不機嫌なダーリュ
思ったより早くできたので更新です!
馬車に乗り込むと、4人はダーリュ私と座る向かい側にシャーとカインが座っている。テンションが高いカイルのおかげで気まずい空気にはならないが、私の隣は不機嫌なダーリュのせいで悪寒が止まらなかった。
「ねぇ、アーリー。髪の色素敵ね。真っ黒で、まるで夜の空みたい。」
「…そう?普通の黒よ。それより、シャーの髪も素敵だよ。そうね、まるで夜の月見たいに輝いているし!」
「ありがとう、とっても嬉しいわ」
男性陣をよそに女同士は話が盛り上がる。さすが女子同士というか、一度盛り上がるとなかなか止まらず気づけば馬車が止まった。私も久しぶりにリーナ以外の女友達ができて喋ったからか、ついつい会話に夢中になってしまっていた。
馬車から降りると、4人はそのまま食事をするところに通され椅子に座る。
「今日はありがとう、今宵はささやかなお礼に食事を楽しんでもらいたい。乾杯」
カイルの乾杯にワンテンポ遅れて3人はグラスを少し持ち上げ、乾杯をする。
そして、運ばれた食事にフォークとナイフを使いこなし、私は味わいながら食べた。
「今日の鑑賞会は素晴らしかったわ、席を取るの難しかったでしょう」
シャーは食べながらカインに尋ねた。
「いや、君のためならどーんてことないさ!」
「……そう。ありがとう」
シャーは興味がなさそうに食べながらカインと会話をしていく。そこに、私はすこし疑問をおぼえた。馬車の中で話す彼女は人柄もよく、優しかったのだ。カインの会話を雑にするような酷い人ではないように思えるのだ。
そんな時、隣から不機嫌だったダーリュが話しかけてくる。
「アーリー、食事が進んでないぞ」
はっ、と我に返った私はダーリュに言われて自分のお皿を見た。フォークに刺したまま固まっていたらしく、フォークから野菜は落ちお皿の上で転がっていた。
「ほ、ほんとだ。ボーとしてたよ」
慌ててその野菜をフォークをさし、口に入れる。
…あぶない、あぶない。考え事していたらついつい別世界に入っていた。
元々が日本人だからだろうか、私は周りに合わせながら食べていく。協調性は大切だ。
デザートに入ったところでだいぶ溶け込んだ3人はワインをたしなみながらいろいろな会話をしてゆく。私はというと、未成年ということもありジュースを飲んだ。
だいぶ時間がたち男は政治の話を、女は好きなタイプだったり趣味の話など和やかにすごしていると深夜を過ぎた。
「すまないな、ここまで長居するつもりは無かったんだが」
「いやいや、2人には迷惑をかけてしまった」
カインはふっと笑った。すると、「少し借りるぞ」と言い残し、私の腕をつかみダーリュから離れた。突然だったので倒れかけた体制をなんとか持ち直しカインについていく。
「い、いきなり何!?」
「アーリーに1つ、言っておこうかと思ってね」
カインは笑っているように見えるが、目が笑っていなかった。その笑顔に私は背筋が冷える。
「俺はツテがあってギアーノと少しつながりがあるんだ。単刀直入に言おう、君は甘い。」
出会った頃のカインとは正反対すぎる雰囲気に驚き、動けなくなった。
「向こう側は本気だ。君がこちらの世界の人でないから感覚が摑めないのもわかる。それには責めるつもりはない。…しかしだ、だからといって力を抜いていいとは言ってないんだ、わかるか?」
私は声も出せず、頷く。
「軽い気持ちで引き受けたかもしれない。だけどアーリーには国の存命がかかっている。そこだけわかっておいてほしい。それに、今は嵐の前の静けさってね。」
カインは言い終えると、会ったばかりの笑顔に戻った。
「ダーリュはアーリーに甘々だし、言っておかなければと思ったんだ。ごめんね」
「い、いえ。私も引き受けたとき、軽い気持ちだったから」
確かに引き受けた時、軽い気持ちで引き受けたのは確かだった。ここは未知の世界。自分の常識で通じない事がたくさんある。だからと言っても、あの時はもっと真剣に考えるべきだったのだ。“雨”の恐ろしさも知らないからダーリュにも怒られた。
「…にしても、私が聖女だってこと知ってたんだね」
カインは私が聖女と分かっている前提で話していた。だが、4人でいるときはそんな素振り見せていなかったのだ。
「ああ、それならダーリュから教えられたし、国の貴族も知っているよ」
「え?」
「存在だけだ、みんな顔は知らない。陛下からいざとなった時力を貸してくれと1言添えてね」
「えーーーーーー!」
私はすっかり秘密事項であると思い込んでいたのだ。
…確かに陛下は秘密にするとは一言も言っていない。だけど国中の貴族に知らせるとは…!!!
「ほ、本当に責任重大だ…」
いや、知らせる知らせないの以前に責任重大なのだが。馬鹿な私は今更聖女になった責任が一層重く感じられた。
「俺も出来る限り支援をしよう、困ったときはいつでも言って」
「その時になれば、是非よろしくお願いします…」
優しいカインの笑顔に助けられ、2人はダーリュのところに戻った。
「遅い、いつまで話しているんだ」
不機嫌のダーリュは腕組みをして馬車にもたれていた。それに向かってカインがおちょくるように返事をする。
「ごめんごめん、………あ、もしかして嫉妬してる?」
ニヤニヤのカインはダーリュを愉快そうに見つめる。
「してない!」
ダーリュが馬車にのると慌てて私も馬車に乗りこんだ。
ちなみに、シャーは私とカインが話している途中に迎えがきて帰ったそうだ。
「じゃあね、お二人さん。また食事でも誘うよ」
「はい!また会いましょう」
「……………。」
馬車の窓越しで別れの挨拶をすると、ゆっくりと馬車が動き出し屋敷へと向かう。
カインが見えなくなったころ、不機嫌なダーリュは私に話しかけてきた。
「あいつと何話していたんだ?」
「え、と。聖女関係かな?」
……今思えば。
カインはいたずら感覚でダーリュを不機嫌にさせていた。いや、彼は今日一緒にいた感じでは裏を除いて、天然さんだ。無意識なのかもしれないが、とにかくしょっちゅうダーリュを苛つかせていた。
しかし、帰りには彼はいなくなるが、不機嫌なダーリュはそのままというわけで…。
ダーリュは長い足を組みながら景色を見ていた。
…とにかく、ここは話題を作って紛らわせないと!
「あ、あのさ、シャーとカインって恋人関係、なの?」
慌てて作った話題にカインの名前を出してしまい、墓穴を掘る。
あーもう!なんで私はこんなにも馬鹿なんだろうか!!
しかし、ダーリュは気にせず答えてくれた。
「いや、違うな。シャーには婚約者がいるから。正確に言えばカインがシャーを口説いているんだ。それに私達は捕まったという訳だ」
「…婚約者…!?」
そうか、それなら私達が呼ばれた意味もわかる。
要するに男女2人で出かけることは、婚約者がいるシャーにとってまずい状況になるからであって、私達は本当にカモフラージュだったということだ。
「はぁー…婚約者かぁ。」
貴族には当たり前なんだろう、そもそも恋愛結婚が珍しいぐらいだし。
「…んん?ダーリュって婚約者とか、いないの?」
彼はもう大人だし、そろそろ結婚していてもいい年だ。しかし、ダーリュの反応は意外なものだった。
「………そういえば、いたな」
それ以上は私も踏み込めず、真相は暗闇の中に落ちていった。