第34話:爆轟
「……あんなもの……どうやって止めればいいのよ……。 こっちに来たらひとたまりもない。どうすれば……どうすればいいの!?」
ルナの悲鳴に近い叫びが響く。街そのものが立ち上がった巨像、『鉛天太子』。その圧倒的な質量が、太陽を遮るように影を落とす。……だが、その時。
「混沌としてきたね。終末ものに巨大ゴーレムなんて、B級映画でも聞いたことがないよ」
瓦礫の山を越えて、マスターとジュエルが平然と姿を現した。
「マスター……! あんた! 何しに来たのよ!」
ルナが腹を立てながら毒づくが、マスターは冷ややかな目で巨像を見上げるだけだ。
「悪いけど、今は君に構っている暇はないんだ。……ルビー、ボロボロのようだけど無事なようだね。モモが囚われているんだろ? 協力するよ」
「……マスター。ありがとうございます」
ルビーが小さく頷く。その傍らで、蓮司は戦慄していた。
(……まさか……コイツが……!?)
鵺代を殺した化け物の正体が、この少年だという確信が、冷たい汗となって背中を伝う。
「教官!? ……何で?……こんなやつと知り合いなんですか!?」
ルナが驚愕して問い詰めると、それまで無機質なほど落ち着いていたルビーの頬が、わずかに朱に染まった。
「……ええ。色々あったのよ」
ルビーは視線を泳がせ、どこか居心地が悪そうに自身の服の裾を弄る。その教官らしからぬ乙女のような仕草に、ルナは絶句した。
「ルナ、お子様には関係の無い話だ。もう少し恋愛経験を積んでから詮索したまえ」
「なっ……! うっ、うるさいわね! れっ、恋愛とか、関係ないでしょ!」
顔を真っ赤にするルナを余所に、マスターの瞳には冷徹な怒りが宿っている。その瞳で鉛色の巨人を見上げるマスターに対し、ルナは激を飛ばした。
「……そんなことより、あんた、あのデカいのをどうにかできるっていうの!?」
「ああ。……まあ見てなよ。ジュエル、こっちへ」
「はい。マスター」
ジュエルが静かに歩み寄り、マスターの首に手を回した。至近距離で見つめ合う二人。
刹那、誓いを立てるように二人の唇が重なった。
「ちょ、ちょっと! あんた達!何やってんのよ!!」
場違いな光景にルナが叫ぶ。だが、その声は劇的な変化にかき消された。
ジュエルの銀色の身体がドロリと液体金属化し、接点となった唇からマスターの全身を飲み込むように包み込んでいく。再構成された銀の波は、酸素ボンベ付きの重厚な耐火・耐圧スーツへと変貌した。
「――共同実験者、承認。ライセンスによる『衝撃判定ミュート』設定」
マスターが重厚なヘルメットの奥で、静かに呟き、各種設定を行う。
直後、彼の喉元にあるスピーカーから、ジュエルの透き通った声が、計器のような正確さで応答した。
『システム、オールグリーン。……マスター、酸素残量を確認。活動限界まで残り30分です』
マスターは一歩、巨像へと足を踏み出した。
「悪いけど、モモの件で僕は、かなり腹が立っているんだ。……ルナ、絶対にモモを助けろよ。いいな」
「……言われなくても、分かってるわよ!」
「頼んだぞ。……さて……この木偶の坊がッ!! 街ごと吹き飛ばしてやるよッ!!」
マスターが後方に両手を突き出す。
掌から生成された自己反応性物質が瞬時に化学反応を起こし、轟音と共に爆発した。
「ーー『超・爆弾男』だッ!!!」
ドカァァァァァァァンッ!! ドカァァァンッッ!!!
連続する大爆発。
マスターは両手で生成した爆発の反動を利用し、弾丸のように加速した。
そして、鉛天太子へ近づくと、生成物が爆発した瞬間に次の物質を生成し、熱風が冷める前に再び引火させ、爆発を繰り返していく。
爆炎を衣のように纏い、絶え間ない爆破で周囲を吹き飛ばし続けながら、巨像の足元へと肉薄していった。
「オラオラオラッ! 無敵状態だッ!! 邪魔なんだよ、お前も、この街もッ!!」
狂気すら孕んだマスターの突撃に、ルナたちは開いた口が塞がらない。
「……何、あれ……。ムチャクチャだわ……」
「……あいつ……ヤバすぎるだろ……街を吹き飛ばしまくってる……」
サブが呆然と呟き、蓮司はただ「……関わりたくねえ」と本気で顔を逸らした。
爆発の光に照らされ、鉛色の巨像の足首が、マスターの連鎖爆破によって抉れ、砕け始めていった。




