第13話:桃源郷
「……ここが、モモさんの店だ」
サブが案内したのは、燕会が管理する風俗街区画『桃色通り』の最奥。そこには、頽廃的なネオンの中で一際上品な構えを見せる複合型風俗店舗『桃源郷』があった。
ここは、歓楽街に流れ着いた女たちが辿り着く場所であり、その主であるモモは、彼女たちに「生きるための術」を教え込む、街の聖母にして顔役だ。
「あら、サブちゃん。蓮司から連絡は受けているわよ。……この子が、新しくうちへ来る子ね?」
店の奥から現れたモモは、薄桃色シニヨンヘアの若い美女だった。
服装は、マゼンタと漆黒の透かし彫りチャイナ・ノワール。胸に赤い球体コアが存在し、胸元は、コアを際立たせるように、雫型に大きく開いている。襟元から肩にかけては黒いレースの透かし彫りとなっており、雪のような白い肌が覗いていた。
更に下半身は、腰のラインにまで届くスリットが左右深くに入っており、歩くたびにガーターベルトがチラ見えする。男であれば目にするだけで欲情してしまう。
官能的な姿をしたモモの瞳は、ルナを値踏みするように見つめている。
「ええ、若の直々の預かりもんです。ルナとワクをよろしくお願いします!」
「……今日からお世話になります。ルナです。何でもやるわ」
「……ワクだ。よろしく頼む」
モモはそれを聞いて満足げに目を細めた。
「いい返事ね。蓮司も粋なことをするわ。……これほど純真で『強い』子を私に寄越すなんて。ルナちゃん、あなた、そのパーカーの下には、とてつもなく強いリソースが眠っているわね?」
「え、ええ……。まあ、普通の人よりは、自信あるわ」
「フフ、頼もしいわルナちゃん。男の子たちはここで待たせておいて、あなたは私と奥の『特別室』へ来なさい。……まずはその、見るに堪えないパーカーを脱ぎ捨てて、新しい自分に出会う準備をしましょうか」
「……?」
◇◇◇
「じゃあルナちゃん、まずはその服を脱いでちょうだい。採寸と、あなたの『特性』をチェックさせてもらうわね」
案内されたのは、甘い香りの漂う奥の個室。
モモはルナを大きな鏡の前に立たせると、一切の躊躇なく彼女のパーカーに手をかけた。
「ちょっと、モモさん!? 自分で脱げるわよ!」
「ダメよ、これは『教育』の一環なんだから。力の抜き方、肌の質感……すべてが武器になるのよ」
モモの手が、ルナの肩から背中へと滑る。
その指先は驚くほど繊細で、触れられた場所が熱を帯びるような、特殊な電子振動を伴っていた。
「……っ、モモさん、そこはっ……!」
「あら、耳が弱いのね。可愛いわ。……それにしても、素晴らしいわルナちゃん。この腰のライン、そしてこの胸元……。あなたは、自分がどれだけ破壊的な武器を持っているか分かっていないのね」
モモは背後からルナを抱きしめるように密着し、耳元で熱い吐息を漏らす。
ルナの意識が、モモの放つ官能的な波動、「癒しの権能」により、快楽で意識が朦朧としてくる。
『……ルナ様、警告します。心拍数および体温の急上昇。このままでは……開発される恐れがありますね』
エマの冷静な、けれど、どこか楽しげな警告が脳内に響く。
「さぁ、次は足の開き方。……蓮司の期待に応えたいんでしょ? だったら、私の言うことを全部聞いて」
「あ、ああ……(これが、燕会の洗礼なの!?)」
三十分後。
ロビーで出された高級な合成茶をすすりながら、サブとワクは手持ち無沙汰に待っていた。
その時、重厚なカーテンがゆっくりと開く。
「お待たせ。……最高の一輪が仕上がったわよ」
モモの誇らしげな声と共に現れたのは、これまでの「無骨な家出人」とは似ても似つかぬ、ルナの姿だった。
漆黒のシルクをベースに、深紅のレースをあしらった、ボディラインを極限まで強調したイブニングドレス。背中は大胆に開かれ、太ももまで深く入ったスリットからは、ルナの白くしなやかな脚が覗いている。
「…………」
「…………」
サブは持っていた湯呑みを床に落とし、口をあんぐりと開けた。
ワクは、まじまじとその「装備」をスキャンし、一言。
「……ルナ、その『低すぎる防御力』と『機動性を無視したヒール』で、どうやって護衛するつもりだ? 明らかに戦闘効率が低下しているぞ」
ドレスの裾を気にしながら、顔を真っ赤にしたルナが、震える拳を握りしめて叫んだ。
「私に聞かないでよ! 『これがこの世界の戦う女の正装よ』って、有無を言わさず着せられたんだから! ……エマ!何でアンタも笑ってんのよ!?」
『……申し訳ありませんルナ様。あまりの適合率に、視覚データの保存を優先していました。とても……お似合いですよ』
「エマ、からかってるでしょ! モモさん、これ本当に戦うための服なの!?」
「ええ、そうよ。社交場において、これ以上の武装はないわ」
モモは自信満々に微笑んだ。




