表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊神殿の愛し子たち  作者: あると
水蓮の巫女姫
2/6

そして彼女は愛を憎む

 そして、彼女は華南(かなん)国の王に嫁いだ。華南の国王は賢王と称えられた王が早くに亡くなった為に14歳で王位についた。姫と同い年の彼は若くして大国の王になったが、優秀だし民にも優しいと評判の王だった。女性問題以外では…。

彼は16歳のときにある女性と出会い愛しあった。その女性の身分が低いために彼は正妃を迎えずに彼女を唯一の愛妾として遇していたのだ。黒髪で濃い青い目の美丈夫な王は薄茶の髪に薄い緑の美しい女性を愛したのだ。王は初恋の女性を偲んで訪れた森の泉で彼女に出会ったのだ。初恋の少女と同じ髪色で同じ色の瞳の美しい女性に…。

 民は御伽噺の様な彼らの出会いに好意的だったが、王宮へと繋がる森の門番の娘に過ぎない彼女を重鎮達は側室に迎えることすら反対した。王の所有する森の為、門番とはいえ下級貴族がその任にあたっていたのだが、身分が低すぎた上に美しさだけがとりえのような女を養子にしようとする上級貴族はいなかったのだ。

 だからこそ、王が門番の娘を妃にしたがっていることを知った東香国が、先王と交わした花蓮姫との婚姻の約束を破棄するのかと問い合わせてきた時に、重鎮達が否と返したのだ。彼らは先王の約束をしらなかったが、彼女を後宮に迎えて妻ではなく愛妾にすることを認める代わりに花蓮姫を正妃にすることを王に認めさせたのだった。

 華南国では正妃は一人で側室が1人までなら許されている。なぜなら、側室は正妃候補と考えられているからだ。いざという時にすぐに正妃の執務が可能である女性でなくては側室とも認められなかった。門番の娘は容姿は美しいが悪意は無くとも軽々しい発言が目立つ上に、拙い礼儀作法しか出来なかったために貴族女性の社交のトップになるには甚だ力量不足だった。王にはそれらもすべて彼女の美点にうつっていたようだが…。


東香(とうか)国の花蓮(かれん)姫、よく来てくれたなどとはとてもじゃないが言えないな。君を迎えるのは私には不本意なことだ。君も知っているとは思うが、私には他に愛する人がいる。子もすぐに産まれるというのに、いまさら正妃など…父である先帝の遺言だから覆せなかった。君を正妃になど認める気は無い。なんなんだその髪も目も、真っ白な髪に色の違う青い目など東香の王族と似ても似つかないじゃないか。神殿の巫女をしていたとあったが、その異端さで隠されていたんじゃないのか?まったく、この後宮でおとなしくしていてくれ。いずれ神殿に帰してやるから」


一方的にしゃべって彼は去っていった。残された姫は無表情に彼を見送り、侍女たちは呆然としていた。


「なっ何なのですか…花蓮様に対してあの言いようは…」


「花蓮様を異端などと蔑むなど許されません。すぐに国王様に報告致します」


憤る若い侍女をなだめながら、年かさの侍女はそういって動こうとした。姫をすぐに東香国に連れて帰ろうとしたのだ。


「ほうっておきなさい。興味がないならちょうどいいわ」


そんな侍女たちをチラッと見て彼女はそう命令した。


「ですが!」


「いいの。あなた達は私について来る時に誓ったはずよね、お父様ではなく私に従うと」


彼女は国よりも自分のみに服従を誓った者しか連れてくる気は無かった。だからこそ、2人の侍女だけなどととても王族の嫁入りとは思えない人数で嫁いで来たのだ。


「優衣、我らは花蓮様にのみ従います。分かりましたね?」


「はい…申し訳ありませんでした」


年かさの侍女の咲になだめられ、不敬に当たりかねない自分の発言を主に謝る優衣だった。彼女は花蓮姫に憧れるあまり中級貴族の娘でありながら神殿の雑用係りをしていた少女だった。彼女にとって花蓮姫は神の様な存在だった。花蓮姫は自分を慕う優衣を雑用係りの時から可愛がり、自分付きの神殿侍女にまでしていた。今回の嫁入りの時は他国ということも冷遇されるであろう未来も予測できていたので、幼い時からの専属侍女だった咲以外は連れて行く気は無かった。だが、優衣が置いて行っても絶対に着いて行くと強情だったためにまだ14歳の優衣を連れてきたのだ。


「許します。咲、優衣、貴方達がいてくれるから私は耐えられるの。でも、国では何も言われなかったけれど、この見た目は目立つのね。あの王の無知さにも驚いたけれど、いずれ神殿に帰してくれるなら、この国が何も知らない方がいいわ。咲は彼らが私のことに気付かないように情報を操作して、お兄様たちにも現状を知られたくないわ。優衣は後宮の中を調査して、誰がどの派閥なのかを確認してちょうだい。派閥争いに巻き込まれたくは無いもの」


やさしく自分の腹心とも言える侍女たちに微笑みながら指示をだしてから、彼女は一人、寝室に篭った。

そして、行儀悪く寝台に仰向けでゴロンとねっころがって天井をにらみながら悔しそうにつぶやいた。

「気付かなかったわね。あの男のせいで、私はこんな所にいるのに…」

彼女が彼を見限ったのはこの時だった。


花蓮姫は嫁いできた日から後宮に軟禁されているようなものだった。国許への書簡も管理され冷遇されている状況を知らせることは出来なかった。姫たちが大人しくしているのはそのせいだと王は思っていた。実際は姫が自分の意思で国許に知らせることを選んだのなら他にも知らせる方法はあるのだが…。そもそも、姫が協力的だったからこそ、冷遇が外にもれなかったことに王は気付いていなかった。


そして、1年が過ぎた。この世界では結婚式はあげる習慣がなく、女性は大々的に嫁ぐことは無い。特に他の国からも縁談が来ていた女性は親しい者以外には告げずに嫁ぐ。そして、嫁いでから1年経ったときに盛大なお披露目の宴をするのが一般的なのだ。このお披露目により蜜月の終了を世間に公表する習わしになっている。過去に花嫁をめぐり国同士の大きな争いになったことを教訓として行われるようになった風習である。争いを避けるために蜜月の終了と共に花嫁を披露する宴を行うのだ。

 そして今まではその蜜月の期間とされていたために、彼女を後宮に軟禁するのはたやすかった。花嫁の素性は国民や他国にも知らせず、王の側近にしか知らせていなかった。それは花嫁を守るためにたまに行われることなので、不審には思われなかった。もちろん、王が蜜月の期間だということは公表されていたので、王にそこまでさせる女性は誰なのかを国民は色々と噂をし、他国は秘密裏に花嫁の素性を探っていたが、東香国の唯一の姫である可憐姫は神殿の巫女になったと発表されて以来、表には一切出てこなかったので、彼女が花嫁だとは思いもよらぬことだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ