反省…
朝、リーナに支度をしてもらっていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。「私だ。」とダーリュの声がすると、部屋に入るよう促す。
「こんな朝早くにどうしたの?」
まだ朝ごはんも食べていない時間帯だった。支度が終わりかけで良かったものの、まだ寝ていなくて良かったと心の底から安堵する。
「いきなりなんだが、今日の予定は開いているか?」
「うん。空いてるよ。」
今日は特に無く、あるとしたらリーナとの野菜を収穫する事ぐらいだった。
「なら良かった。お昼向かいに来るからリーナに着替えを手伝ってもらいなさい。」
「どこか出かけるの?」
「ちょっとした│鑑賞会《面倒事》に行くだけだ」
一瞬、ダーリュの目が不自然になった。嫌そうな、面倒くさそうなそんな感じ。しかし、すぐにいつも通りに戻った。
そんなダーリュに私は不思議になる。普段はあまり表情の出さない人だ。そんなダーリュが顔に出すほど嫌がるとはどういうことなんだろう。
ダーリュはこの事を伝え終わるとすぐに自室へと戻って行った。大方、仕事に行く準備だろう。私も朝の支度が終わったところで、リーナにお礼をいい、ダーリュの後ろをついていくように部屋から出た。
少し急ぎ足で廊下を突き進む。その途中で人に会えば挨拶を交わし、別れる。それを繰り返すとやっとダーリュの部屋にたどり着いた。
コンコン、とノックする。
「ダーリュ、私。」
中から返事が返ってきて、中へ入った。
「鑑賞会ってどんな感じなの?」
早速、聞きたい質問を口にする。するとダーリュは準備中の手を止めずに私の質問に答えてくれる。
「歌と劇を見るんだ。……あ、そういえば」
ふいに何かを思い出すと、準備の手を止めてこちらの方を見た。
「今回は私達2人に私の知り合いともう一人と一緒なんだ」
「え、他の人達と…?」
私は部屋にあるソファーに座ると、ダーリュの行動をガン見しながらどんな人だろうと想像し始める。
ダーリュの友人だろうか。ダーリュに国王様以外の知り合いがいることすら信じがたいのに。
そんな失礼な考えを巡らせいるのがわかったのか、ダーリュはじとっと睨み付けた。
「まぁ、私達の方は巻き込まれた組であり、カモフラージュだから気にせず普通に舞台を見ていればいい。」
「…ま、巻き込まれ組?カモフラージュ?全く状況が見えないんですけど…」
鑑賞会を見に行くのに使われない単語に疑問が生まれる。
「私の知り合いがどうやらデートに誘いたいらしく、2人では恥ずかしいという事で私達を巻き込んだんだ。」
ダーリュは全くだ、とでも言いたげな表情で1つ溜息を落とす。
……ああ、なるほど。ダーリュが不自然な表情になった理由はこれか。
そう、察した私とともに準備が終わったダーリュとともに部屋から出た。玄関ホールに続く大きな階段を降り、玄関の正面で立ち止まる。
「とにかく、そういう事で。鑑賞会はすごく面白いと評判らしいからそこはあいつに感謝だな」
「鑑賞会、楽しみにしてるよ」
私が笑うと、ダーリュは軽く口角を上げ頭を撫でた。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そして、私は仕事に向かうダーリュを見送る。それから、屋敷の裏側に回りいつも通りに収穫を手伝いに行くのだった。
「アーリー様、お昼ですよ」
しばらくするとリーナが少し早いお昼を呼びに来る。
「あれ、もうそんな時間??」
畑から顔をだした私は声がした方に向けると、途端にリーナの叫び声が聞こえてきた。
「な、何をやっているのですか…!!あれほど土いじりだけはしないで下さいと再三申し上げたのに…!」
まるで恐ろしい物を見たかのような表情で私に近づいてくる。そんなリーナを見て、思わず自分の服に目線をやった。すると作業用のワンピースは案の定が土に汚れていて、苗を植えていたからか腕は土で焦げ茶に染まっていた。
「ご、ごめん…リーナ。つい…」
ずんずん進んでくるリーナに恐怖を感じ思わず後ずさりする。
「つい、ですか!こんな真っ黒になって│つい《・・》ですか…!」
「あはは、はは。…………ごめんなさーい!」
耐えきれず、走り出した私は全速力でリーナから逃げ出す。
元の世界で自然に触れる機会が少なかった私はここの世界で畑の楽しさにハマってしまったのだ。それから、夢中になり土をいじって真っ黒になる私はリーナに土をいじるのを禁止されてしまったのだ。『誰が服を洗うと思っているんですか!』と。
もちろん、反省もしたし土をいじるのも止めた。しかしだ。今日はふと土に目が入ったのだ。そこから、私の土に触りたい欲望が見事に勝ってしまい、今に至る。
「ごめんなさい!ごめんなさい!わざとじゃないのー!」
「わざとでなかったらどうして逃げるのですか!」
それはリーナの顔が怖いからだよ、とは言えず。
完全に鬼ごっこ状態になった2人は屋敷の周りを走る。3、4周目に入ったころ門の方で人影が見えた。
「ダーリュ様!アーリー様を止めてくださいー!」
少し後ろにいたリーナが叫ぶとダーリュはこちらを向き泥まみれの私を素早く捕まえる。
「……何やってるんだ?」
猫をつかむように首の後のところの服を掴み呆れ顔で私を見る。そこでリーナが追いつき、荒い息を整えながらダーリュにお礼を言った。
「…お手数を、お掛けして申し訳、ありません…」
「いや、大丈夫だ。しかし、2人して何をやっていたんだ?」
ダーリュが2人を見比べ、リーナに尋ねる。
「アーリー様が土いじりを禁止してたのにも関わらずやっていて、それにアーリー様が逃げるので追いかけていました。」
「だって、リーナ怒ったらこわいんだもん」
「アーリー様がやってはいけない土いじりをするからですよ」
しょもない会話にダーリュは思わず溜息がでた。
「2人とも、何か重要な事を忘れてないだろうか…」
彼の一言で2人の言い争いはピタリと止まる。2人とも昼にダーリュが帰ってくることをすっかり忘れていたのだ。
「そ、そういえば、ダーリュおかえりなさい」
「ああ、ただいま」
まだ首の後ろを掴まれながらも首をめいいっぱい捻り、ダーリュの方を向いてとりあえず笑ってみる。
「アーリー、もしかしてその格好でいくのか?」
「あはは、そんな訳………ごめんなさい」
首の後ろを離してもらうと髪に付いた土を払ってくれるダーリュ。それを私は目に入らぬよう目をぎゅっとつむり、少し泣きそうになった。
なんでこんなにもうまくいかないのだろう。リーナはちゃんと私を呼んでくれたし、逃げたのは私だ。すべて自分のせいだ。
「まだ間に合うから、ちゃんと土を落としてきなさい」
な?とダーリュは私の背中を押し、ともに屋敷に入った。そしてリーナに私を湯に入れるよう指示をし、自室で待っていると私に伝えると頭を撫でて去っていった。
「…では行きましょうか」
リーナが優しく笑顔で言ってくれる。
「……うん、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。でも次からは気を付けてくださいね」
リーナの言葉に頷くと、今にも溢れそうだった涙が1つ床に落ちた。
ついに、アーリーの初戦が無事に終了です!
本当に、おまたせしました。
これからもよろしくお願いします!!