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CODE: SILVER -世界を解く瞳-  作者: GODS04


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第5章:茶色い宝石と、暴走する箱庭

第5章【前書き】

前回、刑事・真田と「共犯関係」を結んだ佳乃。

今回は、彼女が初めて「庶民の味」を知るエピソードです。


牛丼屋で起きる事件と、そこで交錯する運命。

本編『ECHO』の根幹に関わる、最大の皮肉が描かれます。


◆ 2030年・牛丼屋の洗礼


「……茶色い。」


横浜駅西口、チェーンの牛丼屋『吉野家』。

オレンジ色の看板をくぐり、U字型のカウンター席にちょこんと座った佳乃(8歳)は、目の前に置かれた「特盛つゆだく」を凝視していた。


「文句言うな。これが日本を支える労働者のガソリンだ。」


隣で真田が紅生姜を山のように盛りながら言う。


「ほら、食ってみろ。冷めるぞ。」


佳乃は恐る恐るスプーン(子供用)ですくい、口に運んだ。

甘辛いタレ、脂の乗った肉、汁を吸った米。

蓮水家の専属シェフが作る繊細な料理とは対極にある、暴力的で、濃厚な味。


「……ん。」


佳乃の目が少し見開かれた。


「……どうだ?」


「……ギルティ(有罪)。」


「は?」


「体に悪そうな味がする。……でも、脳が喜んでる。」


佳乃は猛烈な勢いでスプーンを動かし始めた。

どうやら気に入ったらしい。

真田はニヤリと笑い、自分の丼をかきこんだ。


「だろ? 高級フレンチもいいが、人間たまにはこういう『ジャンク』が必要なんだよ。」


「……ジャンク。」


佳乃はその響きを噛み締めるように呟いた。

完璧に管理された日常にはない、雑多で、安っぽくて、でも熱い何か。


平和な食事風景。

しかし、その時間は店の壁面モニターから流れたニュース速報によって破られた。


『――ニュースです。現在、みなとみらい地区の自動運転バスが制御不能となり、暴走しています!』


◆ 暴走する箱庭


モニターには、最新鋭のAIバスが猛スピードで交差点を直進していく映像が映し出されていた。

警察車両が追跡するが、バスは巧みに進路を変え、まるで意志を持っているかのようにバリケードを突破していく。


「おいおい、またバグか? スマートシティ構想も前途多難だな。」


客たちが呑気に噂話をする中、真田の目つきが変わった。


「……場所はD地区。おい、あのバスのルート……」


真田は懐から警察無線(と偽装したタブレット)を取り出した。


「佳乃。……デザートの時間だ。」


「……まだお肉残ってる。」


「後で追加してやる! 貸せ!」


真田は自分のタブレットを佳乃の前にスライドさせた。

佳乃はモグモグと肉を頬張りながら、油で汚れていない左手の小指一本で画面に触れた。


「……アクセス、承認。」


一瞬で画面が切り替わる。

表示されたのは、暴走バスの制御システム内部。


「……変なの。」


佳乃が眉をひそめた。


「どうした? ハッキングか?」


「うん。でも、殺すつもりじゃないみたい。

……このバス、事故に見せかけて『連れ去る』つもりだよ。」


「連れ去るだと?」


「ルートが書き換えられてる。このまま海沿いの倉庫街……使われてない『第3埠頭』に向かってる。」


真田が舌打ちをした。

そのエリアは、最近ある新興宗教団体が非公式に集会を行っている場所だ。

彼らは「科学と信仰の融合」を掲げ、信者を集めている危険な集団だった。


「ターゲットは……『3列目右側の男性』。」


佳乃が指差した座席情報。

真田が素早く手元の資料と照合する。

そこに座っているのは、まだ20代前半の若者。国立脳科学研究所の若き天才研究者だ。


「……奴か。最近、『脳の潜在能力を解放する』とかいうトンデモ論文を書いて学会で干されかけてる若造だ。」


「……その論文、あの宗教団体が欲しがってるのかも。」


真田が推理する。

拉致して、その頭脳を「教義(奇跡)」の証明に使わせる気だ。


◆ ジャンクな正義


「佳乃! 止められるか!?」


「……やってみる。でも、相手もしつこい。」


佳乃はスプーンを置き、両手で画面を叩き始めた。

敵のハッカーは相当な腕利きだ。

佳乃がセキュリティホールを塞いでも、すぐに別のルートから侵食してくる。


「……粘着質。しつこくて、重たいコード。」


佳乃は不快そうに呟く。

敵の実力は、佳乃や、後に出会うミカゲほどではない。

だが、そのコードには狂信的な執念が込められていた。


「……でも、構造が古い。」


佳乃の碧眼が、敵の論理矛盾を見抜く。


「……そこ。右折信号の処理と、エンジンの出力計算、ズレてる。」


佳乃の指が加速する。

正面から力で押し返すのではなく、敵のコードの隙間に、ほんの数行の「ノイズ(ジャンクデータ)」を流し込んだ。


『システムエラー発生。安全装置、強制起動』


キキキキキッ!!


モニターの中で、バスが急ブレーキをかけた。

宗教団体の待ち伏せ地点まであと数百メートルという場所で、バスは煙を上げて停止した。


『止まった……! バスが止まりました!』


アナウンサーが絶叫する。

店内から「おおーっ!」と歓声が上がる。


◆ 最大の皮肉


「ふぅ……。ごちそうさま。」


佳乃はタブレットを真田に返した。


「よくやった。……流石だ。」


真田は安堵の息を漏らすと同時に、どこかへ電話をかけ、公安の実働部隊を現場へ急行させた。

カルト教団の企みは阻止された。若き天才科学者の身柄は、無事に警察が保護するだろう。


「……おっさん。」


「ん?」


「あのバスに乗ってた人、助けてよかったの?」


佳乃がふと、不思議そうな顔で尋ねた。


「当たり前だろ。人の命だぞ。」


「……そっか。なんか、あの人の周りだけ、未来のデータが真っ黒に見えた気がしたから。」


「考えすぎだ。天才ってのは大抵、凡人には理解できない色をしてるもんさ。」


真田は笑い飛ばした。

この時、真田も佳乃も知る由もなかった。


今日、佳乃がその指先で救った若き科学者こそが、後に「結城」と名乗り、記憶改訂技術を完成させ、佳乃たちの人生を狂わせる最大の敵になる男だということを。


「……すいません、牛丼並、追加で。」


真田の声が響く。

佳乃は追加された牛丼を見つめた。

ジャンクで、安っぽくて、中毒性のある味。

それはまるで、これから彼女たちが足を踏み入れる「善悪の区別がつかない世界」の味のようだった。


第5章・完


第5章【あと書き】

お読みいただきありがとうございます!


佳乃の「ギルティ」な牛丼デビュー、そして最大の伏線回でした。

まさかここで助けた相手が、将来のラスボス(結城)だったとは……。

真田刑事が良かれと思ってやったことが、結果として『ECHO』の悲劇を招いてしまう。運命とは残酷です。


もし「展開が熱い!」「伏線回収が楽しみ!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいね!をいただけると執筆の励みになります。

本編『ECHO』の方も、引き続きよろしくお願いいたします!


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