5話
「妃結梨」
「……うにゃ…………ん〜……」
「起きて。お風呂に入るわよ」
「ん……おひゅ…………うぅーん……」
重い瞼を少しだけ開けて、また閉じる。
だって……まだ、眠くて…………。
「汗もかいただろうから」
「んー…………!?」
ひんやりとした手が肌に当たり、驚いて今度はぱっちりと目を開けた。
「やっと目開けたのね」
「蘭奈、そ、そのかっこ……」
「妃結梨だってその格好。お互い様」
え?
初めてそこで自分の体を見下ろす。
……うん。
人のこと言える状況じゃなかった。
部屋を見回すと、スカートとブレザーは丁寧にハンガーにかけられていた。
「他のは洗濯に入れてあるから」
「……うん」
えーっと。何も着てない状況です。蘭奈はといえば制服のシャツだけを羽織った状態で……見えてる。
「ん……」
濃厚な、キス。途端にさっきまでの事を思い出して顔がかぁっと熱くなる。
蘭奈はやっぱり優しかった。
ゆりにかけてくれた声も、言葉も、触れる手も、キスも、全部……。
抱きつく。
「妃結梨?」
「ありがとう……」
「うん」
そのまま蘭奈に抱きかかえられた。お風呂に向かってるんだと思う。ゆり、重いのにな……うー……でも起きられないよぅ…………。
ずっとこうしていたい。今まで味わったどんな物よりも、甘い甘いキス。初めての感覚。蘭奈だから。蘭奈じゃないと、だめ……。
「着いたわよ」
名残惜しいけど、その腕から離れる。持っていたゴムで髪を簡単に結って、蘭奈よりお先に脱衣所を抜けてお風呂場に行く。2人で入っても余裕のあるこの広さに毎度のことながら驚かされた。同時に、体の異変に気付く。足が重い。まっすぐに歩けないくらい、ふらついていた。下腹部のあたりの鈍い痛み。それに頭痛も少し。そういえば時間が分からない。ゆりたちは、どれくらいの時間、ベッドで……。
軽くお湯をかけて、湯船に浸かる。
「ふぅ……」
あったかい……。
「妃結梨。こんなとこで寝ちゃだめよ」
「うーん……分かってるぅ…」
遅れて入ってきた蘭奈にまたギューしてもらう。うにゃ……落ち着く……。
「妃結梨」
そんな優しい声で呼ばないで……
「んー…………」
「ひーゆーり!」
「あぅ」
ゆりの顔を蘭奈の柔らかい手が挟む。
「おーきーなーさーいー」
「んーん……」
「本当に眠そうね。先に体とか洗っちゃいましょう。ほら、立って」
ふわふわとする意識で手を借り歩いて、少ししてから座らされた。
「洗ってあげるから。落ちないようにね?」
ちょうどいい温度のお湯がかかり、泡のついた手がゆりの背中を這った。
「ひゃう!」
突然のこそばゆさに声が出てしまう。
「妃結梨、肌すごく綺麗よね……」
「蘭奈に言われたら嫌味にしか聞こえないし」
って、何で手で洗うの? こそばゆいんだけど……。
「どうして? ……そういえば一緒にお風呂なんて、いつぶりかしらね」
「んー……小6じゃない? 最後にお泊まり会したの」
確か、中学の時は一回も同じクラスになれなくて。お互い部活も忙しくなったりして、テスト勉強の時くらいにしかまともにお喋りなんて出来てなかったような。
う……。なんか。蘭奈はゆりの後ろにいるから目の前の鏡を見ても顔は見えないのに、すごく見られてる気がする……。恥ずかしいんだけどな。
「あの時と比べたらずっと成長してるでしょ。背も、私との差があんまり無くなってきたもんね」
うんうん。小学生の頃のゆりは完全に蘭奈を見上げてたもん。クラスで背の順に並ぶと、ゆりが一番前で蘭奈が一番後ろってくらい。
差があまり無いって言っても、頭一個分はあるんだよね。蘭奈がおっき過ぎるんだよ……。
「でも、全然追いつけないし」
「いいじゃない。可愛いんだから」
「やだよ! おっきくなりたいもん」
ちっちゃい人からしたら大きくなるのはずーっと目標なの!
「大きさなら十分じゃない? こことか……」
「きゃ!」
ちょ!?
「あら。さっきも触ったけど?」
「蘭奈、変態……」
「誘ってるのは妃結梨なのに」
いつの間にか両方の手が胸のところに回ってきてます。
「んっ……蘭奈?! ふぁっ……」
だめ! う、動かしちゃ……!
「ちゃーんと洗わなくちゃ。でしょ?」
「何で、手……」
「触りたいから」
「ふぇっ?!」
んな率直な! って、動きがすごーく怪しいんですが!!
「んっ、」
も、もう! 変なとこ触っちゃダメ!
「妃結梨、可愛い……♡ もっと声、聞かせて? もっともっと……」