていた。目を覚ますか、覚まさないか。
「起きない、か。ならこうしよう。ここがどこか知りたいだろう?起きてきたら教えよう。」
「………」
「んー、足らないか…じゃあ、魔法についても話そう。どうだ?」
この人って、私が本当に眠っていたらどうするのだろう……
その時は立派な独り言になってしまうのだが、どうせ人気が全く無いところだ。男も気にしてないのだろう。
「ここはギアーノ。お前のいた国の隣にあるところだ。」
男が勝手に話し出す。
まさか、そんなところまで飛ばされていたとは。
「この国の王はお前をここに転送させたのだ。……おおっとここからは起きてこないと言わないぜ?次は魔法の鍵についてだが。」
起きなくていいのか、と男は催促する。
男が情報を教えてくれる、といってるんだ。聞いておいたほうが損はないだろう。しかし、それに伴ってリスクもある。
しばらくすると私は目を開き体を起こした。
「魔法の鍵って何」
起きたことに男はニヤリと笑うと地面に足をくみ座りだした。
「この世には古代の魔法『闇魔法』、現代の魔法『光魔法』が存在する。そして、この地は闇魔法が盛んであり、王はある巨大な魔法を成し遂げようとしている。お前はそんな巨大な魔法の鍵なんだよ。」
闇魔法に光魔法…。それに、巨大な魔法…。
想像ができないのは、魔法がある世界に住んでいなかったからか。それとも私が馬鹿だからなのだろうか。
「その、巨大な魔法って何なんですか。それが分からないので協力しようにも出来ないじゃないですか」
「協力も何も。ここに有無も言わせず連れてきたのだからお前は協力することは絶対だ。…………それに俺は下っ端だから詳しいことは知らない。」
「下っ端なのにべらべらと話していいんですか」
「下っ端だからだよ。知っている情報は少ない。今言ったこともほとんどみんなが知っていることだし」
男は立ち上がるとおしりの砂を叩き、背伸びをした。
「アージュがお前をどのように扱って来たかは知っている。これでも向こうと少し繋がりがあってね。ただの下っ端じゃないんだよ。」
「……………あなたは、誰?」
捕まった私にいろいろ教えてくれた男は案外優しいのかもしれない。そう思うと名前を聞いておくべきだ、と感じた。
「シュエルツだよ」
男は笑顔を残し部屋から出た。
男が去ってからは暫く水滴の音しか聞こえなく、湿気が肌をまとうようにひっつく。
ダーリュは無事だろうか。いきなり消えてしまったからものすごく心配してるかもしれない。
彼は最近笑うようなったのだ。団長の顔からは想像出来ないくらいの優しい笑顔。
私は、その笑顔を壊したくない。大好きなのだ、彼が。
「泣いたらダメだ、私。ここは私が耐えなければいけない山だから。」
要するに、試されているのだ。まさしく、運命を操る神様から。
「まず、シュエルツから教えてもらったこの状況を整理して、それから対策を立てる。」
シュエルツに起きていることを知られたから今更寝てるふりをしても無意味だろう。下っ端は上に報告するだろうから。
そうすると、とりあえずこの牢屋から出して貰わないと話にならないのだ。しかし、牢屋から出してもらえる手段が見当たらない。
「…トイレとか、言っても出したりもらえるかな」
いや、そんなに甘くないだろう。
きっと何かに繋がれて見張りをつけられる。だが、そこから頑張って抜け出せるか。
「ってか、ここに人来るかな?全然来ないんだけど」
来たのはシュエルツのみ。
すると、いきなりチャンスはやってきた。施錠を解き、鉄の重そうなドアを開けるのが聞こえた。
「ほう、お前がか。」
頭上から聞こえた男の声で私は顔を上げた。そこには黒の髪を胸のあたりまで伸ばし、身なりの良い格好をしている男がいた。ストレートの黒髪は誰もが羨むような美しさがあった。
「…あなたは?」
恐る恐る尋ねた私は少し身構えた。
男からはなんとも寄り難い雰囲気を醸し出しており、威圧がすごかった。
「お前の、召喚主だ」
薄く笑った私の召喚主は、私を舐めるように見ると舌なめずりをした。
「俺のためにせいぜい働く事だな」
…何をとは、聞かなかった。
私はただただ目の前の男をにらみ、つばを飲み込む。そして、震える手に力を入れ、弱みを見せないようにつとめた。
「やれるものなら、やってみなさい!」
叫んだ声は私の思いをのせて男にぶつかった。
シュエルツ
突然牢屋に入れられたアーリーの目の前に現れ、情報を教えてくれた、男。見た目は黒色の髪と目を持っていてアーリーと同じだが、顔つきは西洋。まだまだ謎な人