第3章:フレームの向こう側
第3章【前書き】
父、母と続き、今回の犠牲者(?)は兄の柊。
時は2030年、佳乃は8歳、柊は15歳になっています。
FPS界の「絶対王者」と呼ばれた兄が、妹の「異能」の前に敗北する瞬間。
ゲーマーなら誰もが戦慄する、最強の幼女爆誕の回です。
◆ 2030年・15歳の絶対王者
「……よし、そこだ。もらった!」
日曜日の午後。リビングには重低音の銃声と、キーボードを叩く激しい音が響いていた。
兄・柊(15歳)は、7つのモニターに囲まれていた。
彼は今、世界的に流行しているFPS(一人称視点シューティング)ゲーム『バレット・ワルツ』の、国内大会決勝戦を戦っていた。
対戦相手は、プロチームのトップランカーたち。
「うおおお! 柊くん、まさかの3人抜き! 反応速度が人間じゃねえ!」
実況の声がヘッドセットから漏れる。
柊の操作は神がかっていた。
敵が飛び出してくる0.1秒前に照準を合わせ、正確無比なヘッドショットを決める。
彼は「天才ゲーマー」として、すでに業界でその名を轟かせていた。
「……あと一人。これで優勝だ。」
柊の額に汗が滲む。
残る敵は、世界ランク1位のスナイパー『NO_FACE』。
遮蔽物の多い廃墟マップでの1対1。緊張が走る。
◆ 8歳の観戦者
「……お兄ちゃん、右。」
ソファでポテトチップスを食べていた佳乃(8歳)が、退屈そうに呟いた。
「え?」
柊が一瞬反応した直後、右の壁から弾丸が飛んできた。
間一髪で回避する。
「……マジか。ありがとう佳乃。お前、勘がいいな。」
柊は体勢を立て直すが、敵の位置が掴めない。
相手は「ステルス迷彩」のスキルを使っており、視覚的には完全に透明化していた。
音と、わずかな空間の歪みだけで居場所を特定しなければならない、超高難度の局面。
「……どこだ。足音もしない……」
柊は神経を研ぎ澄ませる。
プロである彼でさえ、相手の気配を完全にロストしていた。
このままでは、時間切れか、不意打ちで負ける。
しかし、佳乃には見えていた。
彼女の碧眼には、煌びやかなグラフィックではなく、その裏にある「ワイヤーフレーム」と「データ通信のラグ」が映っていた。
(……そこ。サーバーの座標データ、バグってる。)
佳乃はポテチの袋を置くと、スッと柊の膝元に近づいた。
「……貸して。」
「えっ、おい佳乃! 今は大会中だって――」
佳乃は柊の手からコントローラーを奪い取ると、画面も見ずに操作を始めた。
◆ 0フレームの狙撃
佳乃の操作は、常軌を逸していた。
彼女は敵を探してカメラを動かすことをしなかった。
いきなりキャラクターを真上――何もない空へ向けてジャンプさせ、空中で180度回転。
そして、誰もいないはずのコンクリートの壁に向かって、スナイパーライフルを一発だけ撃った。
『ズドン!!』
銃声が轟く。
柊が「あちゃー、暴発か」と思った瞬間。
画面に《VICTORY》の文字が躍った。
「…………は?」
柊が固まる。
実況アナウンサーが絶叫する。
「な、なんとぉぉぉ! 壁抜きヘッドショットぉぉ!?
見えない敵を!? しかも遮蔽物越しに!?
これは奇跡か!? それともチートかぁぁぁ!!」
リプレイ映像が流れる。
佳乃が撃った弾丸は、壁のわずかな隙間(ポリゴンの継ぎ目)を貫通し、その裏で隠れていた透明な敵の頭を正確に撃ち抜いていた。
「……嘘だろ。見えてたのか?」
柊が震える声で尋ねる。
佳乃はコントローラーを返しながら、淡々と言った。
「見えてないよ。」
「だよな! じゃあなんで……」
「計算したの。
今のサーバーの遅延値と、相手の通信パケットの揺らぎから、座標を逆算しただけ。
……あそこの壁、プログラムの継ぎ目が0.01ミリ開いてるから、そこを通した。」
「…………。」
柊は口を開けたまま、妹を見下ろした。
自分は「反射神経」と「経験」で戦っている。
だが、この妹は「物理法則」そのものを支配して戦っている。
勝てるわけがない。
◆ 最強の妹
「……ははっ。」
柊は乾いた笑い声を上げ、佳乃の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「お前には敵わねえよ、佳乃。
俺が『eスポーツの王子様』なら、お前は『デジタルの魔女』だな。」
「……魔女はいや。魔法少女がいい。」
「生意気言うな。……でも、ありがとうな。賞金の焼肉、特上にしてやるよ。」
「ん。タン塩追加で。」
佳乃はまたポテトチップスの袋に手を伸ばした。
世界ランク1位を倒した興奮など微塵もない。彼女にとっては、ただの「計算間違いの修正」に過ぎなかったのだ。
モニターの向こうでは、世界中のゲーマーたちが「今のショットは何だ!?」と騒然としている。
しかし、その正体が日本のリビングでくつろぐ8歳の少女であることを、まだ誰も知らない。
春雄と蓮に続き、兄・柊もまた、この日「敗北」を知った。
けれど、その顔はどこか誇らしげだった。
(俺の妹は、世界一だ。)
第3章・完
第3章【あと書き】
お読みいただきありがとうございます!
パケットの揺らぎから座標を逆算して壁抜きする8歳児……。
FPSプレイヤーからしたら、一番敵に回したくないタイプですね(笑)。
兄の柊くんも相当な実力者ですが、佳乃の見てる世界が違いすぎました。
でも、そんな妹を「すげぇ」と認められる柊くんも、やっぱりいいお兄ちゃんです。
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本編『ECHO』の方も、引き続きよろしくお願いいたします!




