7話
「らな……行かないでぇ…」
午前5時半。あたしはいつもこの時間に起きてお弁当や朝食の準備をする。当然妃結梨はぐっすり眠ってるんだけど今日は違うみたい。
「うぅ〜ん……」
いつもは気づかないのに。意識はあるみたいだから無視することも出来ず、近付いて声をかける。
「妃結梨?」
「いっちゃやーなの……」
彼女の頬に触れて初めて、いつもよりも体温が高いことが分かった。
「妃結梨。体起こせる?」
クローゼットの奥から救急箱を出す。体温計と熱さましのシートを。
「んー……体、重い……」
額に触れる。
「……やっぱり。熱いわね。妃結梨、測ってみて?」
ベッドに腰掛けて、測り終わるのを待つ。無理なんて絶対させないから、今日はお休みしなきゃ。後で電話しないとね。
ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ
「……38度4分」
「……ひぅ」
シートを貼ると、冷たさに驚いたのか目をつぶった。
「学校へはあたしが連絡するから。朝食も簡単な物にするわね。少し待ってて」
「ゆりも行くぅ…」
「だーめ」
「置いてっちゃやだよぅ……」
「すぐ戻るから」
「いやーあー…」
そんな潤んだ目で上目遣いなんてしないで。わざとやってるんじゃないわよね。他の人にしたら許さないわよ?
こうやって熱を出したとき、妃結梨はいつも以上に一人になることを嫌がる。昔からおばさんが家事で手を離せない時はあたしが一緒にいた。
「ソファでいいの?」
「うん」
妃結梨ならあのソファでもゆったり寝れるだろうけど。
「んー」
両腕を伸ばしてきた妃結梨を抱えて、リビングに向かう。妃結梨、相変わらず軽すぎじゃないかしら。
ソファに寝かせて、クローゼットから出したタオルケットを掛ける。
「じゃあ、ちゃんと眠って。何かあったらすぐに言うのよ。欲しい物とか」
「うん」
電話をしに少し離れる。ソファから見える位置だし、これくらいなら何も言わないでしょ。幸い電話に出たのは担任だったので、手間を取ることはなかった。幼馴染が熱で、母親も仕事で家にいない。だからあたしも看病をする為に学校を休むだなんて、普通なら理由にならないものね。電話を切ってからソファに戻る。妃結梨はまだ眠っていないみたい。
「朝食はどうする?」
「要らない……」
「ダメよ。薬だって飲まないといけないんだから。少しでも食べないと」
「おくすりもいやー」
「そうしないと熱下がらないでしょ」
「いいもん。そしたら蘭奈とずっと2人だもん」
あら。確かにそれはいいことね。
「でも、あんまり続いたりこれ以上熱が上がったらお医者様を呼ぶしかないわねぇ」
「やだやだ!」
「なら、ちゃんとご飯も食べて、薬飲まなきゃ」
「うぅ〜……」
タオルケットを口元まで引っ張って、頬を膨らませて睨んでくる。怒ってるつもりなの? 逆に襲いたくなっちゃう。
「リクエストが無いなら適当に作っちゃうけど」
「……うん」
「ちゃんと寝るのよ」
「うん」
いつもこういう時はは雑炊を作ってるけど、今日は特にきつそうだし……。もっと簡単にカットフルーツでも良さそうね。確かまだフルーツもほとんど残ってるはず。りんごとオレンジと、ぶどうもバナナもキウイも……。今日は妃結梨が好きな桃にしましょうか。
「蘭奈」
「なに?」
「……ちゅー」
本当に甘えん坊ね。
熱を持っているせいで赤くなっている彼女の頬にキスする。
「むぅ」
「治ったら、いっぱいしようね」
「うん」




