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氷炎の幻視者  作者: りん
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第八話 幼なじみ

あけましておめでとうございます!

この物語をブックマークに入れてくださった方、ありがとうございます。

また、ここまで読んでくださっているかたにも感謝の気持ちでいっぱいです。

本年もどうぞよろしくお願いします。

 フィンは目論見通り、スーにもみくちゃにされているリルは気にしないことに決めた。

 大の動物好きであるスーがリルを離してくれるにはもっと時間がたたないと駄目だと思ったからである。


 フィンはいつの間にかベッドから立ち上がっていたリリーに近づく。

 彼女は今にも溢れそうな涙を瞳に溜めて、フィンを見上げた。


「心配、したんだよっ……! 逃げ遅れたのかも、もう会えないかもって思っちゃったんだから!」

 

 リリーは片手でフィンのコートを掴むと顔をうつむかせた。彼女の頬に涙が光る。

 そんなリリーを見て、フィンは右手を彼女の頭の上にポンと置いた。


「心配かけて悪かった。だっ、だからな? ほら、泣くなよ」


 そう言うやいなや、フィンはリリーの頭の上に置いた右手で彼女の髪の毛をかき乱す。

 泣き顔から一転、リリーは不機嫌そうな顔でフィンを軽く睨むとそっぽを向いた。


「変わらないね、フィンは。……そんなところも」


 側に来ていたデューイがからかうように笑った。

 どこか決まりが悪くなったフィンは話題の転換を図る。


「ところで、お前らは今までどこにいたんだ?俺が探しても全く見つからなかったんだぞ」

「それはね、お師さんのところにいたんだよ~!」

「スー? あれ、リルはどうしたんだ?」


 スーは先程までリルと戯れていた場所を指差した。

 そこには疲労困憊でボロ雑巾と化したリルの姿があった。


「予想以上に気に入られたみたいだな……。まあ、リルのことは置いといて」


 放置する気か! というリルの心の叫びは悲しいかな、誰にも聞かれることはなかった。


「お師さんってお師匠さんのことか?」

「うん。村から逃げのびた後、行く宛もなくさまよっていた私たちを助けてくれたの」

「山奥の小屋で生活しててね……。修行をつけてくれたんだけど、これがまたキツかったのよね……」


 そう言ってどこか遠い目をするリリー。他の二人も概ね同じような反応を示していた。


「お、おお……。大変だったんだな」

「大変なんてもんじゃなかったよ……。フィンはこの後どうするか予定はあるの? 僕たちは明日この町を発つまでは特にないんだよ。やっと会えたんだし、今日は一緒にいない?」

「俺たちも特に予定はないな。……リルも一応起こすか」


 未だ地面に突っ伏しているリルを起こしにかかる。

 揺さぶって、頭をぐりぐりとマッサージしてみる。

 微かにリルは身じろぎをするが、フィンは普段頭に乗られている不満も相まってかそのままぐりぐりを続ける。

 遂にリルも体を起こしてフィンに怒りをぶつけた。


「さっきから何をするっ! 疲れているところを狙うとは卑怯だぞ」

「そうよ~。ママはフィンをそんな子に育てた覚えはないわよ~」

 

 スーが便乗して茶々を入れた。

 元はといえばお前のせいだぞ、というフィンとリルからの視線を笑顔でスーは受け流していた。


「痛いぞっ! 止めろフィン!」

 

 リルがたまらず叫んだ。

 その声を聞いたフィンは、今度はリルの首根っこをひっつかんだ。

 意地の悪い顔をしたフィンがニヤリ、と要求を突きつける。


「今後俺の頭の上に乗らないって約束できるか?」


 宙に浮いた状態のまま、ぐぬぬ、とリルは唸った。

 そしてこの状況を脱却する方法に考えを巡らせる。


「どうした? 俺の最近の肩こりの原因であるリルさん?」

「ふっ……。フィンよ、油断したな。私が《天使》であることを忘れたのか!」


 その瞬間ポンッという音と共にリルの体が白い煙に包まれた。

 今までフィンとリルのやりとりを呆気にとられて見るだけだった幼なじみトリオも、それには驚いて各々声を上げる。

 

「なんかもう色々と私の理解の範疇を超えてるんだけど!?」

「私もだよ~」

「僕もよく分からなくなってきたよ!」

 

 煙が晴れたそこには、小さな白い小鳥がいた。

 パタパタと羽ばたいて緩んだフィンの手の拘束から逃れる。


「しくじった。《天使》は姿を変えることが出来るのを失念してた。……リルを改心させるチャンスだったのになあ」

「ふふふ。出直してくるんだな。私を屈させるには100年早いぞ!」


 ぎゃあぎゃあと言い争うフィンとリルを、三人は呆れ半分、驚き半分で眺めながら立ち尽くすのだった。



 ◆◆◆◆◆



「いやあ、ごめんな。ちょっとはしゃぎすぎた」


 結局あの後、フィンはまだリルのことを《天使》だと知らなかったリリーとスーに説明してから町へ繰り出した。

 

 現在は町の中でも服屋や雑貨店などが多い地区に四人と一匹は来ている。

 特に行きたいところもなかったので、女性陣の意見が採用されたのだ。

 フィンとリルが先程いた食べ物の露店が立ち並ぶ地区よりも落ち着いていて、人通りもそれほど激しくはない。

 可愛らしく着飾った町娘の姿も見られた。


「フィンも来てたことだし、ちょっとお洒落して着替えてくればよかったかもね~」

「なら、服かアクセサリーでも見ていくか? ひとつくらいなら今まで心配をかけてたお礼もかねてプレゼントするよ。幸い、懐は温かいからな」


 フィンの突然の提案にリリーとスーは目を輝かせた。


「いいの?」

「フィン、太っ腹~」


 スーに両腕で抱えられたリルは、彼女にすりすりと頬ずりをされている。リルはもう諦めてされるがままになっている。


「じゃあ、どこから回ろうか?」


 デューイが沢山立ち並ぶ店を見ながらキョロキョロとする。

 

「まず、アクセサリーから見て回ってもいい?」

「いいね! けって~い!」


 回る店に目星をつけると、リリーとスーは歩き出した。

 二人の後ろをフィンとデューイがついていく。


「僕、前に付き添ったことあるけど、二人の買い物は長いよ。というか、女の子はみんなそうなんだろうけど」


 デューイが苦笑混じりに言った。


「……もしかして、面倒だったかもとか思ってる?」

「当たり」

「フィンはそんなところも変わらないね。……あれ? もう店に入っちゃいそうだよ!」 


 二人は前に行ってしまったリリーたちを早足で追いかけた。



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