第35話:突入
背後で響き続けるマスターの爆音を背に、ルナたちは階段を降りていく。向かう先は地下深くの心臓部だ。
「そこをどきなさいッ!」
通路を塞ぐ灰色のクローンたちを、ルナ達は蹴散らしながら進んでいく。ついに辿り着いた最深部。そこは、街のすべてのリソースが収束する巨大な空洞だった。
中央に安置されているのは、鈍く脈打つ鉛色の巨大な球体――街の心臓、システムコア。
「……あの中よ。モモの気配は」
ルビーがコアを指差す。
「力ずくで壊したらマズそうね……。ワク、エマ、どうすればいい!?」
ルナの問いに、ワクが冷徹かつ迅速にシステムコアをスキャンする。
「……解析終了。エマ、この構造ならいけるか?」
『ええ。データのみで構成された私たちなら、内部への侵入が可能かと』
ワクとエマは、絶え間なく流れるログを注視しながら一瞬で論理を組み上げた。
『ルナ様、聞いて下さい。魂の留置で、私とワクをコアに繋ぐのです。そうすれば、ルナ様を介して、私達がコアの内部に入り込み、コアと皆さんを分離することが可能となります。但し、コアからの情報逆流により、ルナ様には、多大な負担が……』
「……わかったわ。これしか方法がないんでしょ。さっさとやりましょう」
「ワク、これを持ってけ」
蓮司が、漆黒のドス『絶縁』をワクへ放り投げた。
「そいつは『縁』を断ち切るドス。システムとの腐れ縁を切り離すには一番の獲物だろ。……きっちり連れ戻してこい」
「……ありがとう。組長」
ルナがコアの前に立ち、精神を研ぎ澄ませる。
「――交流請求!!」
彼女の身体から溢れ出した光の線が、ワク、エマ、そしてシステムコアを繋ぎ止めた。
「うっ……、あああああッ!!」
接続した瞬間、街数万人分の情念がルナ一人に逆流し、激しい負荷がその身を襲う。
「ルナちゃん!大丈夫か!?」
サブが苦しむルナの身を案じる。
「……ええ、兄貴、……平気よ……。ワク!……行ってッ!!」
「ああ、行ってくる」
ワクの電脳内へエマが潜り込んだ瞬間、ルナが宣言した。
「魂の留置!!」
ワクは『絶縁』を握りしめ、エマと共に光となりコアの深層世界へと突入した。
ルナが接続したと同時に、コアから警報のようなノイズが鳴り響いた。壁からクローンたちが這い出し、無防備なルナへと一斉に進行してくる。
「ルナちゃん!頑張れ!俺たちが守る!」
サブは自身の獲物『復縁』を構えて身構える。皆を助けるための戦い。ここには、臆病な彼はいない。
死から復活したばかりでボロボロな状態であるルビーも、指示棒を取り出して構える。
彼女は凛とした声で宣言した。
「――ルナは私の家族だ!!指一本、触れさせはしない!!」
彼女が掲げた『六法全書』が眩く発光し、宙に舞った頁の一枚一枚が、燃え盛る業火となって空中展開される。
「『ファイアーウォール』展開!!」
文字が刻まれた頁による炎の壁が、襲い来るクローンたちを容赦なく焼き払う。
その圧倒的な守護の意志に、隣の蓮司が不敵に笑った。
「……フッ、あんたやっぱりいい女だ。AIにしとくのがもったいねえ……」
蓮司は両腕に力を込めた。空間を歪めるほどの漆黒の破壊エネルギー『破門』を腕に纏わせる。
「燕会は家族を見捨てねぇ。邪魔するなら、一匹残らず地獄へ送ってやるッ!!」
深層へダイブした者たち、橋を支える少女、そして背中を守る三人。
歓楽街の心臓部で、命懸けの救出作戦が始まった。




