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精霊神殿の愛し子たち  作者: あると
水蓮の巫女姫
1/6

そして彼女は愛を隠す


ここは大小様々な国が存在し、精霊が信じられている世界。 

 

この世界では、精霊の力を借りることが出来る存在を『彼らの愛し(めぐしご)』と呼ぶ。

精霊は地・水・火・風の4属性に大きく分かれると考えられている。そして、人もまたその属性にわかれているとされている。守護をする精霊の属性の違いが人の性格というか気質に影響を与えていると考えられているのだ。そのため、自分の守護をする精霊の属性が自分の属性だと考えられている。

 また、愛し子以外は精霊の力を使うことは出来ないが、希少な物で精霊石という精霊の力が固まったとされる石がある。それがあれば擬似的に精霊の力を使うことが出来るが、自分の属性以外の力の精霊石は使えないのである。


 精霊の守護は血に連なる。なぜなら、精霊が同じ属性を持つ者を好んで守護すると考えられているからだ。属性は血が濃いほど同じ属性になった。その為、どの属性の精霊が守護を与えるかは継ぐ血によると考えられていた。基本的に、子供は両親のどちらかの属性を受け継ぐからだ。また、両親の属性が違えば兄弟でも属性は違う場合もある。兄は父と同じ風の属性、弟は母と同じ地の属性などとなるのだ。

 そして、同じ属性同士の両親の子の方が愛し子が生まれる率が高かった。そのため、精霊を尊重する国は他属性との婚姻を避ける傾向にあった。ただ、属性の種類や精霊の加護があるのかはある程度まで成長しないと分からないのである。もちろん、属性は両親のどちらかと同じなので予測は付くが愛し子といえども、幼い時は精霊の力を使うことは無い。そのため、幼い間は精霊が自らの力を貸し与えるべき存在なのかを観察している期間だと考えられている。ただ、精霊がその子に多く集まるようで愛し子になる存在の周囲では幼い時から精霊の動きが活発になるとされている。


 だが、精霊の愛し子の数は年々減っていき、精霊の存在や力を信じる者も減って来ていた。愛し子を見たこともない人々のほうが多くなっていたからだ。属性があるといっても精霊石が無ければ特になにも変わりはしないし、精霊の姿も愛し子と呼ばれる人々にしか見えないからだった。

 もちろん国によってはまったく違い、貴重な存在である愛し子を神子として敬っている国もある。

そんな中でも精霊王と呼ばれる精霊の長の様な存在が稀に人に加護を与えることがある。そんな彼らの加護を受けた存在は神の愛し子と呼ばれる。精霊を愛する国では彼らは王族よりも貴重な存在だった。


そして、そんな精霊を愛する国から一人の姫が嫁ぐことになった。ここ50年以上精霊の愛し子が生まれず、精霊の力を軽視する国に…。


 そして姫が嫁ぐ少し前のある夜に話を戻そう。


 姫は10歳になってからは王宮ではなく神殿で巫女として過ごしていた。だが、18歳になり結婚が決まった為に神殿を出ることになったのだ。この世界での王族の適齢期は16歳から18歳とされていて、姫は一生を巫女として終えると考えられていた矢先の出来事だった。

 明日からは王宮に戻り嫁ぐ準備をする彼女は、神殿で過ごす最後の夜を寝室の手前の部屋の窓辺で寝椅子に横たわり、ゆったりと過ごしていた。そんな夜に自室の扉を守る騎士は彼女に想いを語ったのだ。


「姫…婚姻が決まられたそうですね」


「ええ、華南(かなん)国の王に嫁ぐわ」


「あんな愛妾に溺れた男になぜ!」


穏やかに返す姫に騎士は激昂した。姫の相手の華南国の王には妊娠した愛妾がいるからだ。若くして大国を治める優秀な王とはいえ、正妃もいない内から愛妾がいる男になぜ尊ばれるべき姫が嫁ぐのか…。姫は巫女として水の精霊王を祀るこの神殿に一生を捧げる。そう思っていたからこそ、姫を守る為に神殿騎士になり、この気持ちを押し隠したのにと悲嘆にくれる騎士を一瞥もせずに彼女は答えた。


「仕方がないことなの、契約だから…」


「姫…愛しております。たとえ、あの男に染められようとも…私は貴方を愛し続けます」


諦めきった様子で夜空に浮かぶ銀色の月から目を離さずに話す彼女に騎士は愛を告げた。婚姻の決まった姫を困らせるだけだと分かっていても、もう想いを隠せなかった。


(ながれ)…私はもう巫女じゃなくなるの。神殿騎士の貴方とはもう会えない。私のことは忘れなさい。月の様な貴方の髪や淡い緑の瞳に憧れたけれど…私はもう勝手な思いが許される立場ではないの。貴方と私の道は別たれてしまった」


彼女は彼の告白を聞いて、やっと月から目を離し扉の前に立つ彼を見つめた。そして、ゆるく編んだ腰まである真っ白な自分の髪に目を落としながらそう彼に告げた。そして、もう自分をじっと見つめる彼を見ようともせずに、彼の答えを聞こうともせずに、彼女は寝室に消えていった。


「姫…私の髪や瞳に憧れたと言って下さった…、その言葉だけで…私は一生貴方を…」


入ることは許されない閉ざされた扉の前で流は一人そうつぶやいた。姫を守る騎士が彼女に愛を語ったことは誰にも知られることはなかった。


そして、姫は侍女を2人だけ連れて華南国に嫁いで行った。


己を歓迎しない王の元に…。


己を縛る契約の為に…。


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