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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第24話:怪物との対峙




 地下格闘場の屋外出入口。

 歓楽街のほぼ中央に位置するその場所に、鵺代は立っていた。

 黒いスーツに身を包んだ巨躯は、動かざる山の如き威圧感を放っている。彼はただ、出入口を守る門番としてそこに静止していた。


 その静寂を、硬質な靴音が乱した。

 美しい銀髪とメイド服を揺らしながら、一人の女性が静かに微笑む。


「やっと一人になりましたね。『キマイラタトゥー』鵺代」


 その無機質な瞳が、巨躯の男を射抜いた。

 鵺代はゆっくりと両拳を固める。


「……『銀のジュエル』か」


 重く、地響きのような声が一度だけ漏れる。


「あなたに恨みはありませんが、消去させていただきます」


 ジュエルの右腕から、自身の身長を遥かに超える巨大な銀の大槍が生成、出現した。

 彼女の定義は液体金属生命体。

 余剰の液体金属エーテルを用いて自在に生成されるその大槍は、並の相手なら掠めるだけで体が消し飛ぶ暴力的な質量の塊だ。


「私の得物はこの大槍です。『キマイラタトゥー』、あなたの武器は何……」


 ジュエルは会話の途中で体を独楽のように回転させ、間合い外の鵺代に届くように柄の長さを伸ばしながら、高速の凪払いを放った。


 ドォォォォォン!!


 轟音と共に、鵺代の巨躯がわずかに動く。彼は大槍の直撃をその太い右腕一本で受け止めていた。

 槍の衝撃と鵺代の筋肉の隆起により耐えかねた上半身のスーツ生地が悲鳴を上げて破裂し、鍛え抜かれた鋼の肉体が露わになる。その背には、様々な猛獣の紋様が幾重にも重なり合った奇怪な刺青が鈍い光を放っていた。


「フン……」


 鵺代は腕で振り払い、巨大な槍を力任せにはね除ける。


「アハッ。太くて、硬いんですね」


 対するジュエルは、ゾクりとするような嗜虐的な笑みを浮かべた。


「激しい動きなら、どうですか?」


 ジュエルが踏み込む。

 大槍が閃光のような速度で突き出され、鋭い連続突きが鵺代を襲う。鵺代は最小限の動きでそれを腕で捌き、あるいは紙一重でかわしていく。搬入口の壁や床が槍の余波で次々と削り取られていくが、鵺代の瞳は冷静にジュエルの動きを捉え続けていた。


「ほら、逝ってしまいますよ!」


 ジュエルが大きく跳躍し、大槍を両手で天高く振り上げた。そのまま重力と質量を乗せ、鵺代の頭上へ向けて一気に叩きつけようとする。

鵺代は逃げず、両腕を交差させた十字受けの構えをとった。


「……獲った」


 ジュエルが小さく呟く。

 激突の直前、鵺代の眼前で銀の大槍がドロリと形を失った。液化したエーテルは瞬時に鵺代の腕をすり抜け、彼を挟み込むような巨大な銀の大鋏へと再構成される。


「逝くの、案外早かったですね」


 ギィィィン!という耳を劈く音と共に、巨大な刃が鵺代の胴体を左右から激しく挟み込んだ。

 鋭利な刃が鵺代の脇腹に深く食い込み、リソースが火花となって散る。だが――刃の侵攻は、彼の骨に達する手前で、まるで鋼鉄の壁に阻まれたかのようにピタリと止まった。


「……ぬんっ!」


 鵺代は挟まれたまま、渾身の力で右ストレートを放った。

 「ドッ!!」という重低音と共に、ジュエルの右肩から先が構成リソースごと粉砕され、霧となって消失する。


「……ッ!」


 ジュエルはハサミを手放し、弾かれたように後方へ距離を取った。地面に落ちた巨大なハサミは、主との接続を失い、ドロドロとした銀色の水溜まりへと戻っていく。

 ジュエルは欠損した右肩を見つめたが、すぐさま切り口から液体金属が溢れ出し、瞬時に元のしなやかな腕を再生させた。


 それを見た鵺代が、低く呟く。


「……お前も……不死身か」


「不思議ですね? 効いていない訳ではなさそうですが……。では、これならどうです?」


 鵺代が気づいた時には、すでに足元は銀色の液体金属に囲まれていた。先ほど地面に落ちたハサミが融解し、彼の周囲を包囲する銀の水溜まりと化していたのだ。


「……逝け」


 ジュエルの声が響くと同時に、銀の水溜まりが変化した。

 「シュパッ!」という鋭い音と共に、数十本の銀の槍が、足元から鵺代に向かって突き出した。

 逃げ場はない。

 無数の鋭利な刃は、鵺代の太腿、脇腹、肩、そして背中を容赦なく貫く。


「……ガ、ッ……」


 鵺代の口から、わずかな苦悶が漏れる。

 四方八方から肉体を固定された姿は、まるで祭壇に捧げられた生贄のようだった。貫かれた部位から電磁火花とリソースが激しく噴き出し、鵺代の体が赤黒く染まっていく。


 ジュエルは汚れ一つないメイド服の裾を整え、ゆっくりと串刺しになった鵺代へ歩み寄った。彼女の瞳には、勝利の確信に伴う冷ややかな悦びが宿っている。


 ジュエルは鵺代に対し、優雅に一礼をした。







 ……だが。


 静寂の中で、鵺代の背中に彫られた奇怪な刺青の中の虎が、不気味に青白く光だした。


「……『流儀フォームタイガー』」


 鵺代の喉奥から、重く激しい唸り声が響く。


「グオオオオォォォォォオオッッ!!!」


 その咆哮は、ただの音ではなかった。


 それは、内側から爆発するような衝撃波となって周囲に放たれ、鵺代を貫いていた数十本の銀の槍が、金属疲労を起こしたかのように次々と粉々に砕け散る!


 ガシャアアアアアン!!


「……なッ!?」


 砕け散った槍の破片が降り注ぐ中、鵺代の巨体が重く地面に着地した。

 彼は咆哮を上げながら、片足を天高く振り上げた後、アスファルトを砕くほどの勢いで、ダンッ!と力強く四股を踏みつけた。


 ズズズズズズズズズズズ!!


 その瞬間、地下格闘場前は激しく震動し、鵺代を中心に広範囲に渡ってアスファルトが深く裂け、巨大な地割れが発生する!


「……なんて……激しいッ……!?」


 ジュエルはバランスを崩し、その華奢な体が激しくぐらつく。

 地割れを蹴立て、猛虎の如き速さで肉薄する鵺代。

 その背に浮かぶ虎の刺青は、青白い閃光となり、静止画のような世界を暴力という名の色彩で塗り替えていく。


 理を力でねじ伏せんとする地上の死闘。

 二人の戦いは、かつてない激しさの中へと飲み込まれていった――。






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