9話
「らなぁ〜。ちゅー……」
うぅ。おねだりなんてするべきじゃなかった。
まだゆりを運動させたくないらしい蘭奈は運転手を呼び出し、車で登校すると言った。いつもなら登校してる時間は寝るところだけど、大事をとって休んだ昨日もずっと寝てたから眠気は無くて、だから、ね。
ゆりたちのことについて蘭奈は親に咎められることは無いらしいし、運転手さんは何も耳に入っていないみたいな様子で運転してる。で、ひろーい車の中で襲われてるゆりなのでした。
「ら、な……んっ…………」
もう。こんなにしたら結局運動したのと変わんないよ。おねだりしたのはゆりの方だけどさ。
「ねぇ、妃結梨。これからは車にしよっか」
耳元で囁かれて、くすぐったさに身をよじる。押し倒されてる時点でこれは無意味な行為なんだけどね。分かってるんだけど。むぅ。恥ずかしいんだよ?
「妃結梨?」
うぅ……顔が熱い…。
「うーっ!」
「嫌?」
そんなわけないもん! えっと……でも、そしたら毎朝こんなで……うぅ。恥ずかしいけど嬉しいし。言葉に出来るわけもなく。唇にちゅっ。
結果。
火に油を注ぎました。
あうあう。
「お嬢様。学校に到着いたしました」
運転手さんナイスなのです。心の中で感謝しますです。
「行こう。妃結梨」
「むぅ。疲れたから抱っこ」
「はいはい」
軽々と抱えられてしまった。そう言えば蘭奈はこういう人でした。むぅ。嫌がると思ったのに。何でいつもお姫様抱っこなのかな。おんぶの方が楽だろうし、ゆり重たいのに。この状態ってすごく眠くなっちゃうんだよ。今は大丈夫だけど。
いつもは電車で会う木野立夏ちゃんと鹿目春華ちゃんと教室で合流です。
「ゆりと蘭奈、はよー」
「おはよ〜。あれ? ゆりちゃんはお疲れ? まだお熱あるの?」
「おはよー。ううん。熱は無いんだよ。蘭奈のせいなの」
襲われたなんて言えない。
蘭奈に下ろしてもらう。そして後ろからギューされます。ふにゃ〜落ち着く〜。
「てか、ゆりさ。もうあいつのこと良いの? すごいショック受けてなかった?」
「もう忘れたー。蘭奈がいるからいいもん」
事実だよ。蘭奈がいるから大丈夫。あの人のことなんてすっかり忘れちゃってたよ。本気で。
「なんとなーく思ってたんだけど、ゆりちゃん蘭奈ちゃんってもしかしてそういう関係なのかなーって。立夏とお話してたの〜」
「ほえ!?」
「その通りよ」
「えええ!!?」
ちょっ! なんで分かったの! なんで言っちゃうの!!
「ゆり、知らないの? この学校、同性カップルいっぱいいるから全然おかしくなんてないよ?」
そ、そうなの…?
「うちらが言いたいのはそういうことじゃなくて。あんたたち、人気者なんだからそうなったなら早く公表した方がいいよ」
え? 人気者?? 公表とか、恥ずかしいし……何の為にそんなこと。
「ゆりちゃんは可愛いし、蘭奈ちゃんはかっこいいからね〜。人気は2つに分かれてるんだよー」
はぁ。すごく初耳。
「蘭奈居るなら危ないことは無いはずだが、敵が少ないに越したことはないだろ。あいつも何気に引きずってるらしいし」
「はぁ?」
蘭奈が怒ってるー。反応が、速かったです。あと、声めっちゃ低かったです。
「いなくなって初めて大切さが分かるーって感じだよね。多分」
「おもちゃ扱いまでして何よそれ。……妃結梨。公表するわよ」
腕が離れたので振り返ると、何ごとも無かったかのようにいつものニコニコ笑顔を浮かべてました。ゆりには分かるんだよ。めっちゃ怒ってる。超機嫌悪い。
「でも、公表なんてどうやっ……」
……あぁ。そういうことになっちゃうんだ。で、でもですね蘭奈さん。教室で、みんないるのに……男の子もだよ? 流石にいつものは恥ずかし過ぎるよ?
「んっ……」
逃げようとしたけど時すでに遅し。腰をしっかり捕まえられてました。むぅ。もういいよ。乗っちゃえ。
そんなわけで、クラスの反応も先生が来たことも全く気づかなかったのですが。
「……そこまでだったのか。この一週間で」
「やっぱり仲良しさんなんだね〜」
「おい。何やってんだ。みんな席に着けー……って、あの2人何やってんだ? 瑞帆」
「あ、瑠璃ちゃん。付き合ってるってことじゃない? みんなショック受けてるね〜」
「瑠璃ちゃん言うな。先生だぞ。そうなのか。妃結梨の方は彼氏と別れたばっかだろ?」
「そだね〜」
「でもゆりちゃんたちって、前から恋人同士みたいにラブラブーって感じだったよー? ね、立夏」
「ああ。それより先生、HR始めないんすか」
「そーだなー」
……とまあ、こんな会話が繰り広げられてた、らしいです。
お気付きかと思いますが、タイトルの後ろに何か付いてますー。
らんシェはまだ納得いってない故〜変わる可能性大ってことッス。
以上。