四:犯人探し
廊下を大きい足音を出して早歩きで歩く。
右手には、二つ折りにした一枚のプリントアウトした紙。
左手には外した眼鏡を持っている。
長い廊下の途中のリビングに入ると叫んだ。
「おい。野薊」
野薊は、私を見ると大きく目を開いた。
「は、はい」
「椎華の事なんだが」
「あ、貴方も知ってらっしゃるのですか?」
「あぁ、お前も知ってたのか」
「家出しちゃったんですよ」
「誘拐されたんだ」
二人の言葉が一致していなくて、私は一瞬ハテナマークが頭に浮かんだが、すぐに分かり野薊にプリントアウトした紙を見せた。
読み進めて行くうちに顔が真っ青になっていった。
「ど…ど、どうしましょう」
「とりあえず、警察に電話してくれ」
「え、で、も電話したら…」
「大丈夫だ。警察について何も触れていないから手出しはされないだろう」
野薊はしぶっていたが、反論の言葉が出なかったのか、早歩きで携帯のあるところに行き、電話をした。
「どうも。小野です。そっちが」
「仁科です」
二人は私に名刺を出してきた。
それを受け取り、こちらも名刺を出す。
「あの、上の方が来るのでは…?」
「あぁ。もう二人ですか?
それなら、多分そろそろ来ますよ。喧嘩しながら」
仁科は、リビングから廊下に出るドアを指した。
するとタイミング良く、ドアが開いたと思うと灰色の毛並みの男と緑色の毛並みで耳の先が内側に折れてる男がきた。
二人とも三十代に見える。
「っるせぇな。だからテメェは無責任って言われんだよ」
「はい?フーンさん何をおっしゃって?フーンさんこそ無駄にカッコつけてるじゃあ無いですか?」
「はぁ!?」
二人の男は言い合いをしながら話している。
それを見た仁科が二人に近寄る。
小野は何もせずただ二人を見てにやけ顔をもっとにやけさせている。
「あーもう!!先輩方!」
仁科の叫び声に二人は、こちらに目を向けた。
似たような細い目をしているが、よくよく見ると灰色の方はタレ目気味だ。
緑色の方はつり目気味になっている。
「来て早々騒いで申し訳ありません。私は、深谷と申します。
この中では、責任者みたいなものです」
「私は根野崎です」
二人は、ぺこりと頭を下げ名刺を出す。
その姿は流石警察と思うほどだ。
根野崎は小野のようににやけ顔だが、小野よりも良い雰囲気のにやけ顔だ。
名刺を受け取り、こちらからも渡すと早速本題に入った。
「いつごろいなくなりましたか?」
深谷が聞き隣で根野崎がメモをとっている。
野薊には、仁科と小野が事情聴取を行っている。
「それは、野薊が知っている。ちなみに、それが届いたのは昨日の夜九時だ」
根野崎が何か深谷に耳打ちをする。
「そうですか」
考える仕草をしてから、また私の方に向き直った。
「プリントした内容の元のデータは消してませんか?」
「あぁ。もちろんだ。二階の書斎の机の上にパソコンがあるから勝手に見てくれ。パスワードとかは、特にかけてない」
「じゃあ、お借りします」
深谷と根野崎がさっさと二階に行ってしまいその後ろに小野がついていく。
「お二方は、ここで待機していて下さい」
仁科が焦ったようにぺこりと頭を下げ追いかけて行った。
黄色の毛並みのくせに、頭を下げた時、耳と耳の間にあるちょうど頭部てっぺんにある、そこだけ緑色の毛がヒュルンと揺れた。
フーンさんが、パソコンをいじっている後ろでネーノさんが後ろから覗いていた。
アヒャさんと言えば、僕の隣で書斎にあるフカフカのソファーを楽しんでいる。
「アヒャさーん。仕事中ですよー?」
「ヒャ?仕事中だからこそ、こんなことが出来んだよ。ヒャヒャヒャヒャ」
アヒャこと、小野先輩。
僕が勤務している所では一人一人にあだ名が付けられている。
なぜかはよくわからないけど。
深谷先輩は、フーンさん。
根野崎先輩は、ネーノさん。
「ニラも来いよ」
「ニラ……いや、断っておきます」
僕はなぜかニラと呼ばれている。
頭の毛が緑だからだろうか。
頭の毛を触っているとフーンさんの焦ったような声がした。
「おい。アヒャ。てめぇのパソコンから送られてんぞ」
「へ?」
「だから、この脅迫文…てめぇが送ったのか?」
フーンさんが、ジワリジワリとアヒャさんに近づく。
アヒャさんは、焦ったように両手を横に勢い良く降る。
「いやいやいやいや、勘弁して下さいよー。俺がそんな事すると思いますかー?」
フーンさんは、頷いた。
アヒャさんは、左目についている傷を指でなぞった。
「俺アリバイありますもん!」
「あー。確かにその時間は四人で話してたよな」
ネーノさんが、こちらを見ることなくパソコンだけに目を向けている。
「なっ?」
「うーん…まぁ、アヒャが犯人って言うのは考えにくいよな…」
「あれ?早とちりですかぁー?」
ネーノさんがフーンさんのそばに近寄る。
「ちげぇよ。だいたい、お前もそう思ったろ」
「俺は思って無いですよ。フーンさんの方が長いのに…」
「あぁ?んだと?」
二人の言い合いが始まった。
この二人は仕事の時は良いペアなんだが…普段の時は本当に仲が悪い。
いや、喧嘩するほど仲が良いんだっけ?
「もう!やめて下さいよ!」
残念ながら、僕の声など全くもって聞こえてないのか言い合いを続けている。
アヒャさんの方を見ると、いつもどうり謎の笑い声で笑っていた。
「ちょ!アヒャさん!あれ、何とかして下さい!」
「えー?俺かー?うーん…。
じゃあ、止められたら缶コーヒーおごりな」
「……」
僕の返事も聞かずにアヒャさんは、二人の所に近づいた。
「おいおい。やめた方が良いんじゃないですか?」
「「あぁ?」」
「……」
二人にすごまれて、流石のアヒャさんでも少し怯んだが、頬をかくともう一度言った。
「主任に言いますよ」
普段よりも、少し低めの声で言うと、二人は言い合いをやめた。
なんだか、今日はアヒャさんの方が大人に見える。
「ヒャヒャヒャヒャ!おーい。ニラ!コーヒーよろしくな!」
やっぱり気のせいかもしれない。
「とりあえず、今回はパソコンを遠隔操作された可能性が高いんじゃネーノ?」
「ん?あぁ。そうだな…。
っくそ…遠隔操作かよ」
「あのー…」
二人の会話に恐る恐る入るように手を挙げた。
「遠隔操作だと探すのが大変なんですか?」
「んぁ?……まぁな」
「それにしても、連続殺人事件で大変だってのに、今度は誘拐なんですね。ヒャヒャ」
「社長様だから、しょうがないんじゃネーノ?」
どうやら、この様子を見る限り皆さん上島社長を嫌っているようだ。
「あーぁ。めんどくせぇ」
フーンさんが、タバコを吸い始めた。
「まだ、仕事終わって無いですよ…」
「いんだよ。こーでもしとなねぇとやってらんないからな」
白い煙を吐き出す。
ネーノさんが、窓を開けるとタバコの煙は外へと逃げて行った。