第17話:予期せぬ出会い
日中のゴールデンプレジャーは、夜の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
煌びやかなネオンの光は存在せず、空は現実よりも少しだけ彩度の高い青色をしている。
「ルナお姉ちゃん、ワクちゃん。休みにごめんね。今日中に外地の貸金業者に返済しないといけないの」
ルナとワクは、銀行へ向かうリンの付き添いとして歩いていた。ゴールデンプレジャーから外地へ仮想通貨を送金するためには、マネーロンダリング防止のために、必ず正規の金融機関を通さなければならない。
これも、歓楽街許認可管理局が定めたものだ。
リンからお願いされたのはルナとワクだ。だがそこには、誰も頼んでいないのに、なぜか鼻歌交じりにサブがついてきている。
「……ねえ兄貴、昨日の酒が抜けてないでしょ?寝てればいいのに」
「つれねぇこと言うなよルナちゃん! リンちゃんが一人で大金持って歩くんだ、男手があった方が安心だろ? ほらリンちゃん、重いもんあったら俺が持つぜ!」
「あ、ありがとうございますサブさん……(何も持ってないけど)」
苦笑いするリンを尻目に、サブは教育係を気取って周囲を見渡した。道端のバグったテクスチャや、昨夜の乱闘で壊れた壁が、まるで生き物のように蠢き、ゆっくりと滑らかに修復されている。
「凄いわね、街が自分で治ってる……」
ルナが感心したように呟くと、サブは待ってましたと言わぬばかりに胸を張った。
「ヘッ、これが先代の遺産、ゴールデンプレジャーの底力よ。街の入口にある『羅生門』の真下にシステムコアがあってな、そこから修復プログラムが自動で流れてるのさ。いちいち業者の手なんて借りねぇんだよ」
サブは羅生門の方角を指差し、声を低めた。
「昔、管理局がここを奪いに来た時……先代は、たった一人であの門の前に立ちふさがった。降り注ぐ弾丸の中、一歩も引かずに敵をなぎ倒すその姿は、まるで地獄から来た阿修羅だったぜ」
先代の英雄譚を聞きながら、ルナの脳裏には、昨夜見た蓮司の横顔が重なった。
だが、その感慨を遮るように、エマの警告音が鳴り響く。
『ルナ様、前方200メートル、カフェの屋外テラスに、既知の極めて高出力なリソースを検知。……ジュエルです』
「……っ!?」
ルナが視線を向けると、そこには優雅に足を組み、一人でお茶を楽しんでいる銀髪のメイド服姿の美女がいた。あのマスターの懐刀。そんな存在が、なぜ一人で歓楽街にいるのか。
「……兄貴、リンを任せたわ。少し、気になる知り合いを見つけたの」
「え? おい、ルナ!?」
ルナは困惑するサブに返事もせず、ワクに目配せをしてその場を離れた。
ルナとワクは、喧騒の消えたカフェのテラス席へと近づいていった。




