第18話:曲者
白昼の光を反射する銀髪。完璧な仕立てのメイド服を纏ったその女性は、周囲の喧騒から切り離されたかのように、静かにカップを傾けていた。
「ジュエル……」
ルナの声にも、彼女は眉一つ動かさない。ただ、冷ややかな瞳をわずかに伏せただけだ。
「……あら、ルナにワク。こんなところで会うなんて、エデンを放り出されて風俗嬢にでも身を落としたのかしら?かわいそうに」
「うるさいッ!そんなんじゃないわよ!あんたこそ、ここで何してんの!?」
「見て分かりませんか?私は今お茶を楽しんでいるだけです。あなたたちと戦うつもりはありません。……ここはカフェですから」
ジュエルは至極当然のことのように言い放ち、ティーカップの縁をなぞった。
「しらばくれないで。マスターはどこ? こんなところにあなたを一人で置くはずがないわ」
「マスターは遊びに行かれました。……ここは歓楽街ですから」
「……っ」
あまりにも食えない返答に、ルナは拳を握りしめた。だが、聞かなければならないことは山ほどある。ルナは、かつてヒナコが異形化した時の、バックルームへと落とされた時のことを思い出していた。
「……答えなさいジュエル。あの時、私を沼に引きずり込んで、バックルームへ送ったのはあなたね? それに、ヤリスとの戦いの時に介入した、あの『大槍』も……。あなたは一体、何が目的なの?」
ルナの追及に、ジュエルは初めてカップを置き、無機質な微笑を浮かべた。
「どうでもいいことは忘れる性質なんです。それに、もし覚えていたとしても、あなたに教える必要はありませんよね? ……それより、いいんですか? あそこにいるスーツ姿の男」
ジュエルの視線の先、一人の男が足早に通り過ぎていった。その足取りは不自然に早く、キョロキョロと周囲を確認しながら歩いている。
「……目が、青く光ってますけど」
「……えっ!?」
エマに頼み、即座に男の顔をスキャンする。男が瞬きをした一瞬、その瞳の奥に、吸い込まれるようなサファイア色の燐光が灯っていた。
『ルナ様、瞳孔の異常収縮を確認。脳内報酬系に未知のパッチが当たっています。サファイア・アイズの初期段階と推認。……暴走前です。今なら足取りを追えます』
エマの冷静な分析が飛ぶ。初期段階なら、男の向かう先に売人がいる可能性が高い。
「ルナ!追いかけるぞ!」
「くッ……。ジュエル、話は後だわ!」
ルナ達は、ジュエルに背を向け男を追いかけた。
「お仕事、頑張ってくださいね」
背後で聞こえるジュエルの冷ややかなエールを無視し、ルナとワクは男の背中を追って雑踏へと飛び出した。




