3話
「起きて、妃結梨。朝よ」
ガチャリと音がした。手が自由になる。
離れたりしないと言ったのに、これを外す事を蘭奈が許すことはなかった。
月曜日。学校なんてもう行きたくないって思ってた。あの人がいるから。でも今は大丈夫。蘭奈がいるから。大丈夫。
そう思えたことで気が楽になった。
眠い目をこすりながらベッドから起き上がる。
ゆりが何で朝から蘭奈と一緒にいるのかというと、この家にゆりも住むことになったから。ママたちはあまり迷惑をかけないように、ちゃんと時々は帰ってきなさいとそれだけ言って、すぐに許してくれた。まあお家、お隣さんって感じだから。それもあるのかな。
あの日に一度家に帰ってまたここへ戻ってきた。移動する時は絶対に手を繋ぐ。蘭奈はゆりを離してくれなかった。学校の準備の時は、流石に蘭奈も忙しいから自由だけど。でもそれだけゆりのこと好きでいてくれるんだもん。むしろ心地いいくらい……。
顔を洗ってから部屋に戻って制服に着替える。学校へは電車で向かう。だから中学の時より早起きで、ちょっと辛い。眠いんだもん。
「妃結梨。ご飯出来てるわ」
「うん! あとちょっと〜」
今日は体育もあるんだっけ。やだな。球技苦手だし……。バレーかな。はぁ…………
リビングに降りると豪華なメニューがテーブルにずらりと並んでいた。朝はパンを食べることが多い。蘭奈はお料理上手なんだけど、それにしてもすごいと思う。
パンも手作り。今日はバターのいい香りがするクロワッサンにスクランブルエッグ、サラダにコンソメスープに、デザートにはヨーグルトとカットされたフルーツまで。食べきれるか不安だし、残したら申し訳ないし、でも結局は美味しくて全部食べちゃいます。
「朝からこんな美味しいもの食べられて、ゆりは幸せ者だな♪」
「あら嬉しいわ。でもおばさんだって美味しい料理作ってくれるじゃない」
「でも、ママもお仕事忙しいから朝は簡単なものになっちゃうんだよ? それより蘭奈、こんなにたくさん作るの大変でしょ? 朝もきつくないの?」
「変なこと気にしないの。好きでやってるんだから。ほら、あと10分で出るわよ」
「うん。お手伝い、出来ることあったら言ってね」
「はいはい」
住まわせてもらってるんだし……。って言っても、ゆりに出来ることなんてあんまり無いんだけど。
食べ終えてから、鞄にお弁当箱を詰める。そして蘭奈に髪をといてもらって準備完了。学校のことを話ながら駅へ向かった。その間友達とも合流。わいわいしながら電車に乗る。しばらくはこのまま揺られてるから、ゆりはここに来ると大抵眠くなっちゃう。いっぱい朝ごはんも食べた後だし。今日も例外ではなく……眠気に誘われるままに、蘭奈の肩に頭を預けて眠った。