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掌編小説

理系脳、アラサーにして立つ

作者: 斎藤康介

 理由が欲しかった。

 あのちんちくりんとした体型のどこに惚れたか。あのオヤジ臭い笑い方のどこに惹かれたのか。年齢だって三十歳だ。お世辞に若いとは言えない。職場の同僚とはいえ彼女は今年から同じ部署に配属されたばかりで、知り合ってまだ数か月しかたっていない。

 それでも俺は彼女に対して好意を抱いた。いや、好意などという淡い感情表現では言いあらわせない。これは正真正銘の恋だった。

 四六時中彼女について考えては仕事が手につかず、彼女が席を外せばあとを追い偶然を装って話しかけた。夢のなかにでさえ彼女が出てくる有様だった。あげくには恋に落ちてからというものあらゆるものがまばゆく見えた。比喩ではなく実際にそんな風に見えたのだ。そしてこれまでの俺の精神風景がいかに荒涼としたものかを知った。これまで信じていた価値観がこれらのまばゆさの前では色彩を欠いて思えたのだ。彼女は心に降った慈雨だった。

 だがこれははじめから叶わぬ恋だった。彼女には婚約者いた。

 だから理由が欲しかった。彼女のどこに惚れたのか。彼女のどこに惹かれたのか。

 なぜならこれは28年の人生ではじめて落ちた恋だったのだ。


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