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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


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第16話:巣の暖かさ




 夜の『桃源郷』。

 ここはモモが仕切る複合型風俗店舗であり、店舗内には華やかなキャバクラ店も存在する。   

 流れてきた女たちに接客術を教え、自立させる場所。

 ルナがモモの下へ来てからは、このキャバクラ店を中心に用心棒として働くこととなり、今日でもう一週間となる。


 リンは、新人ではあるが、笑顔を絶やさず慣れない手つきで懸命に接客する。その姿が、男性客の庇護欲を掻き立てるのか、意外と皆から愛される人気の嬢の一人であった。

 そこへ、店の入り口が騒がしくなる。


「……若! お疲れ様です!」


 黒服たちが一斉に頭を下げる中、現れたのは蓮司だった。傍らには鵺代、そして数名の組員たちが、いかつい肩を並べて歩いてくる。


「今日は身内だけの飲みだ。……リン、こっちへ来い。指名だ」


 蓮司は無造作にソファーへ腰を下ろすと、リンを呼び寄せた。彼はこうして定期的に、新人の嬢に売上が入るよう、仲間を連れてお忍びで飲みに来るのだ。強引で傲岸不遜だが、その家族への配慮は徹底していた。


「ありがとうございます、蓮司さん! 一生懸命作ります!」


 リンが嬉しそうにグラスを差し出す。その和やかな光景を、用心棒として配置されたサブ、ワク、ルナが店の隅で見ていたが、ルナだけは仏頂面をしていた。


 ふと、蓮司の視線が、用心棒として立つ深紅のドレス姿のルナへと移動した。


「……おい、ルナ。さっきから思ってたけどよ」


「…………」


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、蓮司は持っていたグラスをテーブルに置き、手で顔を覆って吹き出した。


「……っ、クハッ! ……ハハハハハ! 何だそれは、ルナ! 用心棒として雇ったはずが、いつからここの看板嬢になったんだ?」


「……笑わないで。モモさんに、これがここの制服だって言われたのよ」


 ルナは真っ赤になりながら、スリットから覗く脚を隠そうとするが、蓮司の笑いは止まらない。


「お前ら見ろよ、あんな険しい顔で武器を携えてるキャバ嬢、見たことねぇぞ。……いや、案外似合っているのが余計に腹立たしいな。おいサブ、お前の差し金か?」


「い、いえ! 俺は止めたんですけど、モモさんが『素材がいい』って……」


 サブが慌てて弁明する中、鵺代だけは無表情でルナを見つめた後、目線を外し静かに笑った。


「……フフ」


「なに笑ってんのよ! ……もう、次笑ったら、このヒールで顔を踏み抜いてやるから」


 ルナの精一杯の毒づきに、組員たちからもドッと笑いが起きる。

 燕会という組織が持つ、奇妙なほど温かい家族の空気。



「おい、ルナ、ワク。……お前らもそこに座れ」


「え? でも、私たちは」


「いいから座れ。……仕事中だから酒は出さねぇがな。用心棒の仕事には慣れたか?」


 ルナはドレスの裾を気にしながら、ワクと共に蓮司の対面のソファーへ腰を下ろした。蓮司は背もたれに深く体重を預け、天井のシャンデリアを睨むように目を細める。


「燕会の用心棒として働くなら、この街の成り立ちを知っておけ。……この『ゴールデンプレジャー』は、俺の親父……先代が作った街だ」


 蓮司の声が低く響く。

 かつてエデン国が設立された当初、国主体でVR上の巨大な歓楽街を作るプロジェクトが立ち上がった。だが、所詮は役人の作る娯楽。エデン産の清潔で退屈な遊びでは、人々の欲望を、そして外地の熱量を満たすことはできなかったのだ。


「親父たちは、VR事業をいち早く取り入れていた。エデンから資本を引き出し、行き場のない奴らを集めて一からこの街を組み上げたんだ。……だが、街が回り始め、莫大な利益を生むようになると、エデンの連中は手のひらを返した」


 蓮司の手が、グラスを強く握りしめる。


「エデンが設置した『歓楽街許認可管理局』による、一斉取り締まりという名目の事業乗っ取りだ。……親父たちは戦った。エデンという巨大なシステムを相手に、この街の住人全員でな。……結局、街を勝ち取った代償に、親父は死んだ」


 ルナは息を呑んだ。管理局の記録には「不法占拠組織の排除における不慮の事故」としか記されていない事件。だが、ここにあるのは剥き出しの生存闘争の記憶だ。


「今の管理局局長ルビーは、モモの知り合いでもあるし、まだ融通が利く奴だとは聞いている。だがな、お前ら……エデンという国そのものは絶対に信用するな。あいつらは隙あらば俺たちの『家族』を奪い、管理下に置こうとする。……注意しておけ」


「……わかったわ」


 ルナは短く答えた。


 目の前にいる蓮司は、エデンを揺るがすテロリストなどではなく、父から受け継いだ家族の居場所を必死に守り抜こうとする守護者に見えた。







「ルナお姉ちゃん。お仕事お疲れ様、また明日ね」


 リンの声を受け、自室に戻ったルナは、鏡の中の自分を見つめ、かつてない迷いに沈んでいた。


『ルナ、バイタルに混乱が見られます。蓮司の語った歴史は、管理局の公式記録と著しく乖離しています』


「エマ、……どっちが本当なの? もし蓮司の言う通りなら、エデンは……」


 平和の象徴であるはずのエデンが、実は略奪者であった可能性。

 そんな人が、依存者を生むサファイア・アイズを流すのか……?

 ルナの胸に、管理局への疑惑と、蓮司へのシンパシーが重くのしかかっていた。


「もしも彼が白なら……サファイア・アイズは……一体誰が流しているっていうの……?」





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