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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第25話:怪物と怪物




 鵺代が『流儀:虎』を起動し、地割れと共に反撃を開始してから数分。

 屋外出入口前での死闘は、かつてない激しさを増していた。


「……ッ、しぶといですね!」


 ジュエルは巨大な銀の大槍を振り回し、猛虎の如き鵺代の突進を真っ向から受け止める。二人の衝突のたびに衝撃波が周囲の資材を粉砕するが、均衡を破ったのは鵺代の更なる「流儀」だった。


「……『流儀フォーム鳳凰フェニックス』」


 鵺代が低く呟くと、背中の刺青のうち、翼を広げた極彩色の鳥が赤く燃え上がるように発光した。彼の両拳に宿った極大の炎が、ジュエルの銀の大槍を捉える。


「な……!?」


 受け止めた大槍が、激突の瞬間にジュジュッと嫌な音を立てて蒸発していく。液体金属という性質上、高熱には弱い。ジュエルは即座に大槍を双剣へと分割、再構成した。リーチを捨て、回避と手数を優先した超高機動戦闘へと切り替える。


 炎を纏った鵺代の鉄拳が振るわれるたび、当たらずとも、熱波がジュエルの構成リソースを徐々に奪い取っていく。

 双剣を閃かせ、回避しながら鵺代の肉体を何度も切り刻むジュエルだが、鵺代は怯まない。

 傷口からリソースの火花を散らしながら、一歩も引かずに炎のパンチを繰り出し続ける。


(何故倒れない……!? このままだとジリ貧ですね)


 ジュエルの内心に、焦燥が走る。

 一見、不死身同士の戦いに見えるが、実情は異なっていた。

 ジュエルは衝撃を液化で逃がしているが、蒸発した液体金属は明確な自身のリソース消失。

 対する鵺代は、拳の炎で攻撃範囲を拡大させ、掠めるだけでジュエルを削り取っていく。


「……ッ、速い!」


 一瞬の隙。ジュエルが回避を試みるが、鳳凰の炎が彼女の側面を捉えた。


 ドォォォォォン!!


「ア、アァァ……ッ!!」


 激しい爆鳴と共に、ジュエルの身体の四分の一が消失した。地面に膝をつき、必死に失った部位を繋ぎ止めるジュエル。


「……これ以上は無駄だ。お前の負けだ」


 鵺代が静かに宣告する。だが、ジュエルは悔しげに唇を噛みながらも、消えかけた笑みで皮肉を返した。


「……最強の名は伊達じゃありませんね……。ですが、メイドに勤務時間は存在しません。最後まで、ご奉仕させていただきます」


 その時、通路の影から、退屈そうな、しかし場違いに明るい声が響いた。


「ごめんよジュエル。ちょっと遊び過ぎちゃったよ」


 黒マントを羽織った魔術師風の少年、マスターが現れた。


「マスター……。……遅いです。この屈強なヤクザに、分からせられてしまう所だったではありませんか」


「ジュエル、火炙りでのガチムチヤクザNTR展開って、情報量多すぎでしょ」


 先ほどまでの死に体。それが嘘だったかのように、マスターの登場だけでジュエルは軽口を叩く余裕を取り戻していた。


「……お前が、『爆轟の魔術師』か」


「ウチのジュエルと楽しそうなことしてるじゃないか。僕も仲間にいれてよ」


「……無駄だ。人間はAIに勝てない」


「確かにね。演算、推論、人間では絶対に勝てない。でもこれは戦いなんだ。脳筋の君には分からないかもしれないけれど……絶対とは限らないんだよ」


「……フンッ!」


 鵺代が爆発的な踏み込みで接近し、至近距離から炎のパンチを叩き込む。だが、マスターが右手を前に出した瞬間――鵺代の目の前で、凄まじい爆発が起きた。


「グ、ア……ッ!?」


 鵺代の巨躯が、衝撃で後方へと吹き飛ばされる。


 ここは『ゴールデンプレジャー』。

 本来、自身への衝撃を無効化する「ミュート」は使えないはずのエリア。

 にもかかわらず、至近距離で爆発を起こしても無傷なマスターの存在は、明らかにシステムのルールを逸脱していた。


「……爆発!? 何故?」


「気合と根性だよ(笑)」


 眼鏡の奥でマスターは不気味に笑う。

 決着の舞台は、予測不能の混沌へと加速していく。





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