表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~幸福な王子編~  作者: バニラ味一択


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/39

第9話:潜入




 歓楽街許認可管理局の局長室。ルナは制服ではなく、古いパーカーを着用した私服姿で局長のルビーと対峙していた。


「……いいわね、ルナ。顔が割れている私たちの代わりにお願いしたいの。あなたの任務は、ゴールデンプレジャーを支配する組織『燕会』の内情調査、そして、組員による麻薬『サファイア・アイズ』の売買証拠特定。……ただし、絶対にエデン側(管理局)の人間だと悟られてはならないわ」


「わかっています。私たちは今から、ただの外地出身の家出人」


「ええ。ワクの定義も、偽装が行える『潜入捜査』に設定してあるわね?……行きなさい。あそこはエデンの法が届かない場所。……大丈夫、今のあなたたちならできるわ」




◇◇◇




 黄金の歓楽街ゴールデンプレジャー

 エデンの管理サーバー外で隠れるように存在するその街は、汚濁したネオンと紫煙、そして頽廃的なリソースの香りに満ちていた。


 ルナは、着古したオーバーサイズのパーカーを深く被り、その隣にはボロ布を纏った犬型亜人の少年――偽装を施された自律AIデータ生命体・ワクが歩いている。

 二人はどこからどう見ても、VR世界での成功を夢を見て流れ着き、現実の厳しさに叩きのめされた貧しいプレイヤーとパートナーそのものだった。


「……さて、入ったはいいけど。ワク、エマ、どう動くべきだと思う?」


 路地裏の安酒場。ルナは薄暗いカウンターで、安っぽい合成酒を前に囁いた。


『まずは情報の収集が必要です。ですが、ここの住人は部外者への警戒心が強い……不用意な接触は避けるべきかと』


 脳内リンクから響くエマの冷静な声。ワクは「その通りだ」とエマに同意し、背後の警戒を続けていた。


「わかってるわよ。揉め事は絶対にダメ。目立たず、慎重に……ね」


 自分に言い聞かせるように呟いた、その時だった。

 酒場の奥で、派手な破裂音と、少女の悲鳴が上がった。


「あ、あわわ……申し訳ありません、すぐに拭きますから!」


「謝って済むかよ! このジャケット、どれだけのリソースを積んで『洗浄クリーン』したと思ってるんだ!」


 見ればまだ、十代前半に見える幼い少女店員が、ガラの悪い酔っ払い客の男に胸ぐらを掴み上げられていた。男の足元には割れたグラスが散らばっている。男は顔を真っ赤にし、空いた方の拳を振り上げた。


「……ワク、エマ。揉め事はダメだって言われてるけど……あのままだと、あの子の顔の形が変わるわ」


『……ルナ様、今のあなたは潜入捜査官です。関与は――』


「ごめん。やっぱ無理」


 男の拳が少女に振り下ろされようとした瞬間、ルナの身体が弾かれた。


「――そこまでにしなさい」


「あぁ!? なんだてめぇ、外地のガキが――ぶっ!?」


 ルナは一切の無駄なく、男の腕を絡め取り、関節を極めて一瞬で床に叩き伏せた。警察逮捕術の基本だ。ルナの一撃は、巨漢の男を紙切れのように無力化する。


「これに懲りたら二度としないことね。……ほら、帰りなさい」


 ルナは男の拘束を解き、席へと戻ろうとした。


「……っ、この野郎……死ねぇ!」


 男が逆上し、懐から隠し持っていた刃物を取り出し、ルナに切りかかろうとする。だが、それよりも早く、横から小さな「影」が割り込み、男の腕を軽々と掴んで固定した。


「これ以上はやめておけ。……無意味だ」


 ワクが、いつもの落ち着いたトーンで男を制止する。見た目は少年だが、その握力は男の骨を軋ませるほどに圧倒的だった。


『……あーあ。二人して首を突っ込んで。潜入捜査の意味、理解しています?』


 エマの呆れ果てた声が響く中、酒場の入り口から、ひょろりとした体格の男が、肩をいかつく揺らしながら入ってきた。


「おいおいおい! 俺のナワバリで派手にやってんじゃねぇか!」


 黒いタンクトップ姿に、安っぽい金のネックレス。威勢はいいが、どこか細っこくて頼りない――燕会の末端、サブである。


「……あ、燕会のサブさんだ!」


 住民から「サブちゃん」と親しまれている彼は、床に転がる男を一瞥すると、腰に下げた護身用の棒(見た目ほど重くない)をチャキッと鳴らしてみせた。


「なんだぁ? この嬢ちゃんとボウズが片付けたのか? ……へへっ、いい腕じゃねぇか。特にボウズ。お前強いだろ?」


 サブはニヤリと笑い、ルナの前に立つ。

 そして、精一杯の「兄貴風」を吹かせた。


「お前ら、宿も食い扶持もねぇんだろ? ちょうど良かった。俺はサブ、燕会の……まぁ、将来の幹部候補よ。気に入ったぜ。俺の舎弟になれ。この街での歩き方を教えてやる」


「舎弟……?」


「ああ。お前らみてぇな逸材を野放しにするのは街の損失だ。手っ取り早く名前を売りてぇなら、いい場所があるぜ。……俺が推薦してやる」


 サブが差し出したのは、古びた電子チップ。


「燕会主催の『地下格闘場』だ。俺の舎弟として出場し、勝てば燕会でも一目置かれるぜぇ。……どうだ? その腕、腐らせるには勿体ねぇだろ?」


 ルナはワクと顔を見合わせた。

 エマの警告は続いているが、燕会の深部へ入り込むには、この「お人好しのチンピラ」に乗るのが一番の近道に思えた。


「……いいわ。案内してもらえるかしら、サブさん」


「ちげぇだろ!兄貴だ、兄貴!」


「「サブの兄貴!」」


「おう、任せとけ! 俺についてくりゃ、間違いねぇからよ!」


 サブは細い胸を張り、意気揚々と歩き出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ