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CODE: SILVER -世界を解く瞳-  作者: GODS04


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6/6

第6章:機械仕掛けの優等生

第6章【前書き】

「偏差値を上げる」

そんなありふれた親心から、佳乃が放り込まれたのは異様な学習塾でした。


笑顔のない子供たち。

「肉体は不自由」と語り、自ら線路へ踏み出す少年。

そして始まる、脳への直接的な「インストール」。


第5章の伏線が繋がり、物語は一気にシリアスな展開へと加速します。


◆ 2031年・偏差値という名の病


「……パパ、これ何?」


数日前の夜。蓮水家のリビングで、佳乃(9歳)はテーブルに置かれた一枚のパンフレットを指差した。

そこには、清潔感あふれる真っ白な教室と、笑顔のない子供たちの写真。そして『君の脳をアップデートする』というキャッチコピーが踊っていた。


「『ミネルヴァ・アカデミー』や。今、お受験ママたちの間で話題沸騰中の超エリート塾やで!」


父・春雄が得意げに言う。


「最近の佳乃、学校の勉強がつまらんそうやろ? 授業中に先生のパソコンのパスワード解析して遊んでるって聞いて、パパ冷や汗止まらんかったわ。」


「だって、先生の授業、遅いんだもん。教科書読むより、サーバーのログ読んでる方が面白い。」


「それがアカンねん! ……で、ここなら佳乃の天才的な頭脳も満足できるんちゃうかと思ってな。……今度の日曜、体験入学予約したからな!」


佳乃はパンフレットをパラパラとめくった。

最新のタブレット学習、AIによる個別指導、そして驚異的な進学実績。

一見すると、ただのハイテクな塾だ。


しかし、佳乃の目が一点で止まった。

写真に写っている生徒たちの目が、誰一人として笑っていない。

カメラの方を見てすらいない。ただ、虚空を見つめ続けている。

それは以前、暴走バスの事件で見かけた「狂信的なコード」と同じ、冷たい匂いがした。


(……気持ち悪い。)


直感が警告を発した。

だが、同時に好奇心も疼いた。この「違和感」の正体は何なのか。


「……わかった。行ってあげる。」


佳乃はパンフレットの生徒の写真を指でなぞった。

その顔には、まるで「精巧に作られた人形」のような冷たさが張り付いていた。


◆ 解脱への一歩


そして、日曜日。

佳乃が体験入学へ向かっているのと同時刻。都内の総合病院。


「……どうして……どうしてあんなことを……!」


集中治療室の前で、母親が泣き崩れていた。

真田剛志は、重苦しい顔で医師の話を聞いていた。


「……命に別状はありません。ですが……動機が不可解です。」


搬送されたのは、10歳の少年。

彼は今朝、駅のホームから線路に飛び降りた。

それも、発作的にではない。リュックをきちんと揃えて置き、何かに祈るように手を合わせ、静かに一歩を踏み出したという。


「本人が目覚めました。……ですが、言っていることの意味が分かりません。」


医師に促され、真田は病室に入った。

ベッドの上で、少年は点滴を受けながら天井を見つめていた。

恐怖も、後悔も、痛みすら感じていないような、恍惚とした無表情。


「……警察だ。少し話を聞けるか?」


真田が尋ねると、少年はゆっくりと首を動かした。


「……失敗しました。まだ、うつわが壊れませんでした。」


「え?」


「肉体というハードウェアは、あまりに不自由です。……思考のボトルネックになっています。」


真田の背筋に、冷たいものが走る。

これは自殺志願者の言葉ではない。まるで狂信者の祈りだ。


「なぜ飛び込んだ? 何か辛いことでもあったのか?」


「辛い? ……違います。僕は『進化』しようとしたんです。先生は言いました。肉体というジャンク(ガラクタ)を捨てれば、僕たちは『大いなる意志クラウド』と一つになれると。」


「……なんだと?」


肉体を捨てて、意識だけの存在になる。

10歳の子供が、そんなカルトじみた思想に取り憑かれている。

真田は少年の枕元にあった、見慣れないロゴの入った通学バッグに目を留めた。


『Minerva Academyミネルヴァ・アカデミー


その瞬間、真田の脳裏に、数日前の春雄の浮かれた声が蘇った。

『真田さん! 今度の日曜、娘を話題のミネルヴァ・アカデミーに行かせるんですわ!』


(……まさか。)


嫌な汗が流れる。

この少年と同じ教育を、今まさに佳乃が受けに行っている?


「……お前、この塾で何を教わった?」


「……真理です。個を捨て、全体の一部となる喜びを……」


少年はうっとりと笑った。

その笑顔は、人間のものではなく、壊れた聖人のようだった。


「……クソッ!」


真田は慌ててポケットから端末を取り出した。

間に合え。まだ「授業」が始まっていなければいいが。


真田は祈るような気持ちで、メッセージを打ち込んだ。


《おっさん:おい佳乃、今どこだ?》


◆ 白い箱庭


同時刻。港区の一等地にあるビル。

『ミネルヴァ・アカデミー』の体験入学教室に、佳乃の姿があった。


「ようこそ、蓮水さん。今日から君も、選ばれた知性の一員だ。」


白衣を着た講師が、抑揚のない声で迎える。

教室は真っ白だった。壁も、机も、床も。

窓はなく、天井からのLED照明が影のない均一な光を落としている。


(……病院みたい。)


佳乃は指定された席に座った。

周りには20人ほどの子供たち。全員が9歳か10歳くらいだ。

しかし、私語は一切ない。

休み時間のはずなのに、全員が背筋を伸ばし、配られたタブレット端末を凝視している。


「……ねえ。」


佳乃は隣の席の少年に話しかけた。

名前はケイヤ。名札にそう書いてある。


「……。」


反応がない。

彼は瞬きもせず、画面上の数式を処理し続けている。


「ねえってば。これ、何やってるの?」


佳乃が指先で彼の机をコツンと叩くと、ケイヤはゆっくりとこちらを向いた。


「……雑談はジャンク(ゴミ)です。意識の統合を阻害します。」


「は? 何それ。ロボットごっこ?」


「僕はロボットではありません。……僕は、大いなる意志の一部になるための準備をしています。」


ケイヤの瞳は、吸い込まれそうなほど深い黒色だった。

そこに「子供らしい好奇心」や「感情」の光は一切ない。

あるのは、植え付けられた信仰の輝きだけだ。


「君も早く接続してください。……遅れると、魂が置いていかれますよ。」


その時、チャイムが鳴った。

講師が教壇に立つ。


「では、『接続』を開始します。タブレットの光を直視してください。」


教室中の生徒が一斉にタブレットを持ち上げ、顔の前に掲げた。

佳乃も仕方なくそれに倣う。


画面が起動する。

そこに表示されたのは、学習アプリ……ではなかった。


『loading...』


幾何学模様が、高速で点滅を始める。

赤、青、白、黒。

激しい光の明滅が、網膜を焼き、脳の奥を直接叩くような感覚。


「うっ……!」


佳乃は思わず目を逸らした。

気持ち悪い。乗り物酔いのような、強烈な不快感。

だが、周りの子供たちは微動だにせず、その光を見つめ続けている。


(……何これ。これ、勉強じゃない。)


佳乃のハッカーとしての直感が告げていた。

これは、プログラムのインストールだ。

人間の脳というハードウェアに、別のOSを強制的に書き込むための儀式。


『――現在、みなさんを最適化しています。肉体の感覚を捨てなさい。』


タブレットから、合成音声が流れる。

その時、佳乃のポケットの中で、通信端末が小さく震えた。

真田からの着信だ。


佳乃は薄れる意識の中で、机の下でこっそりと端末を開いた。

そこには、いつもは素っ気ない真田からの、珍しく焦った様子のメッセージがあった。


(……おっさん……勘、良すぎ……)


佳乃は震える指で、短く返信を打った。


《佳乃:……塾。》

《佳乃:でも、ここ……勉強を教える塾じゃないかも。》


顔を上げると、隣のケイヤが、光る画面を見つめながら、一筋の涙を流していた。

表情は無いまま。ただ、生理現象として涙だけが溢れている。


「……ケイヤ?」


「……僕の心……ジャンクだ……消えろ……」


ケイヤが小さく呟く。

その光景を見て、佳乃は確信した。

ここは学校ではない。

かつてバス事故で見た、あの狂った信仰者たちの、「心」を殺すための処刑場だ。


第6章・完


第6章【あと書き】

お読みいただきありがとうございます!


「肉体はジャンク」「大いなる意志」。

ただの進学塾だと思っていた場所は、カルトの実験場でした。

子供たちの感情を削除し、クラウドの一部にしようとする恐るべき思想。


真田刑事が異変に気づきましたが、佳乃はすでに「接続」されてしまいました。

彼女の脳は、この洗脳攻撃に耐えられるのか。


もし「続きが気になる!」「真田刑事間に合ってくれ!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいね!をいただけると執筆の励みになります。

本編『ECHO』の方も、引き続きよろしくお願いいたします!


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