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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第21話:制裁



 ルビーが蓮司達に連行されてしまった。


「教官……私のせいで……」


 潜入先の自室で、ルナは暗闇の中にうずくまっていた。エマやワクからの慰めの声も、今の彼女には届かない。自分たちの軽率な報告が、最愛の恩師を地獄へ売り飛ばした。その罪悪感が、底なしの沼のように彼女を飲み込んでいく。

 その時だった。


「……っ!? あ、あぁっ……!」


 ルナの心臓が、焼けるような熱を帯びて跳ねた。

 鼓動が、自分の意志とは無関係な外部の律動に上書きされていく。


『警告。ルナ様、バイタルサインが外部プロトコルにより強制上書きされています。これは……「杯血判」による強制召喚です。拒絶不可能です』


 エマの悲鳴のような警告が響く。ルナの脚が、まるで見えない糸で吊るされた操り人形のように、勝手に動き出した。隣を見ると、常に冷静なワクまでもが、歯を食いしばりながら、抗えない力に引きずられるように歩き出している。


「体が……勝手に……ワク、止めて……!」


「ダメだ、ルナ……。この『契約』の力は、物理的な干渉を越えている……!」


 二人の意思を嘲笑うように、足取りは迷いなく夜の街を抜け、あの場所へと向かう。







――地下格闘場『ネスト』。

 観客のいない、静まり返った円形闘技場。

 二人の体はその中心へと強制的に移動させられた。


 そこに待ち構えていたのは二つの影。

 一人は、王者の如くパイプ椅子に深く腰掛けた蓮司。彼は上半身が裸の状態であり、背中に入った刺青の中心には、一羽の燕が陣取っている。

 本来なら小さく、ただ風に舞うだけの弱き鳥。しかし、蓮司の背で羽を広げるその影は、周囲のすべてを圧するほどに巨大で、漆黒の光沢を放っている。

 その鋭い爪が深く食い込んでいるのは、白く巨大な翼を持つはずの鴻鵠こうこく

 天を支配するはずの大鳥は、この小さな燕の前で、あまりにも無力に、あまりにも惨めに地に伏せられていた。

 構図はあからさまに歪んでいる。燕の体躯が鴻鵠を凌駕し、その喉元を無慈悲に踏みつぶしているのだ。そこに刻まれているのは、自然の摂理ではない。「持たざる者が、持てる者を地に引き摺り下ろす」という、美しくも禍々しい、絶対的な下克上の意志だった。


 そしてもう一人は、昨日、サブと行動を共にしていたリンだった。彼女は自らの身を抱えながら、蓮司の正面に震えて立つ。




「揃ったな、始めようか」


 蓮司の声は、驚くほど静かだった。それが逆に、逃げ場のない地下格闘場の冷気を際立たせる。

 彼はリングの中央で、這いつくばるルナとワクを見下ろした。


「サブを売ったのは、ルナ、ワク。……お前らか?」


「ち、違うわ……私たちは、そんなこと……!」


 ルナは震えながら声を絞り出した。

 ルナとワクは、尋常じゃない蓮司の圧力に気圧される。


「そうか。なら、リン。お前か?」


 矛先を向けられたリンが、肩を大きく跳ねさせる。


「ち、違います……! 蓮司さん、私は……!」


「全員違うのなら、誰かが嘘をついていることになるな。俺は家族を裏切る奴は許さねぇ」


 蓮司は無造作に、漆黒のドス『絶縁』を抜き放った。


「リン、こちらへ来い。……手を出せ」


「っ……、ぁ……」


 蛇に睨まれた蛙のように、リンは震えながら、拒むこともできず蓮司の前へ移動した。

 細い右手を前に伸ばして差し出す。


 その瞬間、蓮司の手元が閃いた。


「――『絶縁』」


 刃がリンの小指を通過する。

 物理的な切断は起きていない。指はまだ、彼女の手に繋がっている。だが、その瞬間にリンの口から飛び出したのは、この世のものとは思えない絶叫だった。


「あ、ああああああああああああっ!!!」


 刃が通った付け根から先端まで、指の『えにし』が完全に断たれたのだ。

 肉体は繋がっていても、魂と神経において、その指は「失われた」と定義される。

 実際に指を切り落とされた時と全く同じ――いや、脳が「存在しない痛み」を補完するために増幅させた、激烈な幻肢痛がリンを襲う。


「……エンコ詰めだ」


 蓮司は冷酷に、のたうち回るリンを見下ろした。




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