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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第27話:破門




「――燕散条つばめさんじょう


 蓮司の言葉と共に、彼の広げた手の隙間に、無数のドスが瞬時に実体化した。それは特別なドス『絶縁』ではない、燕会の構成員なら誰もが持つ、何の変哲もない鉄の礫。だが、その生成速度は異常だった。


「――燕頷投殺えんがんとうさつ


 蓮司が腕を振るうたびに、空気が悲鳴を上げる。生成、投擲、再生成。そのサイクルが速すぎて、蓮司の腕が何本にも増えているように錯覚するほどの銀光の嵐がワクとルナを襲った。


「くっ……!」


 ワクは警棒を振り回し、弾丸のごとき速度で飛来するドスを叩き落とす。自分への攻撃を凌ぎながら、背後のルナへ向かう刃を紙一重で弾き飛ばしていく。ルナもまた、ワクのカバーから漏れた死角からの投擲を、極限まで研ぎ澄まされた直感で回避し続けた。


「生成速度が速すぎる……! 演算が追いつかないほどに……っ」


「ハッ、驚くには早ぇぞ。……強い物を生成する必要はねぇ。ただのドス、それだけで十分だ。これが燕雀えんじゃくの戦い方よ」


 蓮司の言葉通り、それは贅肉を削ぎ落とした合理的な暴力だった。複雑な権能を練り上げる隙を相手に与えず、使い古されたイメージのみで具現化される鉄の雨。

 防戦一方で足が止まったワクを、蓮司の投擲がさらに追い詰める。退路を断たれ、ワクはたまらず大きく跳躍し、空中で身を交わした。


「――かかったな。飛んで火に入る、とはこのことだ」


 蓮司の口角が吊り上がる。体が宙に浮き、回避機動が制限されたその瞬間。


「――飛燕ひえん


 蓮司の姿が、一筋の黒い閃光と化した。

 滞空中のワクの懐へ、文字通り燕のごとき速度で突進する。その手には、漆黒の刃『絶縁』が握られている。


「ワク!! 防いで!!」


 ルナの叫びと同時に、ワクは空中で【伸縮式強襲用特殊警棒・雷電】を交差させ、盾とする。

 直後、『絶縁』の一撃による、凄まじい衝撃が炸裂した。


「が……ぁぁッ!!」


 大型鉄球が衝突したかのような衝撃。ワクの体は空中から力なく弾き飛ばされ、コンクリートの壁を粉砕しながら墜落した。


「ワク!!」


「死ね」


 蓮司は追撃の手を緩めず、残されたルナへ向けて、残忍な速度でドスを再生成し投擲する。


「――させるか!【異形化暴徒鎮圧用特殊兵装・防護盾】(ライオットシールド)!!」


 ルナの想起にエマが即座に応える。ルナの眼前に重厚なポリカーボネート製のシールドが実体化し、飛来するドスをガガガッ!と火花を散らしながら弾き返した。


「……ほう。盾か」


 蓮司が次の獲物を選ぼうとしたその時、瓦礫を跳ね除けて青い電光が爆発した。


「……まだだ!【異形化暴徒鎮圧用特殊兵装・防護盾雷電】(サンダーライオット)!!」


 壁から飛び出したワクは、表面に激しい高圧電流がのたうつ大盾を装着していた。


「おおおおおっ!!」


 ワクは盾を構え、文字通り電光石火の勢いで蓮司に突撃する。蓮司が間髪入れず投じたドスの群れを、電流を帯びた盾でことごとく弾き飛ばしながら、一気に間合いを詰める。


(このまま、シールドバッシュで叩き潰す!)


 ワクの放つ渾身の一撃。だが、蓮司は微塵も動じなかった。

 蓮司は漆黒のドス『絶縁』を閃かせ、盾の表面を撫でるように切りつけた。刹那、盾を覆っていた高圧電流が、まるで最初から存在しなかったかのように消失する。だがこれは想定内だ。


「よし!このまま沈めッ!!」


 ワクが盾に力を込め、衝突に身構える。

 しかし、直後に蓮司は引き絞っていた左拳を盾へと解き放った。


「――破門はもん!!」


 蓮司の宣言と共に、拳が放たれる。


 バキィィィィィン!!


 絶望的な破壊音が響いた。

 ワクが持つ防護盾は、蓮司の拳一つで、まるで薄い氷のように粉々にぶち抜かれたのだ。


「が、は……っ!?」


 衝撃は盾を突き抜け、ワクの胸部を直接する。

 ワクの体が再び後方へと吹き飛び、床を転がった。


「な、何なのあれ……!? 拳で盾をぶち抜くなんて……」


 ルナが戦慄する。物理法則を無視したその威力に、サブが震える声で答えた。


「『破門』……。燕会の組長に伝わる、身内の『縁』を強制的に剥奪し、組織の外へ叩き出すための処刑術。……あれはただの拳じゃねぇ。食らったものの『存在理由ルール』そのものを否定し、ぶっ飛ばして破壊する一撃なんだ……」


「存在理由を、否定する……?」


 蓮司は、盾を粉砕した左拳をゆっくりと開き、立ち込める煙の中から冷徹な瞳を覗かせた。

 底が知れない力の差。

 やはり、蓮司という男はあまりに強すぎた――。





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