第14話:実態
ワクはルナと別れ、サブから仕事内容の詳細な説明を受けにいった。
一方のルナは、ロビーでモモと話を続ける。
「フフフ……ごめんなさい、あの子からの伝言を読み違えていたみたい」
ひとしきり笑った後、モモは丁寧に頭を下げた。
「あなたも用心棒としてここに来たのね。いいわ、この桃源郷をあなたたちの活動拠点として使って頂戴。この街の情報も、ここなら自然に集まってくるから」
「……分かってくれたならいいんです。それでモモさん、この服は……着替えてもいいんですよね?」
ルナが期待を込めて尋ねるが、モモはルナの艶やかなドレス姿を上から下まで眺め、悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、脱いじゃうの? 似合ってるからいいじゃない、そのままで。お客様に不快感を与えないように店の雰囲気に馴染むのも大切でしょ?」
「うっ……!?」
正論に返す言葉が無くなるルナを横目に、モモは廊下を歩いていた一人の少女を呼び止めた。
「リン、ちょっとおいで。新しい仲間よ」
現れたのは、ルナよりも少し年下に見える、あどけない表情の少女だった。
「初めまして! リンです! ルナさん……ですよね? 凄く綺麗……本物のモデルさんみたいです!」
リンは目を輝かせてルナの手を握った。その屈託のない笑顔に、ルナは毒気を抜かれてしまう。
その後、ルナはリンに案内され、店内の見学を兼ねてこの区画を歩くことになった。
意外だったのは、風俗街であるにもかかわらず、そこには陰惨な空気が微塵もなかったことだ。
「ここは燕会が厳しく管理してるんです。無理やり働かされる子なんて一人もいないし、みんなちゃんと適正な報酬をもらってるの。お給料は仮想通貨で即日払いなんですよ!」
リンは誇らしげに語る。
「私……小さい頃に親に捨てられて、外地でホームレスとしてゴミ捨て場で死にかけてたところを蓮司さんたちに拾ってもらったの。燕会の組員のほとんどが、私と同じような境遇なんです。血は繋がってないけど、みんな本当の『家族』だと思ってます」
「……蓮司が、あなたを?」
「はい! 蓮司さんは怖いけど、誰よりも家族を大事にしてくれる。燕会は他のヤクザとは違うんです。私たちみたいな、どこにも居場所がない人間を助けてくれる場所なんです」
リンの話を聞きながら、ルナは混乱していた。
管理局のデータベースでは、燕会は「秩序を乱す反社会的勢力」であり、蓮司は「危険なテロリスト」だ。だが、目の前の少女を救い、居場所を与えているのは紛れもなく彼らなのだ。
(……どういうことなの?)
ルナの胸に、小さな波紋が広がる。
その時、リンがふと思い出したように声を潜めた。
「あ、そうだ。ルナさん……もし『青く光る瞳』の子がいたら、すぐにモモさんに報告してくださいね」
リンがふと思い出したように、声を潜めた。
その瞳には、先ほどまでの快活な輝きとは違う、本物の怯えが混じっている。
「最近、急に様子がおかしくなって、そのまま消えちゃう子がいるんです。……サファイア・アイズっていう不気味な薬の噂があるんです。あれに手を出したら目が青くなって、そして、もう『家族』じゃいられなくなるって……」
リンを部屋まで送り届けた後、ルナはドレスの裾を翻し、一人静かな廊下で立ち止まった。
脳内では、エマが冷徹に状況を整理し始める。
『……リンの証言は、管理局のデータと一部矛盾します。管理局の推測では、サファイア・アイズは燕会が流しているはず。ですが、彼女の言葉が真実なら……』
「……燕会は、自分たちの『家族』を壊すような毒を、自ら流しているっていうの?」
ルナは胸元に手を当てた。そこには蓮司と交わした『盃血判』の誓約が、微かな熱を持って存在している。
「それとも、蓮司は……リンたちに見せている顔とは別の、冷酷な犯罪者としての顔を持っているの?」
自らに問いかける言葉は、夜の帳が下りるゴールデンプレジャーの喧騒に飲み込まれていった。
正すべきはずの悪と救われている弱者。正義の境界線は、青い麻薬の霧によって霞んでいく。




