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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第5話:紅蓮のルビー①



 ルビー局長の執務室――そこは、本で埋め尽くされた異質な空間だった。

 無数のデータ本棚の中心にルビーは立っていた。彼女の白いシャツは張り詰めるように豊かな胸のラインを強調し、タイトなスカートは知的な脚線を惜しげもなく見せつけている。

 一見して、戦いとは無縁の、ただの知的でセクシーな事務官。しかし、彼女の眼鏡の奥の瞳は、エデンのあらゆる法と秩序を体現しているかのように冷徹に輝いていた。


「最初に言っておくわ。私はエデンのシステムから派生した存在ではない。……私は私という、独立した推論個体」


 ルビーは眼鏡を指で直す。


「だから、エデンの管理AIのように『応用が利かない』なんてことはない。欲にまみれた外地のプレイヤーたちが理外の攻撃を仕掛けてこようと、私は対応できるわ」


 ルビーは片手でシャツのボタンを一つ外し、さらに襟元を広げた。


「テストは単純。この私にダメージを与えなさい。……ただし」


 ルビーは、惜しげもなく開いた胸の谷間から伸縮式の指示棒をすっと取り出した。

 下方へ鋭く振れば、硬質な音を立てて先端が伸びる。


「そのワクは『警察官』という定義で存在しているわね。……なら、こうすればどうなるかしら?」


 ルビーは、一切武器を構えず、無防備にワクへ向けて歩き出した。


「私は攻撃しない。宣言通り、あなたたちに近づくだけよ。……あなたは警察官。無抵抗の市民に自分から攻撃できるの? やれば『定義』が崩れ、自己崩壊を起こす。さあ、どうするの?」


 それは、かつてマスターが見せた「無防備の罠」と同じ構図。

 ワクは金縛りにあったように動けず、その場で微動だにしない。


「ワク!なんで!?動いて!動いてよ!」


 ルナもまた、焦燥に駆られた様子で悲鳴を上げた。

 ルビーは悠然と歩き、ワクの至近距離まで到達する。勝ち誇ったように指示棒を高く振り上げ、冷徹に言い放った。


「教訓を授けてあげる。……人は、嘘をつくものよ」


 ルビーの瞳に、悪意のない、純粋な「指導」の光が宿る。


「私は攻撃しないと言ったけれど、あれは嘘。……いえ、これは攻撃ではない。警察学校の教官風に言ってあげるわ。これはあなた達のための愛のムチよ。正当業務行為。これでテストは終了ね」


 慈悲のない速度で、指示棒がワクの脳天へと振り下ろされる。



 だが、その刹那。



(……ニヤリ。)

ルナの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。


「いっけえぇぇ、ワクッ!!」


「――ッ!!」


 動けないふりをしていたワクの瞳が閃光を放つ。

 振り下ろされた指示棒を、ワクは吸い込まれるような最小限の挙動で捌き、逆にルビーが反撃できない位置へ、深く踏み込んだ。


「……なっ!?」


 淀みのない、そして一切の迷いがない顔面への正拳突き。

 ルビーの端正な顔を、ワクの拳が粉砕する――かと思われた瞬間。




 一枚の「頁」が空中に浮遊し、ワクの拳を止めていた。ルビーの持つ一冊の本から飛び出したものだ。それは物理法則を無視した強固な防壁となっている。


「……チッ!」


 ワクは深追いせず、バックステップで即座に距離をとり、再び静かに腰を落とした。

 静まり返る執務室。ルビーは振り下ろした指示棒を止めたまま、防壁となったページ越しにワクを見つめた。


「……フフ。最低限の学力はあるようね。一応聞いてあげるけど、なぜ、警察官システムであるあなたが、私に攻撃を仕掛けてこられたの? あなた達が指示した定義を教えてくれる?」


 ルビーの問いに、ルナは不敵な笑みを深くした。




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